ブロックチェーン

プロシューマーのための素晴らしく新しいエネルギーの世界?
2017年1月30日

ブロックチェーン技術は、エネルギーシステムを破壊し、エネルギーデモクラシーを加速させる力をもっています。

「エネルギー転換」:エネルギーデモクラシーとプロシューマーの勃興

世界のより多くの国々が、(集中型の)化石燃料から(分散型の)再生可能エネルギーをベースとするシステムへと「エネルギー転換」を開始もしくは計画しています。このいわゆる「エネルギー転換」は、そのキープレイヤーであるプロシューマーと共にエネルギーシステムの民主化を後押ししています。

集中的なシステムによってつくられた電力と熱を消費してきた市民のより多くが、アクティブなプレイヤーとなり、オルタナティブな再生可能エネルギーから熱をつくるヒートポンプや太陽熱システム、グリーン電力をつくる太陽光パネルを自宅の屋根の上に設置したり、コミュニティプロジェクトを通じて風力発電を設置しているためです。また、小型コジェネシステムは電力と熱の両方をつくることができます。

隣人同士がエネルギーを融通し合いたいと思っていたり、建物のオーナーが住人にエネルギーも供給するといった動きがあります。スマートホームでは、消費者が自分たちのエネルギーネットワークの管理者となり、スマートグリッドやいわゆる「モノのインターネット(IoT)」を通じて他の市場プレイヤーとつながっています。

プロシューマーの台頭にはいくつかのポジティブな影響があります。第一に、市民の投資を太陽光システムなどの新しい技術に回すことができるようになります。蓄電システムも考えられます。第二に、プロシューマーはエネルギー市場の機能性向上に重要な貢献ができます。プロシューマーは競争を強化し、発電容量とエネルギーミックスの多様化を促進します。これは市場の集中とエネルギーの寡占状態を打破し、卸市場の価格を引き下げる力があります。

デジタル化 - ITの巨人がエネルギー市場を掌握する

デジタル化は、エネルギー転換の最後のステップのカギであり、分散型の再生可能エネルギーをスマートグリッドに統合することで系統の安全性と効率を確保し、インテリジェントな供給と需要のマネジメントを可能にするために不可欠です。デジタル化は、エネルギーデモクラシーを加速化させ、プロシューマーはキープレイヤーとなって系統に優しい自家発電・自家消費、テナントモデル、電気自動車を含めた家庭内の効率的なエネルギーマネジメントを促進します。その結果、AppleやGoogleのようなITの巨人がエネルギー市場に参入し、電気自動車、スマートホーム/グリッド向けアプリケーションや機器の幅広い製品・サービスなどを提供し、さらには電力会社となって、「古いエネルギーの世界」に圧力をかけるのです。

「エネルギー転換」に揺り動かされる「古いエネルギーの世界」…次はブロックチェーンがこれを破壊するのか?

原子力と化石燃料による発電から再生可能エネルギーによる発電への転換と「デジタル化のメガトレンド」は、すでにエネルギー分野の大規模な構造改革を促し、勝者と敗者を生み出しています。これまで長い間安定してきたビジネスモデルはもう機能せず、新しいコンセプトが必要とされています。この嵐のような時代に、金融分野では「フィンテック」と呼ばれ、すでにかなりの成熟レベルに達しているブロックチェーン技術は、さらなる破壊をエネルギーの世界にもたらそうとしているのです。

ブロックチェーン技術は、ピアトゥピア・トランザクション(peer-to-peer transactions、P2P取引)と呼ばれる技術です。ネットワークの中にいる誰もが、銀行などの機関を経由することなしに、自分以外の全員と直接的に取引が可能です。取引記録はこれまでのように中央データベースに記録されることはなく、ネットワークに参加するすべてのコンピューターにバラバラに記録されます。これが、取引の分散型管理システムを実現するのです。

エネルギー分野に関して言えば、ブロックチェーンは分散型の取引管理とエネルギー供給システムを可能にします。これは、「発電-TSO-DSO-電力小売り-消費者」という現在の多層システムを劇的に変えるでしょう。ブロックチェーンは、(再生可能)電力を消費者に直接つなげ、電力会社、ブローカー、取引業者、取引所、銀行による仲介を不要にしてしまいます。いわゆる「スマートコントラクト」を通した直接的で自動化された相互作用が、量、品質、価格を個別に定義し、小規模なPVやコージェネと一般消費者をつなぎ、取引コストの低下とより効率的なプロセスがプロシューマーにとって将来有望なビジネスモデルを創り出すのです。

