太陽光発電を巡るトラブルから考える日本の土地利用制度のあり方

日本の国土は、都市部においては戸建て住宅の空き家やマンションの空き室が増加し、農山村では耕作放棄地や管理放棄森林が広範にみられるようになってきた。そうした中で、アベノミクスによる異次元の金融緩和もあって、都心の土地バブル、農山村におけるメガソーラー設置を巡るトラブルが起きている。

こうした現象は、日本の人口減少社会が持続可能性を失いつつあることを示すものであり、その原因には、日本の土地利用制度のあり方が関係しているのではないか。

本稿では、農山村における太陽光パネルの設置を巡るトラブルを切り口に、土地の所有権の在り方がどのように関係しているのかを明らかにしたうえで、今後の土地利用制度のあり方を提言する。

衰退過程にある日本農業の再生のあり方

デフレ経済下、人口が減少し、高齢化が進んでいる日本では、農産物・食料の需要が減少するとともに、農産物の価格低落が起こっている。その結果、農業部門全体でみると、総売り上げは減少を続けている一方で、生産に必要な資材価格の上昇によって利益も縮小している。その結果、農業は魅力のないビジネスとなってしまい、参入する若者も少なくなって就業者の高齢化が進んでいる。その上、現に就業している人も経営意欲が低下し、これによって耕作放棄地も増えている。先般のTPP合意に対して将来の不確実性に対する必要な措置を講ずることができなかった場合には、この半世紀の間に80%から40%へと半減した食料自給率はさらに低下することになる恐れもある。それだけでなく、意欲ある農業経営から先に農業に見切りをつけ、地域経済の衰退が加速することになる恐れもある[1]

      • [1] 武本俊彦「TPP承認は内容とプロセスのレビューが前提=与野党は国会の場で熟議せよ」(Agrio 2016年3月15日号16・17頁)

筆者は、こうした事態に対抗して「儲かる農業」に転換する提言を行った[2]が、端的に言えば「売れるようにものづくりに取り組む」ことである。つまり、単に「農産物」を生産するだけの経営ではなく、消費者・実需者のニーズに適うよう、農産物の生産(1次産業)、加工(2次産業)、販売(3次産業)を組み合わせる「6次産業化」に転換することにほかならない。

一方、農山漁村は、太陽光・小水力・風力・地熱・バイオマスといった地域資源に恵まれており、これらの資源を管理・保全しているのは地域の農業者をはじめとする地域住民である。こうした人々が農業をはじめ地場産業に従事しながら、再生可能エネルギー事業に取り組んでいくことが考えられる。特に固定価格買取制度(FIT)の導入によって、電力会社が20年間一定の価格で買い上げることになったことで、安定した売電収入が見込めるようになった。

以上を踏まえ「儲かる農業」の経営モデルとして「6次産業化+エネルギー兼業」を提言した。これは、化石燃料の使用をできるだけ減らすという地球温暖化防止への活動につながっていくことに加え、地域全体でみれば、地域住民がエネルギー源となる自然資源を活用してエネルギーをつくることを通じて日本全体のエネルギー転換を確実にする道でもある。こうした観点から農山漁村における再生可能エネルギー事業については、「農林漁業の健全な発展と調和のとれた再生可能エネルギー電気の発電の促進に関する法律」(2013年11月成立)により、地域の利害関係者の合意、地域への利益の還元の在り方、土地利用の調整の3点を事前に解決することを通じて推進されることとなっている[3]。また、太陽光発電については、農地で食料生産をしながら発電を行う「ソーラーシェアリング」を推進する観点から農地法上の規制緩和が行われたが、その一層の推進のためには土地利用規制のあり方の見直しが求められている[4]

