再生可能エネルギーで脱炭素文明を目指すビジョン競争が始まった

中国のエネルギー研究所が「2050年に電力の85%」を再生可能エネルギーでまかなうことを目指すシナリオを発表した。このシナリオに代表されるように、新興国・途上国で「再エネへの突進」が起こりつつある。この潮流はこれまでの温暖化交渉の本質をどのように変質させるのだろうか。

1. 中国を「美しい国」にするシナリオ

中国の国家発展改革委員会(NDRC)に属するエネルギー研究所(RIE)と能源基金会は2015年4月米国ワシントンDCで革新的なビジョン「中国2050年再生可能エネルギー大量普及シナリオとロードマップ調査」を発表した。中国は今後、太陽光や風力などの再生可能エネルギー(以下再エネ)の強力な導入を図り2050年にはエネルギーの60%、電力の85%を再エネでまかなうというのだ[1]。2030年には電力の53%を再エネにするという計画だ。このシナリオにおける2050年の電力ミックスは以下の通りである。なお、ここでは原子力を1億kWに仮置きするとされている。

注目すべき点

中国の国家当局がこの規模の野心的な長期エネルギー・シナリオを公表したことは初めてだ。注目すべき点は下記の通り。

 まずなによりも、目的を設定し、それに合致した政策を実行するというアプローチを採用している。目標は「美しい中国」を建設し、人間と自然が共存できる社会を作ることだと明言している。その関連で、電力を重視すると主張している。電力が人間の文明のために重要だとその理由を説明している。そして、電力の大部分を非化石燃料でまかなうと宣言し、特に風力と太陽光が決定的な電力だと規定し、中国は風力と太陽光の分野で世界のリーダーを目指すと述べている。このため、制度的な改革が必要で、2025年までに電力市場をつくり、公平な再エネの活用を図ると述べている。

技術面では再エネの不定期性や間欠性等はIT技術、蓄電技術、デマンド・レスポンス等々を充実させることで十分対応できると論じている。最も重要な点は、この再エネ85%計画はわずかな追加コストで実現できると分析し、膨大な雇用を新規に創出でき、石炭がもたらす負の社会コストを算入するとはるかに経済的に実現できると論じている。

2. 再エネの価格破壊の衝撃

今回の中国の有力なエネルギー研究所のシナリオは途上国において澎湃として起きている「再エネへの突進」(これは筆者の造語。Dash to renewable energies)の代表例になるだろう。

途上国は再エネを着々と導入しはじめている。その中心的機関が「国連持続エネルギー計画(Sustainable Energy for All (SE4All))」である。例えば、アフリカでは太陽光などの分散電力で農村電化に邁進している。コフィ・アナン元国連事務総長がThe African Progress Panelという運動を開始し、従来の集中電力でなく分散電力で最少のインフラ投資でアフリカ中に電力を確保しようとしている。UNEPや世銀、アフリカ開銀等多数の機関がアフリカでの再エネの大量導入に向けて集中的に資源を動員している。こういう大規模な運動を背景に2015年6月のドイツでのG7サミットでは特別にアフリカの再エネによる電化を支援する重要な1項目が入っている[2]

中東でも驚くべき変化が起きている。サウジアラビアは再エネでグローバルな指導国になると宣言し、大規模な投資を開始した。サウジアラビアは太陽光の輸出国を目指している[3]。アジア、南米その他の地域でも再エネの導入強化は進んでいる。バングラデッシュではモハメッド・ユヌス氏(マイクロ融資で貧困撲滅に貢献しノーベル平和賞を受賞)が太陽光パネルで農村を電化する大規模な運動をはじめた。今や同国は世界最初の「100%再エネ国家」[4]を目指しいて、1分間に2軒の勢いでパネルが設置されている。

