2015年のドイツの電力エネルギー総まとめ

7. 「負の電力価格」の発生時間の増大

ドイツでは、このところ発電事業者が余剰となった電力の扱いとして、売るのではなく逆にお金を払って市場に引き取ってもらう「負の電力価格(ドイツ語でnegative Strompreise)」が発生する現象がしばしば起きています。

2015年はこの負の電力価格の発生時間が、前年の倍の126時間となりました。この発生時間は、1年間の1.4%の期間に当たります。一方で、負の電力の平均価格はおよそ0.9ユーロセントでした。つまり、1kWhあたり0.9ユーロセント(およそ1円強)支払って市場に電気を引き取ってもらったということです。これは前の年2014年1.56ユーロセント(およそ2円)より大きく減っています。負の電力価格の時間は増えているが、その価格は下がっているという実態がわかりました。

負の電力価格の発生時間は、2012年には56時間で、年々増加し、ついに100時間を突破しました。一方で、引き取り価格は、2012年にはおよそ7ユーロセント(およそ9円)だったのに比べ激落しています。その結果、発生時間と引き取り価格(マイナスの価格)を掛け合わせた損失分は、2012年のおよそ3分の1になっています。

解説:負の電力価格の背景にあるもの

負の電力価格というのは、なかなか理解しにくいですね。電力需給は「同時同量」が原則なので、一定時間内での起きる発電の変動発生に対応しきれない場合、お金を払ってでも送電線に流して市場に引き取ってもらうことが起きるという事です。市場の先にはその電力を使う需要家がいるわけで、つまり、無理矢理安い電力価格にして、需要を作るということでもあります。

この原因は、第1に再エネ電力の増大があります。特に「変動再エネ(VRE)」と言われる太陽光と風力発電の拡大です。そこでは、だから再エネは不安定で困るし、場合によって損をするのでは、という声が聞こえてきそうです。

しかし、考え方を変えると別の側面が見えてきます。実際に、今回取り上げたレポートでは、もう1つの原因を挙げています。変動を吸収すべき従来型の発電システムの柔軟性が低いことです。

これは、どういうことでしょう。太陽光や風力発電といったVREは、限界費用(1単位の生産物を得るために必要な原価)が原則としてゼロ、つまり原料費が必要ない発電施設です。本来であれば、わざわざお金を払ってまで再エネ電力を引き取ってもらうより、原料費のかかる化石燃料などによる従来型の発電施設を止める方が、発電側にとってみれば経済的に良いに決まっています。

いくらドイツでも、現状では再エネ電力で100%カバーできるほどは再エネの発電能力は無いため、今のところ、ある再エネ施設の発電を続けるために別の再エネ発電を止めて需給を調整するということにはなりません。アゴラのレポートの内容の主旨は、従来型の発電施設の柔軟性の無さが、せっかくの安い再エネ発電を活かしきれていないということでもあります。

ここでお気づきの方もいらっしゃると思います。つまり、ドイツの発電の考え方は、日本とはまったく違っているということです。何を中心に発電システム考えるかというところが、日本とは違っているのです。

再エネ電力中心、特に限界コストがゼロである変動再エネをベースにしたドイツの考え方に、日本の「ベースロード」というものが入ってくる余地はありません。柔軟性が無い原子力や、柔軟性が低い従来型の発電システムは逆に邪魔になります。ベースロードによって、安い再エネが妨げられているという発想にまでなっているのです。そこまで来ると、はっきりとしたエネルギーシステムの選択になります。ドイツは、従来型を捨てて、再エネに将来を託したということです。

日本の再エネレベル、特にVREの割合はいまだに数パーセントにも達していません。ですから、ベースロードと再エネが共存していてもまったく不具合は起きません。一部、すでに大騒ぎをしている方々もいらっしゃいますが、それはおかしなことです。しかし、いずれは議論をしなければならない時期がやってきます。

もう一つ、日本ではまだ各種の再エネを一緒に考えていますが、エネルギー先進国ではすでにVREという呼び方で他の再エネと区別をつけ始めています。今後はこの考え方が重要になります。

8.
 再エネの記録、次々と更新

「ドイツのエネルギーシステムを性格づける特徴的な日」という名前で、2015年に再エネによる発電で起きた特徴的ないくつかの日をピックアップしています。

3月20日:部分日食が起きた日

前項でも述べたVRE電源の変動の極端な例となるのが日食です。突然太陽光発電ができなくなる事態にどう対応できるかが注目されていました。この日ドイツはたいへん天気が良く太陽光発電も順調でした。そして、9時半に日食が始まり、11時前に日食のピークが来て12時に終了しています。当然ですが、太陽光の発電量は日食が進むにつれ激減し、その後12時頃に回復しています。肝心の変動にどう対応したかですが、当日の全発電量の電源別の変動を見るとよくわかります。

そこで起きたのは2つです。揚水発電が急激に進んだこと、そして、ドイツの電力輸出量が大きく減ったことです。従来型の化石燃料などによる発電はほとんど変わっていません。そして、電力の卸売価格は日食の進行に合わせて価格が上昇しました。

