「九電ショック」でわかったこと(2)

「九電ショック」の衝撃とその後

九電ショックは衝撃度が大きかっただけに、その反応も早くなっています。経産省は検証専門委員会を設置して2014年10月16日に初回の会合を開きました。年内に一定の結論を得る方向です。反発の意見が多く寄せられる中、一部後述しますが、やはりこのショックを再生エネへのネガティブキャンペーンに利用する動きもみられます。

例えば、あるシンクタンクは、回答保留の問題を制度の導入自体が間違っていたかのような意見を発信しています。内容は、おなじみのもので、太陽光で荒稼ぎするブローカーや設備の価格が安くなるまで建設を待っている悪質事業者という構図で、今回の回答保留とは関係ないことを取り上げ、太陽光たたきをしています。

一部詐欺話も聞かれる悪徳ブローカーは本当に許されないことですが、権利の売買そのものはひとつのビジネスです。また、ある新聞が書き始めた建設コスト下落待ちの事業者という批判も、私は多くの事業者や設置業者と話をしていますが、具体的な例を聞いたことがありません。もちろん全く否定するつもりもありません。しかし、資金を寝かせることの無駄や施工業者不足から業者の取り合いになっている状態の中でビジネス的には考えにくいと思われます。なにより、円安が進む中、建設を遅らせるほどコストが上がるというのが常識で、実際のビジネスを知らない人間が書いたものとしか思えません。

この際ですから書いておきますが、上記のシンクタンクの文章では、ドイツでは消費者団体がFIT制度廃止論の先頭に立っているとの記述もみられます。反対している団体があるのは確かですが、BUNDを始めほとんどの消費者、環境団体は、再生エネの推進に賛成しています。だいたい、最新の世論調査でも国民の9割以上が再生エネの拡大を望んでいるのですから。このような誤った情報にはお気を付けください。筆が走りすぎたので、本論へ移ります。

今回の記事は、わかったことというより、わかっていることに重きが置かれています。不思議な言い回しですが、「わかっていなければいけないことを、(電力会社や前記のようなシンクタンクなどが)わかっていなかったこと」がわかったということでしょうか。私の本意は、電力会社を非難することではありません。今回のショックも、再生エネを拡大するための検討時間を取るためだと信じています。将来(ずいぶん先かもしれませんが)の危機に対応することは十分可能だと理解していいただき、一緒に前向きに問題を解決しましょうと言いたいのです。

わかったこと(4)現状で危機は起きない

まず、現在の状態で本当に危機的な事態が起きるのかどうかについて、少し書いておきます。今回保留を宣言した理由として、九電は再生エネだけで夏のピーク時の電力をオーバーしてする可能性があると述べています。ただし、これには、2つの前提があります。一つは、現在認定されている施設が全て稼働した場合、ピーク時にすべての施設がフル出力となった場合というものです。

まず、認定されている施設が全て稼働することはありません。実際、いわゆる40円案件は8月末に1.8GWの認定取り消しを受けました。さらに今後36円案件も含めて大量の認定取り消しが見込まれます。あまり良い例ではないのですが、同じ場所で複数の認定を受けている所さえあります。

また、ピーク時にすべての再生エネの発電施設がフル出力となることもあり得ません。例えば、2013年の6月15日の15時から16時にドイツで再生エネ(太陽光+風力)の電力がドイツ全体の電力の61%を記録しました。その時の太陽光の出力はおよそ20GW、風力は9GWでした。当時、ドイツに設置されていた太陽光と風力発電施設の総発電能力はそれぞれ30数GWですから、実際の出力は太陽光でおよそ半分、風力で3分の1程度です。

先の2つの前提条件が揃う可能性の低さを考えれば、現状でブラックアウトの危機が迫っているわけではないことはよくご理解いただけると思います。

わかったこと(5)対応策・揚水発電利用と火力発電による調整

九州電力など各電力会社の準備が遅れていたことについては、前回の記事で書きました。その九州電力が、今回対応策として検討の対象としているのは、揚水発電の利用、九電外へ販売、そして出力抑制です。また、記者会見では、火力発電の運用の見直しにも触れています。たまたまでしょうか、そこには費用の掛かる系統強化策(送電線の増設)や大量の蓄電池の設置などが含まれていないので、まずは、インフラ的にもほとんど費用が掛からない対策から考えていきましょう。

まず、火力発電は当然のことながら、調整電源としてさらに積極的に使われるべきです。また、揚水発電も重要な役割を果たします。揚水発電は、現在世界中で余剰電力の貯蔵として使われています。世界のエネルギー貯蔵(電力)の99%が揚水発電によるものです。日本では、火力発電も揚水発電も原子力発電の調整電源として増えてきています。原発は、ある意味調整がきかず夜中も一定の発電を続けたり、点検のために一か月完全に停止したりするため、どうしても電力の調整設備が必要になるのです。