再エネ価格破壊がカギ

再エネへの突進はもちろん先進国でも進行中だ。こういう展開をもたらした最大の要因は再エネの価格の急激な低下である。この点については日々新しい文献が多数発表されている。もっとも顕著なものは2014年8月、世界トップの投資銀行であるUBSとシティ・グループは別々に、太陽光発電を軸とする再エネが急速な価格低下をもたらし、エネルギー革命が起きつつあると発表した[5]。投資家に対して大型集中発電装置は恐竜のように早晩死滅するので、新しいエネルギー革命に乗り換えるべきだと論じた[6]。世界的な名門投資銀行であるラザード(Lazard)は共通基準エネルギー原価(LCOE)を2008年以来継続して計測した結果、太陽光などの再エネ価格が劇的に低下し続けていて、今や補助金なしに従来型の大規模発電と競争できるまでになっていることを詳細に報じている[7]

最新の世界銀行総裁の論文では次のグラフが使われている。同総裁は世界の大部分の地域で再エネは従来型火力発電に対して価格競争力を持っていると述べている。日本では依然として再エネは高価だという議論が盛んだが、日本の特殊事情を云々している間に、世界では大幅な価格破壊が進行中だ。

“Tackling Climate Change” March 27, 2015.

Tackling Climate Change” March 27, 2015.

3. COP交渉の変質

実はこの再エネの価格破壊が温暖化防止の国際交渉に変化を与えている。フィゲレス国連気候変動事務局長は最近こう述べている[8]

「…太陽光パネルは2009年以来価格が80%下落し、性能は40%向上した。この結果最低でも60か国では太陽光は他の電源よりも安くなっていて、これが、2009年のコペンハーゲンの交渉の失敗から世界が立ち直り、パリに向けて協議が進捗している理由だ」

これはどういうことか?今回のパリでのCOPを含め、国連交渉はこれまで炭素予算をどれだけ確保するかの競争であった[9]。歴史責任論によって先進国は率先して化石燃料の消費を減らし、排出を減らす必要があった。一方、途上国は先進国に先ず十分な削減を要求し、自分たちにも十分な炭素予算を確保しようとしている。しかもこれを「2℃を実現する全球炭素予算」[10]の枠内で実現しなければならないので、交渉は主権国家間の大きな利害対立で紛糾した。

重要なことは十分な炭素予算を確保することが途上国の至上命題だった点である。それは近代化と生活水準の向上に直結する絶対的条件だとされてきた。化石燃料を燃焼し、基礎的エネルギーを国民に提供し、産業をおこし、生活水準を向上させなければ途上国の将来はないというのがこれまでの支配的な観念であった。

しかし、再エネが大幅にそして急速に安価になってくると、再エネを導入すれば国民に電力のかたちで基礎的エネルギーを提供し、生産を支えることが可能になる。かくして多くの途上国は「化石燃料時代」に向かう必要はなくなった。彼らは「再エネ時代」に向かい始めた。つまり「途上国の蛙飛び(leapfrogging)」がはじまったのだ。化石燃料を燃焼しなければ生活水準の向上はないという思考は急速に色褪せた。

温暖化交渉の変質:削減義務の分担から機会を掴まえる競争へ

こうなると温暖化交渉自体が変質する可能性がある。途上国にとって炭素予算を十分確保することは今までのようには重要ではなくなるだろう。元々、途上国は先進国の化石燃料の大量燃焼の結果生まれた地球温暖化の被害を最も強く受けてきた。だから今度は自分たちが化石燃料をたくさん燃焼し、温暖化を加速するというのは矛盾した行為なのだ。再エネがこれだけ低廉になり、同時に系統制御システムが安価になれば多くの途上国は化石燃料への関心を低下させるだろう。今や途上国の成長に「機会」を提供するものは炭素予算ではなく再エネなのだ。

一方、前記の通り先進国にとっては炭素予算を減らすのは「負荷」だったから限界削減費用の均等などという話が一部で論じられてきた。しかし、先進国も再エネの価格破壊の恩恵を受けるので、どの国も他国をさしおいても再エネを導入した方が得だという時代になった。限界削減費用などに拘泥する時代ではなくなった。どうやって再エネを他国に先んじて大量導入するかが重要になってきた。