解説:日食対応で2030年の予行演習

2030年には、特にVRE電源の割合が増えて、今回の日食のような事態が日常的に起こるとされています。よって、ドイツでは2030年に向けてのテストだとも言われました。今回の日食への対応は大変うまくいったと評価され、再エネ電力拡大へのポジティブな結果となったのです。

8月23日:再エネ電力のシェアが最高レベル

この日の午後1時に再エネによる発電がすべての電力需要の83.2パーセントになり、過去最高の割合となりました。全需要は50.8GWで、これに対して、太陽光発電が25.1GW、風力発電が18.9GWなどとなり、輸出などに向けられた余剰発電は16.9GWにのぼりました。その結果、当然ですが、電力の卸売りスポット市場は強い安値となり、1kWhあたりおよそ1ユーロセント(およそ1.3円)に下落しました。

11月3日:再エネ電力のシェアが最低レベル

この日の午後5時には、再エネ電力の発電能力の合計が7.3GWでした。これは、全需要の1割弱しかカバーできないものですした。これは特に風力発電が低いレベルになったのが原因です。午後5時時点では、わずか0.5GW、また同じ日の午後2時にはさらに低い0.2GWでした。

4月15日:電力需要最大の日で3分の2が再エネ電力

この日の午後1時には、電力需要が2015年最大の83.2GWとなりました。一方、再エネは、太陽光が27.6GW、風力が20.2GWなどで他の再エネ電源と合わせて、需要の66%をカバーしました。

9. 国民の圧倒的多数がエネルギー転換に賛成

ドイツ国民の大多数がエネルギー転換を支持しているという調査結果です。エネルギー転換について、「非常に重要」と答えたのがおよそ50%、また「重要」と答えたのが40%で、合わせて全体の9割が積極的に支持するという結果となりました。

また、どの電源が今後のエネルギーシステムの中で重要な役割を果たすかという問いに対して(複数回答)は、太陽光が85%でトップ、続いて風力の77%、水力44%、バイオマス24%と上位はすべて再エネ電源でした。一方で、従来型は、天然ガスの22%が最高で、原子力8%、石油7%、石炭5%となりました。

10. 2016年の展望:再エネの拡大と従来型の減少の傾向変わらず

まず、再エネ電力はさらに拡大すると予測しています。特に洋上風力発電は、FIT制度の後押しもあり、昨年から大型のウィンドファームが稼働を始めています。また、太陽光発電もやや持ち直して、ゆっくりですが拡大傾向に転じるとしています。FIT制度導入後初めて買取価格の引き下げが行われない一方で、パネルの価格が世界的には安くなっていることが、ポジティブにとらえられています。一方、従来型は原発の停止が着実に進むなど縮小が続くとしています。

もう一つ重要なのが、エネルギー政策からの観点です。今年からFIT制度に入札制度などが導入されるなど新しくなります。その中で、レポートでピックアップされているのは、新制度で厳しい環境となる小規模風力や市民エネルギーに対して、例外措置を取るかどうかの政策議論です。

また、昨年12月のCOP21の合意の実施が最重要課題だとされています。ドイツが約束するCO2の1990年比の削減率は、2030年に55%、20140年に70%、2050年に80から95%と非常に高いものです。特に2030年の目標に対しては、実際の対策を伴った行動計画を作ることが迫られています。これは、発電に限らず、熱や交通に関するエネルギーも含めたすべての分野に関する継続的な脱炭素戦略となります。

解説:

特に後半は、パリ協定の実施が重い命題になっていることをうかがわせます。エネルギー政策を日本よりずっと体系的に進めているドイツでさえ、このままでは約束の数字の達成が難しいと考えられ、政府は頭を抱えています。

もちろん、日本も同様です。まずは、大きな幹となるエネルギー政策、そして、電力、熱、交通というすべての分野での「戦略」が日本にも求められます。昨年末から繰り返しお話しているように、CO2削減こそ2016年からの最重要事項であり、エネルギービジネスの基本であることをかみしめていただきたいと思います。

[1] 電力輸出入に関する資料は、欧州電力系統運用者ネットワーク(ENTSO-E)のデータをもとにアゴラ・エネルギーヴェンデがまとめたものです。そして、これは物理的な電力の移動(輸出入)ではなく、商業的な移動(輸出入)です。これはどういうことかというと、送電線を使って物理的にドイツを入った電力のすべてがドイツで使われる訳ではないという事での区別です。ドイツ国内の送電線を使ってさらに隣の国に流れる電力は、ドイツの商業的な輸入ではなく、最終消費地の隣国の輸入になるという事です。統計によっては、単なる物理的な移動をまとめたものがあり、そちらでは、一見ドイツがフランスから輸入超過している様に見える可能性があります。

日本再生可能エネルギー総合研究所 メールマガジン「再生エネ総研」第65号(2016年1月12日配信)、第66号(2016年1月19日配信)、第67号(2016年1月27日配信)より改稿

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