10のチェックポイントで見る2016年のドイツ電力市場

5. 続く電力の輸出超過

2016年のドイツの電力輸出量(商業ベース)は63.3TWhでした。一方、周辺国などからの電力の輸入量は15.8TWhで、純輸出量はおよそ47.5TWhでした。輸出量が3割以上減ったにもかかわらず、輸入量も大きく減らしたので、純輸出も一定水準を保ちました。2015年の過去最高の記録には及びませんが、それに続く記録となりました。

国別では、近隣諸国の多くに対して輸出超過ですが、デンマークやスカンジナビア諸国などの北ヨーロッパや、ポーランドやチェコなどの東欧に対してはわずかに輸入超過です。また、オランダ、フランス、オーストリアに対する輸出量を減らしていますが、これは、昨年が水力発電に適した気候だったことによります。

電力輸出の超過量はドイツの総発電量のおよそ7%という大きな数字で、電力の輸出大国ドイツはすっかり定着しています。

解説:

冒頭に書いた商業ベースの電力輸出入とは、ある国に対しての純粋な電力の販売量、購入量のことです。欧州の各国間は送電線でつながっているため、例えば、ドイツで発電された電力が、別の国を介して先の国に運ばれることなどが日常的に行われています。また、同様の理由でドイツ国内を通過する(ドイツが購入していなくても)電力も存在します。それらは物理的な移動として、商業ベースの取引とは区別をして統計されています。

さて、昨年フランスは、ドイツから9.05TWhの電力を輸入し、ドイツに3.73TWhを輸出しました。その差は、フランスの5.32TWhの輸入超過です。ニュースでご存知だと思いますが、日本製鋼材の強度不足でフランスの多くの原発は停止中で、ドイツの電力のおかげで停電にならずに済んでいるというのが実態です。

お馴染みの「ドイツの再エネの導入できているのは、フランスの原発の電力を輸入できるから」ということを信じている方はさすがに少なくなってきていると思います。もし、みなさんがこのような主張に接した時は、その人がまじめに統計に触れようとしていないか、嘘をついていると思ってください。

6. 卸売電力価格はさらに低下

ドイツの卸売電力市場の価格は、再エネの拡大に伴って長期低落傾向にあります。1kWhの先物価格は、2015年の平均3.1ユーロセントから2016年は2.66ユーロセントに下がりました。また、翌日のスポット価格でも、2015年の3.191ユーロセントから2.881ユーロセントに下落を見せています。(アゴラのリポートでは1MWh当たりのユーロで示されていますが、私たちの感覚ではわかりにくいので、1kWhあたりのユーロセントで示します。)これは、本稿執筆時点の1月12日のレートで3円台の前半となるので、圧倒的な安さですね。

ヨーロッパの中で見ても、ドイツの卸売価格はポーランドに続く低い水準です。今、欧州の卸売電力の価格は、高低の2つのグループに分かれています。比較的高いグループは、イタリア、フランス、イギリスでなどで、ドイツ、オーストリア、北欧などが低いグループです。その差は2ユーロセントと2.5円もあります。フランスは原発の耐久性の問題(日本の製品ですが)による停止で苦しんでいます。主要な原因は、再エネの拡大、特に太陽光の電力がピーク時にスポット市場に大量に投入されることから起きるメリットオーダー効果によるものです。

解説:ドイツの電気料金の不思議

これだけ卸売価格が下がっても、一般家庭などの消費者がその恩恵をなかなか享受できないことは、昨年も書きました。

これはドイツの賦課金の制度が、電力を大量に消費する企業に一方的に有利になっているからです。特に、賦課金の減免制度がひどく、国際競争力を維持するためという名目で、電力大量消費企業は賦課金を大きく減免されてきました。昨年の改正前まで100分の1の賦課金しか払っていない企業がごろごろしていました。さらに、大きな企業は直接卸売市場から電力を仕入れることができ、何重にもメリットを受けています。だから、賦課金が増えても電気料金を理由にドイツ国外に出て行った企業は一つもありません。逆に再エネの割合が大きくなって企業は恩恵を受ける一方で、ほくほく顔です。

また、日本の減免制度は税金で補塡されますが、ドイツではその分を一般家庭などが負担することになっています。その中で、今年2017年の賦課金も上昇することが決まりました。家庭の電気料金は30ユーロセントで、1kWhあたり36円を超える高いものです。

FIT制度は買取価格と電力の原価との差額を賦課金で補てんする制度です。このため、原価の計算の基準となる卸売り価格が下がると補塡分の賦課金が増えることになります。再エネが増えて市場の卸売価格が下がると、逆に賦課金が増えて一般家庭の電気料金が上がってしまうのです。卸売価格は昨年末に向けて上昇傾向になり、2017年は卸売価格が少し上昇する可能性があるそうです。これで家庭の電気料金が下がるかもとなにやら不思議な論評も見られます。

7.「負の電力価格」の発生時間が減少

一昨年、ドイツでは売るのではなく逆にお金を払って市場に引き取ってもらう「負の電力価格(ドイツ語でNegative Strompreise)」が発生する時間が過去最大の126時間となりました。これに対して、2016年はこの負の電力価格の発生時間が、前年より大きく減って97時間となりました。この発生時間は、1年間のおよそ1%強の期間に当たります。一方、負の電力の平均価格はおよそ1.78ユーロセントでした。つまり、1kWhあたり1.78ユーロセント(およそ2円強)支払って市場に電気を引き取ってもらったということです。これは前の年の倍の価格です。

解説:負の電力価格の背景

電力需給は「同時同量」が原則なので、一定時間内で発電の変動に需要が対応しきれない場合、お金を払ってでも送電線に流して市場に引き取ってもらうことが起きます。市場の先には電力を使う需要家がいるので、特段安い電力価格にして、需要を喚起することになります。

背景にあるのは、第一に再エネ電力の増大です。特にVRE(変動再エネ)と言われる太陽光と風力発電の拡大です。だから再エネは不安定で困ると強調する人が日本にもいますが、果たして本当にそうでしょうか。

VREはいわゆる限界費用ゼロの電力です。つまり、電力を生み出すのに必要な原料費がタダなのです。こんな安い電力は他にはないので、電力を使う側にしてみればVREの電力を市場に流してほしいと思います。また、発電設備を持つ側にしても、原料がタダですから市場での競争力があり、従来型の高い発電施設を止めても市場に送り出したいはずです。ところが、電力システム全体(火力発電に限らず、電力融通や送電システム、需給管理、エネルギー貯蔵など)としてVREを受け入れる「対応力=柔軟性」が不十分なので、せっかくの限界費用がゼロの安い電力を十分に使い切れず、出力制限などのもったいない対応になっているのです。困った存在はVREではなく、柔軟性のない電力システムであり、VREの発電をきちんと使えていないことなのです。

アゴラのリポートでは、従来型の「稼働させなければならない」発電施設が多すぎて柔軟性に欠けるのが困ると、従来型発電がまず邪魔をしているとまとめています。

日本では相変わらず「ベースロード電源」などという時代遅れの考え方が原則となっていて、再エネ電力に対しての対応が歪んできています。「ベースロード電源」だからといってわざわざ高い発電をしたり、その電力を使ったりすることは、経済原則から考えてあり得ませんし、間違いなのです。

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