2℃は実現しないという固定観念を打破する動き

再エネがもたらすこの大きな変化はさらに重要な意識改革を迫っている。日本などで特に顕著であった従来の発想では、インドや中国などの大国、インドネシアなどの東南アジア諸国が大規模な人口を抱えて、先進国並みの産業化、工業化を実現するのだから、彼らが化石燃料を大量に燃焼することは不可避だ…。いくら先進国が排出を削減しても温暖化防止は出来やしない…。こういう思考だった。それが温暖化交渉への消極的姿勢につながっていた。それが日本自身の野心的行動を阻害していたし、野心的になろうとすると「夢や希望」で物事を見てはならないという批判があった。

しかし、現実は何か?途上国や新興国の成長に化石燃料の燃焼は不可欠だというテーゼは弱まった。中国は2030年以前にCO2の排出を逓減軌道にもっていくと約束した。さらに2050年には電力の85%を再エネでまかなうといいはじめた。その他の大型の新興国はおおむね中国の再エネ路線に追随していくだろうから、彼らが先進工業国並みにCO2を排出するから2℃は実現しないという想定は現実性を失いはじめた。

技術革新がカギ、しかし本当か?

さらに、日本で盛んに行われているもう一つの議論も色褪せてきている。それは技術革新がなければこの問題は解決しないという議論だ。2℃の実現などという夢のようなことを議論するよりも技術革新への投資をした方が賢明だという議論だ。しかし、技術はすでに存在しているというのが世界的な考え方だ[11]。技術がないので2℃実現は不可能だとする議論は世界ではおこなわれていない。多くの専門家が指摘する通り、「再エネ技術の広範な体系」というかたちで2℃を実現する技術の中核はすでに存在している。しかも、その価格が急激にかつ大幅に安価になってきている。だから今回の中国のシナリオでも「さしたる追加費用なしに実現できる」と述べている[12]。「ビジョンより技術だ」というのではなく、「技術はすでにある、ビジョンを決め、技術をさらに進化させよう」という姿勢の方が、説得力があるだろう。

4. 新しいゲームを発想するべき時

最近、国際社会では「ネット・ゼロ」[13]を2050年とか2075年とかに実現しようとする強い世論が台頭してきた。IPCC第5次評価報告書にしたがえば当然のことだ。温暖化を2℃でくい止めようとしたら、化石燃料の使用を一定の期限内にゼロにしなければならい。現行制度では、5〜10年程度の短期の削減量がすべてであり、長期を見ていない。長期を展望しない短期削減方式はほとんど合目的的でない。それに、どうせやるなら2℃等を確実に実現するべきだという当然の常識が「ネット・ゼロ」への支持に繋がっている。この意識は特に世界のビジネス指導層で強まっている[14]

多くの人々にとっては信じ難いことだが、世界は2℃実現のために膨大な石油の埋蔵資源はこのまま地下にとどめ置かねばならないと論じはじめている。世界では巨大機関投資家、大学の基金、大金融機関などは投資先を化石燃料関連資本から転換する議論をしている[15]。エクソン・モービルは、先進国は確かに脱炭素に向かうが途上国は化石燃料に依存し続けるという見通しの下で近年膨大なインフラ投資をしたが、途上国も脱炭素に向かっているため、対応に追われているとされている[16]。巨大石油資本もこの世界の議論に超然とはしていないのだ。

2015年6月のG7サミットでも「世界経済の脱炭素化」という概念[17]が受け入れられたが、これも再エネが安価になったことに合わせ、どうせやるなら確実に2℃を実現しようという国際世論を背景としているからだ。

