「想定外」を受け止め、希望の連帯へ(書評)

ますます先が見通せない今日、明日を見通すための最初の一冊として「変態する世界」を取り上げたい。エロを期待した諸兄には残念だが、本書の「変態」とはカフカの「変身」(メタモルフォーゼ)と同義だ。

「変態する世界」ウルリッヒ・ベック著 枝廣淳子・中小路佳代子訳/岩波書店

著者はウルリッヒ・ベック、1986年、チェルノブイリ原発事故の年に「リスク社会」を世に問い、20世紀後半で最も影響力のあった社会学者として知られる。本書は、一昨年に亡くなった彼の遺稿である。

「リスク社会」とは、簡単に言えば19世紀までは富の分配の政治だったが、科学技術が高度に発展してきた20世紀後半は、リスクの分配のための新しい政治が必要、というもの。加えて、グローバル化、個人化、家族関係などの変容とそのブーメラン効果など近代化への洞察も鋭く、21世紀を見通した金字塔の一冊だ。

本書は、その「リスク社会」を発展させたもので、冒頭からベックは挑発的だ。「私たちは、もはや世界を理解できない」ことを理解し説明することが本書の目的とある。

「世界では、昨日まであり得ないと思われていたことが次々に起き、継ぎ目が外れて狂ってしまっている」とベックが同書で述べているとおり、9.11テロ攻撃、リーマンショック、福島第一原発事故などが次々に起きている。どれも起きる前は「想定外」で、国民国家では対応できない世界史的な事件だ。否応なく世界化が進み国民国家が相対的に弱まりつつあるために、かつての強い国民国家に戻ろうとする反動で、英国のEU離脱やトランプ米大統領の誕生など、自国中心主義の極右への退行が起きている。安倍政権の「日本を取り戻す」もその列に並ぶ。

本書では気候変動が社会を大きく変えるという認識も通底している。ただし単なる危機感ではなく、気候変動は社会を大きく不安定にすると同時に、世界レベルで新しい形の協力という、かすかな希望を与える視点は新鮮だ。現実に、国際的なNGOはもちろん、自然エネルギー100%を目指すアップルやグーグル、化石燃料や原発に融資しない金融の新しい潮流などが始まっている。

今後も「想定外」の大事件は次々に起きる。それを従容として受け止め、希望の連帯を探る勇気を与えてくれる一冊だ。

日刊ゲンダイDigital:明日を拓くエネルギー読本「「想定外」を受け止め、希望の連帯へ」2017年8月9日より転載。