地域経済のカギはエネルギーにある

日本の地域経済は、恒常的に疲弊しています。地方は、大都市よりも人口減少が先行し、需要不足と人手不足に悩まされています。それに対し、国・自治体に経済対策を望む声が、繰り返し出されています。国・自治体も、幾度も経済対策を講じていますが、疲弊感は一向に解消されません。少なくとも、従来の経済対策が効果をあげないことは明白です。

必要なことは、地域経済の課題を直視し、その構造的な解決に取り組むことです。資金の流れを見極め、どこで資金循環が滞っているのか、過剰に資金流出する構造になっていないか、経営者たちが価値創造を追求しているか、行政の経済対策は効いているのかなど、これまでの経済対策を惰性で続けるのではなく、いったん立ち止まって多面的に分析することが必要です。

その際、エネルギーという視点がカギになります。これまで、自治体も地域経済もエネルギーという視点を持ってきませんでした。だからこそ、フロンティアが広がっているといえます。

そこで、地域経済の課題を示し、それらとエネルギーの関係を整理しました。これまでのやり方を踏襲するのでなく、思いつきを乱発するのでもなく、データと論理に基づいて政策を講じていく必要があります。これまでの地域経済政策で、もっとも不足していたのは、データと論理、そしてエネルギーの視点だったのではないでしょうか。

地域経済を取り巻く3つの課題

第一の課題である人口減少は、地域経済を縮小させる方向で、強い圧力をかけてきます。もっとも大きい影響は、人口減少に伴う域内需要の縮小です。一人当たりの年間消費・投資額が同じであれば、人口の減少に比例して経済が縮小します。また、ブログ「民需と官需で人手の奪い合い」で示したように、労働力の不足に伴う生産力の縮小も懸念されます、一人当たりの労働生産性が同じであれば、労働力の減少に比例して経済が縮小します。

第二の課題は、供給過剰・需要過少の構造の常態化です。これまで、人々はお金を手にすると、何らかのモノに換えました。家を建てたり、クルマを買ったり、テレビ・オーディオなどの家電を購入したりと、自らの周りをモノで埋めてきました。ところが、現在は既に欲しいモノを持っているため、お金を使わず、貯め込むようになっています。そのため、モノを供給する能力が、モノを欲しいと思う人々の意欲(需要)よりも上回ってしまい、それが当たり前となりました。既に大半の人が、生活必需品と一定の嗜好品を周りに揃えていますので、かつての高度経済成長期と異なり、これから再び、需要が大きく増加することは考えにくい状況にあります。

これは、デフレーション(デフレ)が構造化していることを意味します。デフレは、モノの価値よりもお金の価値の方が高い状態で、その結果として、物価や賃金が下がっていきます。物価の下落によって賃金が抑えられ、明日もらえる賃金が今日もらえる賃金と比べて上がらないと思えば、人々はモノを買い控え、それがモノを作っている人の賃金に反映され、さらにモノを買い控えるという循環に陥ります。この循環が、デフレスパイラルと呼ばれます。これにより、経済は縮小していきます。

図表1. 日本のGDPデフレーターの推移(1980~2017年)(「世界経済のネタ帳」より)

第三の課題は、集中型から分散型への技術革新の転換です。産業革命以来、技術革新は社会の集中・統合を促し、それが集中型の技術を促進してきました。例えば、石炭の利用には、炭鉱の運営、船舶・鉄道による輸送、工場での利用、大量生産製品の販売と、それぞれの段階で巨額の資本と労働者の動員、その管理が必要でした。石炭から石油へとエネルギー源が変わると、その流れはさらに強まり、原子力では国家の関与を必要とするほどになりました。それは、メディアでも同様で、新聞からラジオ、テレビと発信側が大資本となっていき、情報量も膨大になっていきました。それが、インターネットや再生可能エネルギーという分散型技術の急速な発展により、急速に逆転しつつあります。それは、従来型の産業が陳腐化しつつあることを意味します。

地域経済は、これら3つの課題に適応できないでいます。依然として、人口増加期の産業形態・経営思考のまま、デフレを一時的な苦境と捉え、域外の大企業からのトリクルダウンに期待しています。それでは、そのうち行き詰まることが避けられません。必要なことは、3つの課題を認識し、真正面から地域経済の改革に取り組むことです。起死回生の一発逆転を狙うのでなく、地道な取り組みが求められます。

地域経済で必要な5つの政策

人口減少、需要過少、技術転換という3つの課題に対し、5つの政策を打つことで対応できます。すべてが自治体で完結できる政策ではなく、国レベルで取り組むべきものもあります。ただ、そうした政策についても、自治体から積極的に提案・要望することで、実現を目指していくことが重要になります。