脱炭素化の競争をするべきだ

再エネの大量導入によってどの国も脱炭素化が視野に入ってきた以上、国際協力は新しい方式でやるべきだ。それにどうせやるなら確実に目的を実現する仕組みでやるべきだ。元々世界の180国余りの国の内、150か国は微細なCO2排出国である。これらの国々がこれから化石燃料をドンドン燃焼していくという想定は非現実的だ。これらの国は先進国などの支援を得て、早晩再エネの大量導入でCO2の排出をゼロにし、エネルギー貧困を克服できるだろう。

残る問題は約30か国の先進国・新興国グループだ。これらの国々でも「再エネへの突進」がはじまっている。こういう時代において歴史責任原則で国別排出量を削減し、負担の大小を巡って国家間で喧嘩腰の交渉をするようなゲームはもはや無意味である。それに新興国の排出が急増している今日、歴史責任論では温暖化問題を解決はできない。それに元々そういう短期の排出管理で2℃実現は確実にならないのだ。従ってどの国も自国のエネルギー体系を再エネに置き換える競争をした方がよほど賢明だ。つまり各国は「ネット・ゼロ」を科学が提示する期限内に自分の国で実現するというゲームに変更するべきなのだ[18]

この方式では国別に削減量を他国との相対関係で負担するのではなく、自分の排出量に責任を持ち、それをネットでゼロにするものだ。要するに「自己責任」で汚染処理するということだ。自分の排出を自分の手でゼロにするというゲームなら、はじめて国と国民は「脱炭素政策」にオーナーシップを持てることになる。その上、ネット・ゼロの方式は経済的にも合理性がある。各国は自国の成長政策、雇用政策、革新技術導入政策などに配慮して長期的で柔軟な脱炭素政策、すなわち再エネ導入計画を立案できる。エネルギー・システムを再エネに置き換える作業を国の経済情勢や経済条件に合致したかたちで立案できる。現行の5〜10年ごとに部分的な削減量を約束し、「諸外国に較べ遜色がない」かどうかに気を揉むよりはるかに合理的だし賢明だ。明らかにより良い資源の配分が実現するだろう。

ネット・ゼロ方式は理屈が通っているし、再エネの価格破壊によって脱炭素化を実現し2℃を実現できる可能性が増える。だから国連の交渉の場で支持者を増やしている。2015年末のパリでのCOP交渉の草案にもこの方式が含まれている。すでに貧困国を含め60か国近くが支持しているとされている。日本も根本的に展望を変え、再エネ導入の新競争にまい進し、勝利するべきだ。この方が日本経済にとって最も有利な方式だろう。

化石燃料は市場で捌くべきだ

それでは化石燃料はどうするのか? 再エネへの突進が「主役」として進行するにしても化石燃料の燃焼は「わき役」として続行していく。ただし、無限に化石燃料が燃焼されてはならない。2℃を実現する限度内でしか燃焼できないのだ。

結論的には化石燃料は市場の裁量に任せるべきだ。なぜか?従来の方式では化石燃料を誰がどれだけ燃焼できるかは交渉で決まった。先進国の歴史的責任論等が絡まって困難な交渉で決められてきた。しかし、今や主役は再エネである。わき役になった炭素予算をどの国がどれだけ燃焼できるか等という問題に政府が本当に関与しなければならないのか? 炭素予算の分配は国家主権の問題ではないという空気が早晩生まれてくるだろう。

それに、この方式は管理経済なのだ。「2℃実現用の炭素予算」という有限資源を特別扱いして、その国別使用量を国際会議で決めるなどというのは管理経済方式だ。こういうことを本当に2030年とか2050年までやるのかという大きな疑問がある。そもそも現在の世界経済では有限資源は国別に分配されてはいない。世界市場で捌かれている。鉄鉱石、鉱物資源、石油等がその例だ。その方が効率的だし、当該資源から生み出される付加価値は最大化するからだ。

