原発1号機の冷却失敗は氷山の一角(書評)

2011年3月11日の事故発生から福島第一原発の免震重要棟に陣取り、死を覚悟しつつ事故を収束させた故吉田昌郎所長は、海外からも「フクシマ50人のリーダー」と称えられたヒーローとなった。想定外の全電源喪失で大混乱の中、1号機の炉心冷却のための海水注入を東電本店から止めるよう指示されたが、吉田所長が一芝居打って継続した事実はヒーロー伝説の一つだ。

「福島第一原発 1号機冷却『失敗の本質』」NHKスペシャル「メルトダウン」取材班/講談社

ところが事故から5年半も経って、吉田所長が英断した海水注入が実はほとんど炉心に届いていなかったことが分かった。この失敗が、その後に続く世界史に例を見ない連鎖的なメルトダウンへの岐路となった。

なぜ1号機の冷却に失敗したのか。本書は、その「失敗の本質」を推理小説を読み解くように一つひとつえぐり出していく。

直接的な原因は、最後の冷却手段であった非常用復水器(イソコン)を活用できなかったことだが、本書はその背景にあった経験不足を指摘する。米国では5年に一度はイソコンを実動させる訓練が義務だが、日本の規制ではその義務が抜け落ち、運転員は40年もの間、一度も訓練していなかったのだ。これでは活用できるはずがない。

なぜ日本の規制から義務が抜け落ちたのか。日本の規制当局には、その経緯や理由の記録もないというお粗末ぶりも明らかにする。

本書の一部はNHKスペシャルのシリーズで報道され注目を集めた。人工知能も活用した分析など一報道機関としては、調査報道を越えて研究としても賞賛すべき成果だ。とはいえ「失敗の本質」の全貌からは「氷山の一角」に過ぎない。本来こうした調査研究は、世界の叡智を集めて行うべきものだ。それを欠いたまま強行されつつある原発再稼働は、「新たな失敗」を積み重ねている。

2011年のあの日あの時のことを、読者諸兄の多くは鮮明に記憶しているはずだ。それは未だに「歴史」ではなく、現在進行形の「事故」であることを本書は私たちに付きつけている。

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日刊ゲンダイDigital:明日を拓くエネルギー読本「原発1号機の冷却失敗は氷山の一角」より転載