第一の政策は、労働生産性の向上です。一人当たりの稼ぐ力を高めることで、人口減少に比例した経済縮小を緩和します。それには、ブログ「国際比較でも労働生産性が低い日本」で解説したように、より短い労働時間で、より稼ぐ経営をしなければなりません。そのためには、従業者の自発的な創意工夫を引き出し、様々なレベルでイノベーションを起こしていく必要があります。

第二の政策は、衰退産業から成長産業へと働き手を移動させることです。衰退産業が市場から退出することは自由経済であるため避けられませんが、働き手をスムーズに移行させることで、失業を防止しつつ、成長産業の人手不足を解消し、労働生産性を高めます。ブログ「雇用のミスマッチとトレーニング」で解説したように、日本はこの点への公的支援が他の先進国に比べて非常に弱く、トレーニングやリスクが働き手個人の負担になっています。

第三の政策は、輸入置換です。域外から購入している製品・サービスについて、域内での供給に切り替えることで、域外の生産額を域内に置き換えます。ジェイン・ジェイコブズは、著書『発展する地域衰退する地域』(筑摩書房)で、輸入置き換えこそが都市の発展で重要と指摘しています。ただ、置き換えするときに製品・サービスの価格が高く(質が低く)なってしまえば、社会全体での効率は低下し、域内の消費者が過剰なコストを負担しなければならなくなります。そのため、強引に輸入置き換えを進めると失敗します。

第四の政策は、負の効用に由来する経済活動を正の効用に由来するものに転換することです。例えば、大きな病気をすれば、医療分野で生産額が増加します(図表2)が、病気の予防のためにジムへ通えば、スポーツ分野で生産額が増加します。マクロで見れば、いずれも生産額を増加させるものですが、同じ金額の消費額であっても、当人や社会にとっての効用はまったく異なります。前者は生活の質を元に戻す消費(戻るとは限りません)ですが、後者は生活の質を向上させる消費(病気にならないとは限りません)です。

図表2. 国民医療費の推移(厚生労働省「平成27年度国民医療費の概況」)

第五の政策は、価値の創出です。今まで誰も欲しいことに気が付かなかった製品・サービスを生み出し、手に取らせることです。例えば、SONYのウォークマンは、いつでもどこでも音楽を聴けるプレーヤーで、世にでるまでそうした製品が欲しいということに、誰も気が付きませんでした。また、アップルの製品は、そのデザインやコンセプトが価値となり、他社の類似製品との差別化につながっています。

地域経済5政策を進めるカギはエネルギーにある

それでは、具体的にどのような地域経済政策を展開すればいいのでしょうか。「労働生産性の向上」「成長産業への働き手の移動」「輸入置換」「正の効用をもたらす経済活動」「価値の創出」という5つの政策方針があっても、手法がなければ絵に描いた餅です。行政資源に乏しい自治体とすれば、一つで複数の効果が見込める効果的な手法が欲しいところです。

カギは、エネルギーにあります。国内で使用するエネルギー源の大半が、海外から輸入する化石燃料・鉱物資源です。その点を逆手に取ることで、地域経済の発展に結びつけることができます。

日本は毎年、巨額の対価を支払って、化石燃料等を輸入しています。図表3は、その推移です。年によって輸入額は異なりますが、中長期的に輸入額が増加する傾向にあります。輸入額が変動するのは、石油の国際価格の変動に影響されるためです。石油以外の化石燃料等の価格も、基本的には石油に連動しています。この石油の国際価格が、変動しつつも中長期的に上昇しているため、日本の化石燃料等の輸入額も増加傾向となっています。

図表3. 日本の化石エネルギー輸入額の推移(環境省資料

エネルギーの効率化や国産化への投資を行い、化石燃料等の輸入を削減すれば、投資分だけ国内市場を活性化できます。効率化や国産化の元手は、将来的に削減を見込む輸入代金ですので、それは国民負担でなく、投資です。

この考え方に立ち、生産におけるエネルギー効率化を進めれば、企業の純益が増加し、労働生産性が向上します。企業の一人当たり労働生産性の式は「(売上高-費用総額+給与総額+租税公課)÷従業者数」です。労働生産性は、売上高と給与総額、租税公課が増えると向上し、費用総額と従業者数が減ると低下します。生産量を下げずに使用するエネルギーを効率化すれば、費用総額が減るため、労働生産性が向上するわけです。

生産量を下げずにエネルギー効率化を進めることは、実現性の高い手法です。LEDやICT等の技術革新により、生産設備のエネルギー効率は年々高まっています。設備投資をしないとしても、マネジメントの改善でエネルギー効率を高める手法も確立されています。加えて、毎年変動する売上の利益と異なり、エネルギー効率化による純益は、毎年確実に期待できるものです。