日本の揚水発電設備は世界最高の2600万kWですが、その設備利用率は昨年でわずか3%以下、原発事故後減り続けています。世界の利用率を見ると、イギリス13%以上、アメリカ12%以上、ドイツ11%以上、韓国8%以上、スペイン6%以上となっており、日本は極端に低くなっています(出典:日経BPウェブ「 」2014年10月1日より)。最も経済的なエネルギー貯蔵の方式と言われているのですから、もっと使うべきです。しかし、なぜか九州電力は、「昼間の経験がない」と消極的にも見えますが。

わかったこと(6)対応策・広域連系の利用

九州電力も、電力会社間の連系線の利用を取りあげています。申し訳ないのですが、原発停止の中あれほど電気が足りないと言っていたのに、連系線利用はあまり考えていなかったということでしょうか。今回は、逆に余った電力を連系線で売るという訳です。本論とは離れますが、足りないのか、余っているのかどっちや!と突っ込みを入れたくもなります。

それでは、日本の電力会社間の連系線はどのくらい利用されているのでしょうか。以前私がおすすめしたことがある風力発電のエキスパートである安田陽さんの本(「日本の知らない風力発電の実力 」オーム社)からデータを引用しながら示します。

まず、連系容量です。欧州と日本の電力の連系線の話になると「向こうは各国が陸続きでネットでつながっているから電力の融通が出来るんだ」という話しがよく出ます。もちろん、日本は島国ですから、他国との連系線はありません。しかし、一つ一つの規模の大きい電力会社間の連系線はあります。そう言うと「それが細くて容量が不足する」と続くのですが、私たちが思っているほど日本の連系線は柔(やわ)ではありません。ピーク需要に対する設備容量を見ると、特に西日本は立派な数字です。

関西電力105.2%、四国電力69.8%で中国電力に至っては、228.1%もあります。九州電力は36.5%で、ドイツの72%には及ばないものの、フランスの30.9%を越えています。東日本でも、東北電力が55.4%と大きく、北海道電力は12.4%ですが、風力発電が全電力量の4分の1を占めるスペインの10%を上回っています。ちなみに、原発大国のフランスの風力の導入量は世界第8位です。どうですか、日本の連系容量はなかなかのものでしょう。

では、それがどう活用されているのかということになります。安田さんの本を読んだときに驚きました。ほとんど使われていません。それも、3・11の原発事故の後の方が、利用率が減っているところが多いのです。具体的には、以下のようになっています。再エネ接続回答保留の電力会社中心です。

電力会社間の連系線の利用率(2010年度~2011年度~2012年度の推移, 単位:%)

2010年度 2011年度 2012年度
北海道 0.8 9.5 0.1
東北 23.1 13.3 10.2
東京 6.9 3.4 3.0
四国 15.3 4.1 2.9
九州 0.1 1.5 2.7

*注:こちらは発電電力量ベースで実際にどのくらい使われているかを示しています。

というわけでびっくりしませんか。つまり、各電力会社間の連系線は足りなくない。使われずに余っているのです。今回、回答保留をしている電力会社以外では比較的ピーク時と再生エネ電力の出力に余裕がある電力会社も多く、電力会社間の融通が実現すれば、課題解消だけでなく、再生エネのさらなる拡大も十分可能です。

わかったこと(7)インフラ不足の問題より制度と運用の問題

さて、こうしてみていくと、すでに存在している設備内でかなり解決が出来るところが多いことがわかってきます。

一方で、政府は本州と北海道を結ぶ連系線や、西日本と東日本の50キロヘルツと60キロヘルツの周波数変換整備の強化というインフラに対する増強対策を進めています。これらの対策は時間も費用もかかることですから、じっくり進めていただければさらに安心です。

実は前項で説明した連系線の利用率が低い原因の一つに運用ルールの問題があります。例えば、連系線利用のルールを決める「電力系統利用協議会」によると、連系線の利用計画は受給日(電力を受ける日)の前日の夕方5時までに通告しなければならないとなっています。欧州の多くの電力マーケットでは、前日だけでなく当日のマーケットも普通に存在します。前日の予測より当日を含む短時間での予測の方が正確なのは当然で、系統を運営する立場からも当日の受け入れを行う方が合理的だと言えます。

使いやすい制度に変えることで、多くのメリットが生まれるということです。

日本再生可能エネルギー総合研究所 メールマガジン「再生エネ総研」第51号(2014年10月16日配信)より改稿