現在、先進国であれ、貧困国であれ、利益追求の企業体はすべての有限資源を世界市場で購入し、比較優位を活用して付加価値を生みながら国際競争に打ち勝ち、成長している。だから「2℃実現用の炭素予算」も有限資源の一つとして、市場で捌いても困る国や企業はないだろう。特に今後もそれなりに化石燃料を燃焼していく先進国と新興国の約30か国の企業は必要な炭素予算(排出権)を競争市場で確保するのに難儀をする可能性はまずないだろう。現行の資源管理体制では難儀する企業を保護しているのだ。自由市場で有限資源を捌いた方が、国家間で分配するより企業体質は強化される。効率は問題なく高まる。

どうやるのか?仕組みは簡単だ[19]。政府間会議が「2℃実現用の炭素予算」に所有権を設定し、それを排出権のかたちで化石燃料の上流供給者[20]に売却する。こうすると「2℃実現用の炭素予算」は全球で最大の付加価値を生みながらもっとも効率的に燃焼し尽くされる。完全な環境十全性 (climate integrity) が実現する。

それにもっと重要なことがある。有限資源を市場で捌けば有価になるのだ。「2℃実現用の炭素予算」という有限資源は人類の共有財産だから、世界の政府間会議が所有するべきものだ。そうなると世界の政府間会議はこれを売却して新規の収入を得ることが出来る[21]

現行の制度では全く作り出せないような大規模の資金量を作り出すことが出来る。政府間会議はこの収入を貧困国や途上国の再エネ購入資金に充当できる。世銀などが一定のクライテリアによって資金を途上国などに分配しているのと同じことを政府間会議又はその委任を得て世界銀行自身が行うのだ。

正しい炭素価格

ちなみにこの世界炭素市場で生まれる炭素価格が唯一の正しい炭素価格だ。最近、あらゆる専門家、学者、ビジネスリーダー、政治リーダー、はては石油メジャーにいたるまで炭素価格の設定を要求している[22]。これは世界世論やビジネス リーダーらの「どうせやるなら確実に2℃を実現しよう、そしてどうせやるなら最低コストでやろう」という気持ちを反映している。

本来、炭素価格とは2℃を実現する炭素予算の使用料にほかならないから、全球での化石燃料燃焼需要が2℃実現用の炭素予算を市場で購入する時に生まれる市場価格が唯一の正しい価格である。現在いくつもある国別炭素市場で生まれてきている炭素価格は恣意的で仮定的なパラメーターをもとに生み出している価格であって、2℃目標とは整合性がない。その上、競争上の歪曲を生む危険がある。国別炭素市場をリンクする試みは技術的に大きな困難があり、現在は成功していない。

5. 結論として

現在あらゆる専門家の予測では、再エネはこれからも価格が低下するとされている[23]。今回の中国の再エネの導入シナリオは世界の再エネ価格の「さらに一層の低下」をもたらすだろう。付帯的インフラや制御装置の価格低下が同時に進めば、150カ国あまりの貧困国はもちろんのこと、インドやその他の大排出国、先進国を含む180カ国すべてにおいて再エネの大量導入が現実化するだろう。中国のシナリオはこのように世界を動かす可能性がある。

たしかにIEAの最新の分析は再エネの導入の現状レベルでは2℃実現に整合していないと述べている。しかし、再エネを軸にして2℃を実現しようとするなら明確な政策、炭素市場や規制等を包括して導入する「統合的アプローチ」が必要だとしている[24]。要するに長期的で明快なビジョン、追加的イノベーションを起爆する正しい炭素価格と賢明な誘導政策や規制政策、そういう政策群が一体となった政策体系が必要だと論じているのだ。「ネット・ゼロ」を世界が共有し、正しい炭素価格を設定することはこの統合的アプローチの核心となるだろう。例えば炭素価格の設定に否定的な日本の議論はIEAの示唆にきちんと反論するべきだろう。

中国にこの構想の実現を要求するべきもの

今回のNDRCのエネルギー研究所のシナリオは中国政府の公式な政策ではない。しかし、だからといってこのシナリオを過小評価することは危険だ。また数値や方法論を論難することも的外れだ。それよりもむしろ、世界各国と共同して中国にぜひともこれを実行すべきだと要求するべきだ。なぜなら前記の通り、中国の再エネ大量導入は全球での再エネ価格をさらに引き下げるからだ。

