「再エネでネット・ゼロを」は世界の大勢

フランスの場合
2015年8月18日

フランスが2050年の電力需要を100%を再生可能エネルギーでまかなうことができるという研究レポートがルモンド紙で報道された。100%再生可能エネルギーを目指すことが世界の大勢になるのは時間の問題だろう。

フランスよ、お前もか?

2015年4月4日、ルモンド紙はフランスが2050年の電力需要の100%を再エネでまかなうことができるという政府機関の研究を報道した[1]。フランスの環境エネルギー管理庁[2]がまとめたものだ。この研究結果は公表される予定であったが直前になって異論が出たためメディアにリークされたとされている。監督官庁のエコロジー持続成長エネルギー省のセゴレーヌ・ロワイヤル大臣は、「自分の役所がADEMEに対してこの種の研究を依頼したとしても驚かない」と言明しているところからするとフランス政府の研究であったことは確かだろう。なお、この研究の原文は下記のいずれかのサイトで閲覧できる。

この研究は最高水準の技術評価能力を駆使して分析したと述べている。フランスの地方の行政区画ごとにエネルギーの現状を詳細に調べ上げ、再エネのポテンシャルを積み上げるという手法を取っている。また、フランスの人口は2050年までに600万人増加すると想定し、デマンド・マネージメント等の施策により現状より14%の省エネを実現し、その結果、2050年の電力需要は422TWhになるとしている。しかし驚くべきことに、100%再エネ化するとその3倍に当たる1,268TWhを発電できると論じている。内訳は洋上風力63%、太陽光17%、水力13%、地熱7%だ。この結果、フランスは系統管理上も問題がなく、熱や運輸の面で電力をふんだんに使えると報道は伝えている[3]

しかし、もっとも重要な点はコスト分析だ。100%再エネ化シナリオでは2050年時点での消費者の料金負担は現状よりも30%増えるが、これは原発50%を2050年まで維持する現行のシナリオ[4]のコストと同額だと論じている。要するに100%再エネで行けば電力はあり余るほど手に入り、しかも原発維持の場合と同じコストだという話だ。フランス人の損得勘定に間違いなく訴求力を持つ話だ。

世間的には原発一本槍と思われてきたフランスが原発を現行の75%から50%まで引き下げると同時に再エネを現行の12%から40%まで持って行こうとしている。この積極さには驚かされるが、法律の名称自体が「グリーン成長のためのエネルギー移行法」だから当然だろう。しかし、それを100%まで持って行くというビジョンを政府機関が掲げ、国内に議論を喚起する挙に出たことはかなり注目すべきだ。

もとより、フランスの原発志向もビジョンに基づいていた。最初に原子力研究所を作ったド・ゴール将軍にとっては大国フランスの地位が関係していた。また原発推進が本格化する1960年代アルジェリアの独立によってサハラ砂漠の石油と天然ガスに頼れなくなった事情等がある。しかし、周知のとおり、今日フランスの原発推進政策は困難と危機に逢着している。多くの議論が行われているがニューヨークタイムズは最近詳しい記事を書いている[5]

その上さらに、今日世界のエネルギーは地殻変動を起こしている。再エネは安価になり技術イノベーションの起爆源になった。世界はこれを第4次産業革命と見ている。その中でフランスが新しいビジョンを再エネに見出そうとしたとしてもまったく自然な流れだ。この文書がリークされた10日後、環境エネルギー庁主催の専門家のセミナーが開催[6]され、再エネが地域開発や雇用の増進にも波及効果がある点などが強調された。

「ネット・ゼロ」は世界の大勢

フランスの例を引くまでもなく、世界は今や「ネット・ゼロ」や「脱炭素」を指向している。これは決して誇張ではない。世界の議論を知れば誰でもそう感じるだろう。どの議論でも環境と経済と成長と雇用とイノベーションに好循環を与えるという話が延々と続いている。