他の分野では、これはすでに現実になっています。ホテル、レンタカー、タクシーなどの中央集権的なビジネスモデルは、AirBnB、Uberなどの分散型で(個人的な)サービスを仲介するプラットフォームを提供する企業による圧力にさらされています。サービスは分散型で提供されるものの、仲介、取引、支払いはいまだプラットフォームによって集中的に管理されています。それが、簡単に言えば、自分の太陽光パネルの電気をお隣のトースターに供給することができるとすればどうでしょう。

エネルギー分野におけるブロックチェーン技術の可能性

エネルギー分野におけるブロックチェーン技術は、まだまだ設計段階です。しかし、エネルギーシステムのすべてを破壊するポテンシャルを持っています。電力、ガス、地域熱の供給、(再生可能)エネルギーの取引、電気自動車、系統運営、検針、請求書、伝統的なエネルギー会社の業務のすべて、または一部をブロックチェーンに任せることもできるでしょう。

仲介のない分散型取引と供給システム

伝統的な多層的エネルギーシステムの内部で中央集権的につくられる電力は、送配電網を通って産業消費者や各家庭に配られます。取引業者は電力卸市場で売買し、すべての関係者のすべての取引が金融サービスプロバイダー(銀行など)を通じて行われます。ブロックチェーン技術を使った異なるアプリケーションの統合は、分散的に管理される取引と供給システムを可能にし、仲介業者や電力会社は無用のものになる可能性があります。

コスト削減、スピード、柔軟性

仲介業者を通さない取引を可能にするブロックチェーンは、劇的なコスト削減効果をもたらします。

  • 仲介業者の取り分がなくなることによるコスト削減もしくは無料化
  • 検針、請求書発行などの運営コストの削減もしくは無料化
  • 銀行による取引手数料の無料化
  • 託送料金の削減
  • グリーン電力証書調達コストの削減もしくは無料化

手作業でこなさなければならなかった個々の手続きもスマートコントラクトで自動化され、手続きははるかに速くなり、すべてのシステムの柔軟性が増すでしょう。

すべてのエネルギーフローと商業取引を改ざんできないように分散型に記録する

ブロックチェーンによる分散型の取引記録のデータは、すべてのエネルギーフローとビジネス活動を、安全で改ざんできない形で保存することができ、これがブロックチェーンのもっとも重要な利点となります。取引は参加するすべてのユーザーのコンピューターに分散保存されるため、ユーザーたちは供給者と消費者の間でおこなわれる取引を「目撃」することになります。そのため、(改ざんされた)新しいデータは、分散保存されたオリジナルデータと合致しないため、公認された取引を後日改ざんすることはできないのです。

系統管理、アンシラリーサービス市場、バーチャル発電所

ブロックチェーン技術を用いた「スマートコントラクト」により、系統管理はより楽になります。スマートコントラクトは、需給をバランスさせるためにエネルギーのフローと蓄電について厳格に定められたルールに基づき、どの取引がいつ行われるかについてのシグナルをシステムに送ります。例えば、もし電力供給過剰の場合、「スマートコントラクト」によって余剰電力の蓄電が自動的に開始されます。逆に、需要が供給容量を上回る時は自動的に蓄えた電力を放出します。それゆえ、ブロックチェーン技術は、系統管理と蓄電に直接的な影響があるのです。「スマートコントラクト」は、アンシラリーサービス市場やバーチャル発電所でも用いるこができます。

マイクログリッド - レジリエント、省エネ、持続可能性

ブロックチェーン技術は、系統の効率向上、系統の安全といった「系統の近代化」の文脈の中で重要性を増しているマイクログリッドの発展において、根本的な役割を果たすことができるでしょう。分散型の再生可能エネルギーの発電容量のシェア拡大は「古い」送配電系統にとっては課題となります。従来の系統は非効率となり、あげく「持続不可能」になってしまうでしょう。マイクログリッドは、系統のすべての設備自身が管理と運営の手助けとなるため、はるかに弾力性があります。電力を長距離輸送する大電力会社のビジネスモデルよりも、地域で作られ、地域で消費される電力は、はるかに効率的で環境に優しいのです。