今回の発表はNDRCのエネルギー研究所が米国エネルギー省と3年にわたる綿密な共同作業の結果である。中国がこの規模の大転換を指向していることは想像に難くない。なぜなら現在の環境汚染が政権の存在理由に関係しているからだ。その上、途上国の盟主としての自己意識からしても、今後貧困国の困難をかえりみずに化石燃料を燃焼し続けることはできないからだ。当然この規模の大革新はあり得るだろう。その場合、中国は最大の外交効果を狙うに違いない。温暖化問題の解決にもっとも貢献した国として評価されるように段取りを企画するだろう。そして先進国にはより強度な作業、例えばネット・ゼロ等を要求するだろう。

国際世論はどうせやるなら2℃を最低コストで実現しようとしている

国際社会がとるべき正しい選択は、科学の示唆する期間内でネット・ゼロを実現するように、中国・インド等を含むすべての主要排出国が再エネの大規模導入に舵を切ることだ。そして、化石燃料は全球市場で管理し、2℃を超えない範囲で最大付加価値を生み出すように制度を設計し、排出権の売却収入を貧困途上国の再エネ購入費用に充当するべきだ。そして正しい炭素価格が省エネとイノベーションへの投資を起爆するよう「統合的に政策」を進めていくべきだ。

私見ではこれがもっとも費用効率的に脱炭素新文明を作り上げることになる。とにかく、日本においては、(1)隣国の中国で電力の85%を再エネでまかなうという「大規模で骨太なビジョン」が国内で議論されはじめたことと、(2)世界のビジネスがどうせやるなら2℃を確実にかつ最低コストで実現しろ、そのために炭素価格を正しく設定しろと要求していること等にもっと関心を払うべきだ。


(本項はWEBRONZAに2015年06月05日付で掲載の拙稿「中国は2050年に再生エネ電力85%、国連COP交渉はCO2削減競争から再生エネ導入競争へ」をもとに加筆したものである)

[1] “China 2050 High Renewable Energy Penetration Scenario and Roadmap Study” Energy Research Institute and National Development and Reform Commission, April 2015.

[2] Annex to the Leadersʼ Declaration G7 Summit 7-8 June 2015

[3] “At OPEC, some sow seeds of solar energy race in Gulf” Reuters, Jun 4, 2015. “Saudi Arabia: an unlikely ally in the march towards renewable energy” The Guardian, 4 June 2015.

[4] “Bangladesh Aims To Become First Nation 100 Percent Powered By Solar Energy

February 18, 2015

[5] “UBS: Time to join the solar, EV, storage revolution” August 21, 2014.

[6] “Big power out, solar in: UBS urges investors to join Renewables Revolution” August 27, 2014.

[7] “Lazard’s Levelized Cost of Energy Analysis – Version 8.0” September 2014.

[8] ”UN climate chief says technology has changed carbon politics” May 7, 2015.

[9] 炭素予算とはここでは自国が排出できるCO2の量のこと。基準年に100トンのCO2を排出していた国がパリ合意文書で基準年より20%削減すると約束した場合、この国の次期の炭素予算は80トンとなる。成長を阻害しないため、先進国も途上国も炭素予算を十分確保しようとする。

[10] 2℃を実現する全球炭素予算とは、2℃を一定の確率で実現する為に全球で一定期間に排出しても良いCO2の総量の上限のこと。IPCCはこの数値を提示している。

[11] 文献は多数あるが以下はその例。”Feasibility of GHG emissions phase-out by mid-century”. “Governments urged to ensure ‘trillionth tonne’ of carbon is never emitted” April 8, 2014. “Net phase out of global greenhouse gas emissions” February 11, 2015,

[12] 上記NDRCのエネルギー研究所のシナリオ文献の22ページ。

[13]「ネット・ゼロ」とは「脱炭素化」、「ネット・フェーズ・アウト」とか「climate neutrality」等と同義で、科学の示唆に基づき、2050年とか2100年に至る期間内に自国のGHG排出を最終的にゼロにするものである。「ネット」とはゼロにする時点で森林の涵養などでGHGが吸収される分量と同量の排出だけは許されるというものである。

[14] 多くの文献があるが下記はその主なもの。

[15]「「脱化石燃料」は現実味を帯びるか盛り上がるダイベストメント運動に一抹の危惧」江守正多 WEBRONZA, 2015年6月9日.