      • [3]「農林漁業の健全な発展と調和のとれた再生可能エネルギー電気の発電の促進に関する法律」(2013年11月成立)の概要と、地域への利益還元や「計画なくして開発なし」の萌芽など同法の特徴については、前注掲載書の108頁以降参照。なお、併せて「まちづくり条例」制定で対応を=増える太陽光パネル設置トラブル=)(Agrio 2016年4月12日号23・24頁。
      • [4] ソーラーシェアリングの推進方法と農地法上の規制の在り方に対する提言については、武本俊彦「ソーラーシェアリングでエネルギー兼業農家をめざせ」(Energy Democracy 2015年3月18日)。

以上の推進措置に加え、FITによって、再生可能エネルギー事業としては、太陽光発電に加え、風力発電、農業用水路での小水力発電、畜産廃棄物等によるバイオマス発電等への取り組みが促進されることが期待された。しかし、FITが発効した2014年7月以降で見ると、その発電施設の設置は急速に進んでいる中で、9割以上は太陽光発電が占めており[5]、その事業者は東京など都市部に本社を置く企業とされている。その実態は、原子力発電所や大規模火力発電所の場合と同様、利益の大部分を都市部に持っていかれる、「外来(植民地)型開発」が大宗を占め、残念ながら地域への利益還元とその循環を通じて、雇用と所得を実現する「内発型発展」は限られている。

「外来(植民地)型開発」となってしまった再エネ事業が起こす立地トラブルの原因とその対応

太陽光発電が9割を占めている原因は、風力発電など他の電源に比べ、FITにおける買取価格水準が相対的に有利であったことに加え、環境アセスメントの実施や地元調整等がほとんど義務づけられていないことがあげられる。その上、事業実施の確実性が低い初期段階に「認定」を行う仕組みとなっていることもあげられる。

また、太陽光発電の設備認定に当たっては、FITの手続き上、立地される地元の自治体や関係住民に何ら情報開示がなされないままに経済産業大臣の認定が行われ、設置工事の段階で初めて関係者が知ることになっている。事業者とすれば、法令に従って認定を受けた以上、地元との調整の必要はないと考えているのだろう。

このような太陽光発電の設置を巡っては、地元関係者の意向が無視されることもあって、景観や生活環境上の観点から全国的に大規模太陽光発電所(メガソーラー)に係る太陽光パネルの設置に対し反対運動が起こっている。

例えば、高知県土佐清水市で計画されていたメガソーラーの建設のように地元住民の反対運動によって白紙に追い込まれたケースも出てきている[6]。また、環境エネルギー政策研究所(ISEP)の山下紀明研究員[7]によれば、事業者や行政への電話ヒアリングにより確認された50件の事例では、景観への懸念(22件)、防災面での懸念(18件)、生活環境への影響の懸念(12件)、自然保護への懸念(9件)等をトラブルの理由(複数回答)としてあげており、こうした事例は今後増えていくのではないかと懸念される。

こうした太陽光パネル設置をめぐるトラブルを回避するための方策として、最近FIT上の認定手続きの見直しが行われた。第190回通常国会で成立した「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法等の一部を改正する法律」において、(1)事業実施の確実性が低い初期段階での認定をやめて、系統接続契約の締結や事業運営の適切性を確認した上で事業認定する仕組みに変更すること、(2)設置場所を巡る土地利用規制の遵守や地域社会との共存が不可欠との観点から、新たに、認定時に土地利用や安全性に関する法令を遵守していること。また、事業実施中の点検・保守や事業終了後の設備撤去を求め、違反時の改善命令・認定取り消しを可能とすること、(3)認定申請時においても、土地利用規制や景観保全の観点から、地方自治体が事務執行する上で必要な事業計画に関する情報を地方自治体と共有する仕組みを構築し、事業の適切な実施を確保することとされた。

今回の制度改正によって一定の改善が図られたとはいえるが、事業者が遵守すべき「土地利用規制」や「安全性」に関する法令自体は、別に「法律」あるいは「条例」が存在していることを前提としているので、該当する「法律」や「条例」がなければ事業者の開発を規制することはできない。それでは、日本の土地利用制度は、開発をうまく規制するようになっているのだろうか。

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