大手の電力会社も参加しているパイロットプロジェクトがいくつかあります。LO3 Energy社とConsenSys社のジョイントベンチャーであるTransatctiveGrid社が最近開始したブルックリン・マイクログリッドプロジェクトは、初のブロックチェーンを使った地産電力の隣人同士の直接販売プロジェクトです。技術的には、これはイーサリアム・ブロックチェーン(Ethereum Blockchain)をベースにしています。その目的の1つが、隣人間の再生可能エネルギー市場を作り出すことです。そのアイデアは、少数か、たった1つのソーラーパネルしか持っていない個別の家庭もエンドカスタマー市場に参加できるようにする、というものです。プロシューマーは、自家発電による余剰電力を、系統に固定価格買取制度を使って給電するのではなく、個人で市場で売買できるようになります。プロジェクト終了後には、すべての住民がパートナーとして参加するコミュニティ組織が運営を引き継ぐことになっています。

証書取引(CO2排出権、再生可能エネルギー発電源証明)

安全性の高い文書化は、所有者と発電源を示す明白な証拠と確実な記録として役に立ちます。ブロックチェーンが正確な所有者の履歴を記録することで、CO2排出権やグリーン電力証書の取引は飛躍的に発展するでしょう。これにより、これらの証明書は改ざんできなくなります。

ナスダック(NASDAQ)は、LINQ社が開発したソーラーエネルギーの証明書をブロックチェーンを使ってやり取りするサービスを紹介しました。ソーラーパネルは「モノのインターネット(IoT)」の機器につながり、発電・給電量を記録できるようになります。LINQユーザーは太陽光発電の電力の証明書を匿名で買うことができます。

資産管理

ブロックチェーン技術は、スマートメーター、スマートグリッド、太陽光パネルや他の発電設備のような資産の状態、所有者を文書化する記録簿として用いることで、資産管理を劇的に改善できます。風力発電設備などの技術的、経済的なデューディリジェンスは、ブロックチェーンのアプリケーションを用いることで、外部のデータ評価や証明の類が必要なくなり、根本的なスピードアップが見込まれます。

精算と決済(系統運用者)

ブロックチェーンの最大の恩恵の1つが、給電量と消費量の同期割当が明白であるということです。これは、系統運用者が精算と調整電源市場に支払うコストを大幅に削減できます。

電気自動車

ブロックチェーンは、電気自動車のインフラ開発に決定的な役割をはたすことができるでしょう。電気自動車は全国に充電設備を必要とするため、主な障害の1つが、特に公共スペースにおける充電設備における簡単な精算モデルの導入です。ブロックチェーンは、簡単で完全に自動化された精算システムを可能にできるでしょう。

ドイツの発電会社RWEとイーサリアム技術のスタートアップSlock.it社のジョイントベンチャーが開発したブロックチャージ(BlockCharge)は、電気自動車充電のプロトタイプです。支払いの承認と実行の両方を充電設備サイドで行なうことができます。充電に先立ち、ユーザーはネットワークに対して料金を前払いしておき、取引が終了すれば、口座から引き落とされます。このプロジェクトは、現在充電ステーションで主に使われている精算システムとは異なるシステムを採用しており、ユーザーは充電中に消費した電力量に応じて支払い、充電設備に接続した時間で支払うのではありません。考え方としては、ユーザーはマイクロ取引(Microtransactions)を通してお金を節約し、電力はより効率的に利用できるようになります。

スマート機器、モノのインターネット(IoT)、エネルギーのインターネット

未来は、「モノのインターネット」または「エネルギーのインターネット」の中にあります。何十億というスマート機器が繋がり、データを記録、応答、コミュニケーション、共有します。これらの機器は、自ら発電、売買が可能になります。ブロックチェーンは、すべての適合する取引とデータの実行と保存のための基礎技術となります。

サムスン社、Canonical社、Slock.it社の協力もこの方向を目指しており、サムスン社はスマートホーム、パーソナルモニタリング、スマートシティ、自動車にいくつかのインテリジェントなアプリケーションを提供しています。Canonicalは、Ubuntuをコアプラットフォームとするスマート機器を管理するアプリを提供しています。Slock.it社のブロックチェーン技術はこれらのアプリケーションの安全性を高めることに寄与しているのです。