一方、一部の大企業を除けば、エネルギー効率化の取り組みは遅れています。環境省資料によると、日本のエネルギー生産性は、イギリス、フランス、ドイツより劣っています。経年では、2010年頃までは横ばい傾向で、2011年の東日本大震災頃から改善し始めました。

よって、自治体が地域企業のエネルギー効率化を促進することで、労働生産性を改善することができます。それも、環境政策でなく、経済政策に位置付けることが重要です。

再エネと省エネは輸入置換の優等生

輸入置換とは、域外から購入している製品・サービスを域内供給に切り替えることです。それにより、域外の供給者が手にしている対価を、域内の供給者が手にするようになります。その分だけ域内の所得が増加し、さらなる投資・消費の拡大につながります。それを繰り返すことで、域内の産業が発展していくことになります。

一方、輸入置換は副作用があるため、慎重に進める必要があります。輸入置換に伴って製品・サービスのコストが上昇すると、域内の消費者にとって不利益となるばかりか、社会全体にとっても非効率となるからです。とりわけ、同国内で地域単位の輸入置き換えにこだわり過ぎると、消費者は不当な価格での購入を強いられ、企業は市場を広げられません。

その点、エネルギーの輸入置換は、高い効果を期待できます。エネルギーの輸入置換を地域で進めるとすれば、再生可能エネルギー(再エネ)と省エネルギー(省エネ)への投資をすることになります。いずれも、初期投資を必要とする一方、運転資金をあまり必要としません。再エネは、バイオマスを除けば、燃料費を要しません。省エネは、エネルギーの削減分を維持するために、継続的な費用を要しません。そのため、資金が継続的に流出しません。投資した分、確実に資金流出を抑制できます。

輸入置換に伴う副作用も、大きくありません。再エネのコストは、固定価格買取制度の始まった当初こそ高いものでしたが、普及に伴って急速に低下し、今後も低下していく見込みです。価格下落の先行する海外では、石炭や原子力等のあらゆる電源と比較しても、太陽光発電や風力発電がもっとも安い電力単価になっている地域もあります。省エネのコストも、数年で投資回収できる取り組みもまだ普及の余地があるため、政府系の団体が支援をしています。売上低下の影響を大きく受けるのも、海外のエネルギー供給者であり、地域への影響は比較的小さいものです。

輸入置換の進め方は大きく3通りで、「省エネへの設備投資」「地域で使用するエネルギーの代替」「地域産エネルギーの域外への販売」です。図表4の左側が現状で、右側が取組を進めた将来像です。中長期的にエネルギー代金として流出するはずだった資金を、省エネの設備投資に振り向けることで、域外への資金流出を域内投資に転換できます。地域で使用するエネルギーを地域産エネルギーで代替する場合は、遠くに運びにくいエネルギー、すなわち熱を重視すると有効です。地域で生産する再エネで、遠くに運べるエネルギー、すなわち電気であれば、域外に販売して域内への資金流入を拡大することも可能です。

図表4. エネルギーと地域経済の関係(自然エネルギー財団「地域エネルギー政策に関する提言」)

注意しなければならないことは、エネルギーの流れより、それに伴う資金の流れです。地域経済政策ですので、地域産エネルギーが増えても、資金循環・流入が拡大しなければ無意味です。域外事業者による再エネでは、その事業者が事業利益を手にするため、資金効果は発生しません。域内の住民・企業が、事業を手がけることが極めて重要になります。

住宅の断熱投資を増やして医療費を削減する

負の効用に由来する経済活動を正の効用に由来するものに転換することでは、断熱住宅の普及による循環器系疾患の抑制が有効です。ブログ「医療費・介護費を減らすと同時に地域経済を活性化」で解説したように、新築・改修で住宅の断熱性・気密性を高めれば、循環器系疾患に代表される季節変動のある病気・死因を予防できるとともに、医療費・介護費を抑制できることになります。

実際、夏と冬の死亡の差には、住宅性能の違いによる地域差が大きくあります。図表5では、寒冷地の北海道でその差が小さく、北関東や西日本の太平洋沿岸地域でその差が大きくなっています。比較的温暖な地域の方が、冬の寒さで亡くなる人が多いのです。

図表5. 冬季死亡増加率の都道府県比較(国土交通省「住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する調査の中間報告」

これは、医療・介護サービスの消費を、建設分野の投資に代えることを意味します。循環器疾患になった後の治療やリハビリに伴う出費でなく、住宅の断熱性向上に投資し、快適な住環境と循環器系疾患リスクを低下させた生活環境を手に入れることになるからです。