それだけでなくネット・ゼロは文明史的な意味をもちはじめた。再エネを軸とするエネルギー技術体系とそれを効率的に管理運用する政策体系がクリーンな新文明を作るという確信だ。蒸気機関車や内燃機関以上の文明的発展の原動力とされている。もちろん、国際政治上も圧倒的影響を与えるだろう。安全保障問題の基本的脈絡が一変するだろう。化石燃料に依存しない成長と貧困からの脱却が可能なのだから。

フランスのような国が、素早く切り替えたとしてもまったく驚きではない。ビジョンを先取りしてきたこの国は新しいビジョンに乗り換えるのに躊躇はないだろう。損得勘定が合うならなおさらだ。ビジョンがあれば力が結集する。ビジョンがなければ混乱し、資源が浪費されるだけだ。

もちろん日本でも脱炭素やネット・ゼロへのビジョンはずっと前からあった[7]。問題は既得権益からの脱却ができるかどうかだ。日本の現状では難しいだろう。なぜなら当の既得権益を軸に議論を組み立てようとしているからだ。だから原発と中央集権的電力に金縛りになっている。よって再エネには力が入らない。それなりに力は入れているが長期の豊かなビジョンが欠落している。ビジョンがないから外国の経験を金縛り状態で観察し、狭い領域で非生産的な甲論乙駁に明け暮れている。

しかももっとも問題なのは、この金縛りを自力で抜け出す目途がないことだ。日本は八方塞がりの中で立ちすくんでいる。わざと「脱炭素」という旗は立てないで、何かをやっている。深刻さの一例をあげれば日本の成長戦略だ。総理官邸のホームページを開いてみると[8]、エネルギーの革新などはお呼びでない。ましてや再エネや分散電力等への言及はまったくない。世界でこれほど圧倒的な支持がある公共政策が日本の中枢では無の存在だ。

分散電力は地方創生の切り札だというのも国際的な通り相場だ。でも内閣の地方創生のサイト[9]を見ても分散電力や再エネなどの用語すらない。しかし、他国はこれで激走している。中国が再エネに突進しているので欧州も米国も中国に深入りしている。永続的な大きな事業を狙ってのことだ。例えばの話だが、欧州では中国の都市全体を一括して再エネ化する大事業を掴もうとしている[10]

金縛りのせいで日本は損している。本当は早く他国と競争し、時間とも競争しなければならない。「フランスよ、お前もか?」と驚いている場合ではない。最低でも国内議論の基盤の根本的な民主化が不可欠だ。

参考

[1] Le Monde “Le scénario escamoté d’une France « 100 % énergies renouvelables” April 4, 2015.

[2] ADEME:エコロジー持続成長エネルギー省と高等教育・研究省の共同所管の下にある行政機関。英語訳はFrench Environment and Energy Management Agency

[3] Environmental research web “France – 100% renewable by 2050?” Jun 6, 2015.

[4]オランド大統領が就任後、フランス政府は「グリーン成長のためのエネルギー移行法」を議会に提出した。これによればフランスは2050年において原発を50%まで維持し、再エネを40%、化石燃料を10%としている。

[5] New York Times “French Nuclear Model Falters” May 7, 2015.

[6] このサイトに再エネ導入の技術的可能性などを詳しく論ずるスライド等が掲載されている。

[7] Energy Democracy “エネルギー耕作型文明への転換” 2014年12月25日.

[8] 首相官邸 “成長戦略で、明るい日本に!~「チーム・ジャパン」で力強く実行へ~” 2014年4月15日.

[9] 内閣府 “まち・ひと・しごと創生本部

[10] EurActiv.com “EU ‘slipping down’ China’s clean tech agenda” June 29, 2015.

オリジナル掲載:WEBRONZA「再生エネでネット・ゼロは世界の大勢 – 金縛りの日本は「フランスよ、お前もか?」とつぶやくのか?」(2015年7月16日)

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元外務省欧亜局長。1999年OECD大使時代より気候変動問題に関与し、2005年より気候変動担当大使、元内閣官房参与などを歴任。一貫して国連気候変動交渉と地球環境問題に関係してきた。現在は日本国際問題研究所客員研究員。

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