消費者、プロシューマー、コミュニティプロジェクトのチャンス

ブロックチェーンを基礎としたエネルギーシステムは、消費者、プロシューマー、コミュニティのエネルギープロジェクトに多くの恩恵をもたらします。最も重要なことは、システム、運営、取引コストの削減は、彼ら全員に利益があるということです。

このコスト削減は、エネルギー消費者の直接または間接的なコスト低下につながります。また、数多くのより柔軟な電力販売オプションが増えることは、消費者の利益となります。ブロックチェーンをベースとした取引モデルはプロバイダーの恒久的な変化を可能にし、非常に短期間に新しい取引パートナーを見つけ、取引することができるようになります。ブロックチェーンは、発電設備とエネルギー消費者の直接取引、契約相手や風力や太陽光などの電源の詳細な特性情報を得ることを可能にし、エネルギー消費者にとっての透明性が高まります。エネルギー消費者は、彼ら自身のエネルギーミックスをこれまでは不可能だった高いレベルで決めることができるようになります。

ブロックチェーン技術は、プロシューマーの台頭をさらに加速させるでしょう。取引コストの低下と簡単な決済が、自家発電によるエネルギーの販売をより簡単で収益性の高いものに変えてくれるのです。これは、エネルギーに関わる他のサービスにも当てはまります。具体的には、テナント供給モデルやコミュニティエネルギープロジェクトなどの多くの参加者の調整が必要なモデルが考えられます。何百万の個人宅やコミュニティプロジェクトが自律的なエージェントとなり、最も高い額を提示する顧客との間での電力販売契約を自動的に行うことできるようになります。ブロックチェーン技術が発電設備の詳細な特性情報を提供できるようになることで、プロシューマーにも利益があります。それは、ローカルな、地域の(再生可能)エネルギーに対する需要の高まりを受け、「ローカルでグリーン」な電力の販売や広告がより受けいれられるようになるからです。プロシューマーは、マイクログリッドの重要性の高まりからも利益を得ることができるでしょう。

プライベートかパブリックなブロックチェーンか?(旧く)新しい寡占かエネルギーデモクラシーか?

ブロックチェーンには2つのタイプがあります。パブリックなものと、プライベートなものです。簡単に言うと、LinuxかMicrosoft Windowsかというような、オープンソース型とプロプライエタリ型です。パブリック・ブロックチェーンは、原則的にすべての人にオープンです。アクセスを管理し、制限する集中的な管理者はいません。そのため、オペレーターによる操作は不可能です。プライベート・ブロックチェーンは、特に銀行や証券取引所などの金融セクターで用いられています。「プライベート」とは、オペレーターがブロックチェーンとそのサービスへのアクセスを管理していることを指します。この目的が、伝統的なビジネス活動の保護、ユーザーへのサービスの代価の請求であることは明らかです。ブロックチェーンのアプリケーションはこれらを自動化し、サービスをほぼ無償で提供できてしまいます。

プライベート・ブロックチェーンは、ブロックチェーンが求める価値の「あるべき姿」にそぐわないことは明らかです。多くの場合、これは伝統的なやり方とわずかに異なるだけにすぎません。そのため、プライベート・ブロックチェーンのモデルは、主にエネルギー産業界の内部コストの削減に用いられ、消費者に対しては十分利益をもたらすことはないでしょう。しかし、エネルギーシステムがパブリック・ブロックチェーンのみに依拠することはできないのも明らかです。結果、パブリック・ブロックチェーンとスマートコントラクトの組み合わせこそが、考えられるソリューションになります。「イーサリアム」は、その中で最も知られたものです。

エネルギーセクターにおける競争でどんなブロックチェーンが勝つかを述べるのは時期尚早でしょう。大手電力会社やIT企業もこのゲームに参加しているため、(旧型の、もしくは新しい)寡占化が進む危険性はあります。ブロックチェーンが自動的にエネルギーデモクラシーを促進することはないのです。現在の独占、寡占状況が、新しい勝者に取って代わられるだけになることもありうるのです。

ブロックチェーン - プライバシーとデータの統治の始まりか、はたまた終わりか?