どちらも、経済全体の視点からすれば、消費・投資という意味で同じですが、住民にとっての効用はまったく異なります。暑さ寒さを我慢しながら循環器系疾患の後遺症や再発の不安を抱える生活と、快適な室温で健康リスクの低い生活を送るのとでは、天と地の差があります。まさに、負の効用でなく、正の効用の選択です。

同様に、再エネの普及によって、環境価値が増加します。化石燃料は、必然的に温室効果ガスを排出します。一方、再エネはほとんど温室効果ガスを排出しないため、その分だけ環境に対する価値が高いことになります。環境価値の低いエネルギーを利用することに対し、国・自治体は環境政策を講じて、その社会的な影響を抑制しようとしています。環境政策は税金を原資にしていますので、住民は化石燃料による影響に対して、その価格に直接ではありませんが、税金を通じて対価を支払っているわけです。あるいは、環境の質の低下を甘受するというかたちで、対価を支払っています。再エネの場合、そうした対価を支払わなくて済みますので、その分だけ、環境価値があることになります。

再エネの環境価値は、グリーン電力証書として市場取引されています。観念的な価値でなく、市場で金銭的に評価されている価値です。

地域経済政策の目的は、単に地域の金回りを良くすることでなく、それを通じて住民福祉を向上することにあります。資金循環を高めるだけでなく、その方向を変えて、同じだけの資金循環でより効果的に住民福祉を向上することができれば、目的の達成になります。

これまで自治体は、住民福祉を向上させる地域経済政策という視点を持っていませんでした。これらの分野に民間投資を誘導することは、自治体に求められる経済政策です。

エネルギー分野で新たな価値を創造する

地域経済における再エネの利点は、固定価格買取制度で環境・社会面での価値が既に評価されていて、必ず売れることです。価格は、長期の投資回収と収益性を評価して設定されているため、慎重に事業計画を立てて順調に発電すれば、必ずペイできます。新たな価値が評価され、販売と事業性が保証されている製品・サービスは他になく、地域経済を活性化する観点で、再エネ事業に取り組まない理由はありません。

再エネを地域経済に資するようにするためには、地域の関与が重要になります。再エネ事業の特徴は、事業所得すなわち経営者・所有者の利益の大きさにあります。雇用効果はそれほどありません。そのため、再エネ事業を地域の住民や企業、団体等で所有することが、地域に利益をもたらすために重要となります。逆に、エネルギーの地産地消であっても、事業の所有者が域外にいれば、利益の多くは域外に流出してしまいます。

再エネ事業の利益は、事業のリスクテイクの割合に比例します。リスクテイクの意欲を持ち、地域での出資割合を高めれば、利益もそれに応じて地域にもたらされます。リスクテイクする意欲がなければ、利益も域外に流出します。図表6は、その関係を整理したものです。リスクテイクする「地域主導型」、リスクテイクしない「外部主導型」、その間に「協働型」があります。これは、基本的に外部主導であっても、一部の出資を地域から募る「地域参画型」と、事業収益の一部を寄付等によって地域に還元する「地域配慮型」に分かれます。

図表6. 再生可能エネルギー事業の類型(自然エネルギー財団「地域エネルギー政策に関する提言」)

再エネによる地域経済への効果を高めるには、自治体が地域主導型を促進するとともに、外部主導型を協働型へ誘導することが重要になります。自治体には、条例・計画で方針を明確にし、具体的な支援策・誘導策を講じることが求められます。

これに関連して、再エネ事業を担いうる人材の育成も重要です。再エネ事業の前例は少なく、体系的なトレーニングプログラムを実施することで、再エネ分野への人材移動を促すのです。例えば、おひさま進歩エネルギー株式会社は、飯田自然エネルギー大学という再エネ事業の人材育成プログラムを実施し、これを長野県と飯田市が支援しています。

また、価値の創出には他の取り組みも考えられます。例えば、木製サッシは、断熱性が高いため、高断熱・高気密住宅の重要アイテムですが、見た目が美しく、住宅の外見を高級感あるものとし、美しい街並みに寄与します。ところが、日本で普及しているサッシはほぼアルミ製で、断熱性が低いばかりか、無機質で安っぽい印象を与えます(個人の感想です)。自動車の高級感にこだわる人が結構いるのですから、より高額な買い物となる住宅の高級感にこだわる人も大勢いるでしょう。

重要なことは、省エネや再エネという新たな分野で、様々な付加価値を柔軟に見出すことです。分散型エネルギーだからこそ、イノベーションの機会も分散型で存在しています。

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地域政策デザインオフィス「政策ブログ」より再構成