[16] “4 surprising reasons why clean energy is gaining on fossil fuels” April 16, 2015.

[17] 首脳宣言の該当部分は下記の通り。「我々は,この目標に留意し,最新の IPCC の結果を考慮しつつ,今世紀中の世界経済の脱炭素化のため,世界全体の温室効果ガス排出の大幅な削減が必要であることを強調する。」

[18] ネット・ゼロの主唱者は英国チャタム・ハウスの研究員をしていたFarhana Yamin女史である。彼女の原案ではどの国も2050年までにネット・ゼロ達成を約束し、4年ごとに国際審査をおこない約束の遵守を支援するという発想である。フィゲレスUNFCCC事務局長やグリアOECD事務総長他多くの支持者が世界中にいる。ネット・ゼロの基本文献は、“Possible Elements of a 2015 Legal Agreement on Climate Change” Erik Haites, Farhana Yamin & Niklas Hohne, WORKING PAPERS N°16/2013. IDDRI, 2013. 24 p. また、これらの動きをまとめた拙稿は、「温暖化を封じ込め、エネルギー転換を実現する道:2015年パリ合意を展望して」。「温室ガス削減「ネット・ゼロ」へ」2015年4月22日読売新聞朝刊の論壇11ページも参照。

[19] “A new market-based climate change solution achieving 2°C and equity” これは安本皓信元日本機械工業連合会副会長と筆者の共同提案である。

[20] 化石燃料の上流供給者とは、(1)化石燃料の生産国においては国内出荷者、(2)化石燃料を全面的に輸入している国では輸入者である。要するに一国内で化石燃料が下流経済に供給される時、出荷者と輸入者が当該化石燃料の炭素含有量に該当する排出権を政府当局に提出する仕組みとする。この簡単な手続きで「2℃実現用の炭素予算」以上の化石燃料が燃焼されないことを確保できる。また上流供給者は支払った排出権購入代金(炭素価格)を下流経済に転嫁するので、炭素価格は全世界の経済に組み込まれることになる。

[21] この資源を利用して化石燃料を燃焼し、地球の平均気温を2℃まで上昇させることに貢献すると同時に、そのことで利益や便益や効用を得る者(化石燃料を燃焼する企業とその製品を使うすべての消費者)は大気を汚染する代金を支払うのが当然だ。この仕組みは化石燃料の上流供給者が支払う炭素価格が下流経済に転嫁され、最終的には炭素含有製品を使う消費者が広く薄く負担する仕組みである。鉄鉱石の価格が自動車の価格に含まれていて消費者が最終的に負担するのと同じ仕組みである。有限資源である「2℃実現用の炭素予算」が次第に費消されていくと炭素価格が自動的に上昇する。それが企業と消費者に響いてきて、企業と消費者は化石燃料の消費を止める。このようにして市場と炭素価格が温暖化を防止する。この仕組みは世界中の環境経済学者が一致して推奨する「汚染者負担原則」を実際に適用するものである。

[22] ”Six Oil Majors Say: We Will Act Faster with Stronger Carbon Pricing” Open Letter to UN and Governments, June 1, 2015.

[23] 日本でも再エネ価格引き下げへの研究開発が始動している。「太陽光の発電コストを2030年に7円へ、5年間の技術開発プロジェクトが始動」石田雅也, スマートジャパン 2015年6月8日

[24] Energy Technology Perspectives 2015, IEA