ブロックチェーンをベースとしたエネルギーシステムにおける、プライバシーとデータの統治は重要な課題です。理論的には、すべての人に対して消費と取引のプロトコルがブロックチェーンに、無制限に保存されます。このプロトコルは、直接名前に割り当てることはできませんが、すべての参加者が閲覧することが可能です。無制限で保護されていないデジタルアーカイブには大きな問題があります。暗号化され、分散して保存されたデータは改ざんが難しい上に、多くの場所に保存されるためにアクセスも容易です。ブロックチェーン自体のハッキングに成功した事例はないのですが、ブロックチェーンをベースにしたアプリケーションでは、マーケットプレイスのように、攻撃を受けてユーザーが甚大な金銭的被害を受け、ブロックチェーン技術の信頼性が地に落ちた事例もあります。

合法的なユーザーがログインデータを忘れるか失った場合、すべてのデータと資金へのアクセスが簡単に、永久に失われます。ブロックチェーンの中心原則であるデータセットの漸進的更新のために、ユーザーが取引の間にミスを犯せば、それを修正することはできません。つまり、ハッキングで盗まれたログインデータが権限のない何者かによって取引に使われる場合もありえます。つまり、ブロックチェーンは、システムを利用する際に高い注意力と細やかさが求められるのです。プロバイダーは積極的かつ透明性を持ってこれらの情報を提供しなければなりません。

(規制部門の)課題

これらのプライバシーの問題は、新技術、プロセス、プレイヤー、役割、そして(暗号)通貨をもつこの「素晴らしく新しいエネルギーの世界」には規制が必要であることを示しています。もっとも重要なことはユーザー保護ですが、ブロックチェーンの必要な開発を促すためにも規制は必要です。ブロックチェーンが対応を求められている事柄を見ると、それらはブロックチェーンを新しい取引技術とみなしています。しかし、特にエネルギーに関連した重要な必要条項があることも事実です。

一般的な必要条項

「中央集権の冗長性(the redundancy of a central responsible authority)」こそがブロックチェーンの主な利点ですが、これは主な規制の課題、すなわち責任と権限をどうするかという問いにつながります。電力会社や銀行による金融取引からピアトゥピアのシステムへの転換には「正しい金融取引、特に支払いプロセスの責任者は誰か?」という問いがつきまといます。ブロックチェーンをベースとしたシステムの安全な運営には、明確な責任条項が必要であり、例えば、支払いの不履行、技術的欠陥、意図的な改ざんなどについてです。

暗号通貨は(まだ)公的な通貨ではなく、ユーザーの資産は盗難や改ざんから保護されていません。これは、例えばEU加盟国の公的銀行の預金保証や、マーケットプレイスや取引所にかけられている保険義務規制などの保証の問題につながります。そして、これはさらなる問題につながります。現在の通貨はすでに国の政府によって作られ、規制されているため、ブロックチェーンや仮想通貨は、政府による規制が定まらない限り、既存の金融機関は幅広く受け入れることはないという障害に直面しています。果たして政府は仮想通貨を「受け入れる」のでしょうか?

エネルギーに特有の必要条項

上で述べた一般的な必要条項とは別に、エネルギー分野には、厳しい特別条項が必要になります。送配電系統を含むエネルギー供給システムは、国家の運営の中でも際立って重要な根幹をなすインフラです。従来のエネルギーシステムを補完し、部分的に代替するブロックチェーンをベースとした分散型の取引と供給システムは、既存のインフラに注意深く統合していかなくてはなりません。この「素晴らしく新しいエネルギーの世界」の中では、すべての発電と電力消費設備がスマートメーターやスマート機器を通じてスマートグリッド、モノのインターネット、エネルギーインターネットとつながることになり、この挑戦はより複雑になるでしょう。個々のスマート機器は技術的にはインターフェースであり、すべてのインターフェースはシステム全体の脆弱性となります。この「素晴らしく新しいエネルギーの世界」は本当に保護されうるのでしょうか、それともパンドラの箱を開けてしまうのでしょうか?従来の電力会社なしに、エネルギー市場の供給安全保障の責任を誰が負えるのでしょうか?

ブロックチェーン技術はエネルギー生産者と消費者の間での直接的な取引を可能にします − 消費者と生産者は、ともにプロシューマーにもなれます。従来の市場の役割は消え、新しい市場の役割が現れ、プレイヤーも役割を変化させます:

  • 誰が料金とネットワーク利用料を支払うのでしょうか?
  • 通りの向こう側で発電された電力の利用料金とネットワーク利用料は、数キロメートル離れたところから送られる電力のそれより低くて良いのでしょうか?
  • 電力消費と発電についてのデータは誰が入手できるのでしょうか?

高いエネルギー需要 − ブロックチェーンは持続可能か?

エネルギー分野におけるブロックチェーンは、しばしばエネルギー転換とポジティブに関連付けられ、気候変動対策としても取り上げられます。しかし、このポジティブな関連付けは果たして正しいのでしょうか?それとも、ブロックチェーンは、「エネルギー転換」や気候変動対策が生み出す収益性と便益を損なってしまうほどのエネルギー需要の大幅な高まりによる脅威によって、エネルギー分野では失敗してしまうのでしょうか?ブロックチェーンをベースとしたシステムは、すべての取引が分散型ネットワークで有効化され、処理されるため、エネルギー集約度が高いのです。この「採掘者(Miners)」と呼ばれるネットワークがシステムの非常に高度な安全性を確保しています。この高いレベルのセキュリティには多くのエネルギーが必要という、致命的な依存関係があるように感じられます。

エネルギー効率と気候変動への関心が高まっている中、コスト面だけでなく、環境面でも現在のエネルギーシステムを発展させようと目論んでいるこの技術は、その高いエネルギー需要のために、正当化が難しくもあります。セキュリティのレベルを下げることなくエネルギー需要を下げ、環境影響を最小化することは、困難な課題に思われます。仮に採掘のためのエネルギー需要が利用と取引の増加に比例して増加することはないとしても、取引ごとの平均電力コストを許容できるレベルに下げることは困難でしょう。そのため、ブロックチェーンは成功確実な技術ではなく、技術競争の勝者はいまのところ完全に未定です。

まとめと概観

協調型モデルとしてのブロックチェーン技術は、理論的には受益者としてのメンバー間の「共有経済」の成果です。ブロックチェーンは、すでに金融分野において、驚くほどの成熟度に達していますが、それをもって本当に金融分野に革命がもたらされるかどうかについて明言するにはまだ時期尚早です。パイロットプロジェクトからは、コスト削減、スピード、柔軟性について大幅な向上のポテンシャルをもっていることが分かっています。

エネルギー分野では、ブロックチェーンはまだ着想段階ですが、将来のエネルギーシステムに大きな影響を与える可能性を持っています。ブロックチェーンは、エネルギーシステムの分散化・民主化を進める消費者、プロシューマー、コミュニティプロジェクトの役割を際立たせるでしょう。特に小規模な、再エネのためのより多くの新しいビジネス機会を作り出すことで、ブロックチェーンは再エネ資源の利用を加速させ、それにより、エネルギー転換と気候変動対策に大きな貢献をもたらすことができます。

ブロックチェーンの将来は、技術改善、競合技術、さらにそれを利用する国や組織(EUなど)の支援政策の枠組みなどによって変わってきます。ブロックチェーン技術のための適切な規制の枠組みを整備することは、明らかに大きな社会的便益と巨大な経済的可能性を持っていますが、政治と立法者にとっては大きな挑戦です。まず、金融やエネルギーといった個別の分野によらないブロックチェーンの利用にかかる基本的な必要条項を吟味する必要があります。実際のところ、これに早く着手する必要があり、そこではマインドセットの完全な変革が求められます。発展速度が早い立ち上がりはじめた技術が必要とする俊敏性を持っているとは思われていない管理者と規制者が、これらの期待に応えることはできるのでしょうか。

エネルギー転換を進める国々は、プロシューマーを「歓迎する文化(Welcoming Culture)」を確保することについて、しっかりと情報を得ています。再エネの系統への優先接続といった規制の「基礎」とは別に、デジタル化する将来のエネルギーシステムにおけるプロシューマーの役割は決定的に重要です。ブロックチェーン技術は、プロシューマーのためのこの「素晴らしく新しいエネルギーの世界」のカギとなりうるのです。

ホルガー・シュナイデヴィント、ノルトライン=ヴェストファーレン消費者協会・エネルギー法政策オフィス/@cutwindt

元記事:Renewables International “Blockchain – Brave New Energy World for Prosumers?”(2016年9月21日)“Blockchain – Brave New Energy World for Prosumers? 2”(2016年9月22日)“Blockchain – Brave New Energy World for Prosumers? 3”(2016年9月22日)ISEPによる翻訳

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