原発賛否で安倍内閣・経産省が秘密にしておきたいこと

原発再稼働を進める安倍内閣と経済産業省にとって、それは世間に知られてはならない秘密だったのだろうか。新しいエネルギー基本計画をつくるときの「パブリックコメント」で、脱原発を求める意見が9割を超えていたことが、朝日新聞の集計・分類でわかった(2014年11月12日朝刊)。「原発維持・推進」は1%だった。政府はそうした原発の賛否割合という重要な国民の前に示さなかった。脱原発の声が多くなるとみて、あえて分類しなかったのか。それでいいのか。

最初に断っておくが、筆者も、民意を探る手段としてパブコメが万能とは思わない。パブコメは、強い思いを持つ人が出す傾向がある。それでも、国民が直接、政府に政策づくりで意見を言うことができる大切な手法だと思う。原発のような意見が分かれるような重要な問題では、その賛否割合も知っておくべき情報のはずだ。

その点で、貴重な前例がある。民主党の野田内閣は2012年夏、2030年代の原発の依存度をめぐって、「国民的議論」としてパブコメや各地での公聴会などを実施した。このパブコメでは、約8万9千件のうち87%が、「0%」を選んだ。

野田内閣は、さらに公聴会やマスメディアの世論調査なども参考にして、国民の過半数が原発に依存しない社会を望んでいると判断し、「30年代に原発稼働ゼロ」の方針を決めた。この民意を政策に反映させようとした試みは、もっと評価されていいと筆者は思う。

自公連立の安倍内閣に変わって後の今回の政策決定はどうだったろう。時の政権の意向に従ったものだろうが、経産省は2013年12月6日、原発を「重要なベースロード電源」と位置づけた基本計画の原案を示し、それから1カ月間、パブコメに付した。

経産省は2014年2月、集まった意見は約1万9千件だった、と発表した。民主党・野田内閣の時より、数が大きく減ったのは、原発維持に動く安倍内閣へのあきらめ感だけでなく、パブコメを求めているという国民へのPRも足りなかった、と筆者は思う。

この2月の発表時、経産省はパブコメに寄せられた主な意見も明らかにしたが、原発の賛否割合という重要な情報は出さなかった。経産省の担当者に聞くと、そもそも今回は原発への賛否を分類していない、という。当時の茂木敏充経産相は「数ではなく内容に注目して整理を行った」と国会で説明した。

しかし、どうだろう。あれだけの災禍に見舞われた東京電力福島第一原発事故の後、はじめてのエネルギー基本計画だ。原発政策のあり方が問われているのは、民主党・野田内閣のときと変わりないはずだ。やはり、パブコメなどを通じて、政府として原発への賛否という民意を探る必要があったのではないか。選挙で勝てば何でも許されるわけでもあるまい。

政府がやらないなら自分で分類をやってやる。筆者は2014年3月、経産省に対して、パブコメに寄せられた意見のすべての開示請求をした。膨大な量になることは分かっていた。筆者はもう経産省の情報公開窓口の常連になっているが、さすがの窓口担当者も驚いていた。

さて、示されるだろうか。民主党・野田内閣のパブコメでは基本的にその「コメント」が開示されていた。だから、非開示決定はできないはず、とひそかに思っていた。予想どおり、経産省は5月上旬、個人情報保護のために名前を消す作業の終わった2,301ページを開示し、9月上旬には残る1万8,628ページを開示した。コピー代は1枚10円。つまり全部のコピーをもらうのに、20万円余りの費用がかかった。

ということで、9月上旬、筆者の目の前に、2万枚を超えるコピーが積み上がった。重ねたら1メートルを超えるだろう。

どう分類しよう。微妙な判断も求められそうでアルバイトを使うわけにはいかない。日々のニュースに追われている前線の記者に応援を頼むのも心苦しい。やはり、独力でやるしかないな、と覚悟を決めた(実際には、すこし同僚らの助力を仰いだ)。

まずは、分厚いファイルを集め、そこに数百枚~千数百枚ごととじ込む。と同時に、書類の脇にシールを折り曲げて貼る「タックインデックス」を大量購入。そのうえで、ファイルにとじたコピー1枚1枚に目をとおしはじめた。

原発に反対の意見はその用紙の「上」のほうにタックインデックスを貼る。一方、原発に賛成の意見は「下」のほうに、「その他」は真ん中ぐらいに、と貼り付けていく。「再稼働反対」「いますぐ廃炉に」などと目に飛び込んでくるものはいい。だが、読み込まねば真意が分からないものも少なくなく、これに時間がかかる。

悩んだのは、「反対します」「核燃サイクル反対」とだけ書いてあるものだ。原発以外の理由でこの基本計画に反対している人もいるかもしれない。核燃サイクルに反対でも、原発は推進という考え方もありうる。それで両者は、「その他」に分類した。脱原発の思いを持つ人が書いたと推測できるのだが、裏付けがとれない以上、仕方がなかった。

実は、かなり早い段階で、絶望感にとらわれた。やってもやっても減らないのだ。経産省が原発への賛否を分類してくれれば、こんな苦労しなくていいのに、と何度も思った。意見を寄せた方には失礼だが、眠くならないよう受験勉強時代のごとくガムをかみながら、頑張った。途中、連載「プロメテウスの罠・ふるさと訴訟」の執筆をはさみつつ作業に専念した。

そして、ようやく11月初旬、全部に目を通しおえた。複数ページに及ぶものを一件として数えると、1万8,711件。原発への賛否では、廃炉や再稼働反対を求める「脱原発」が1万7,665件で94.4%だった。「原発維持・推進」は213件1.1%、「その他」は833件4.5%だった。

「脱原発」の意見の中には、同じ文面のファクスも数十件あったが、名前が消されているので、同一人物によるものかどうか判断できない。やむなく、それぞれを一件として数えたが、仮に同一人物でも、大勢に変わりはなさそうな量だった。

とにもかくにも、反対を示す「上」のほうのタックインデックスが異様に膨らんだコピーファイルの山ができた。

やはりパブコメの結果は「脱原発」が圧倒的だったのだ。

この分類は実質的に筆者1人でできた。経産省であれば一週間もあればできた作業だろう。それをしなかったのは、やはり、この分類結果を出したくなかったのだろう。

ちなみに朝日新聞社の14年10月下旬の世論調査でも、安倍内閣が進めようとしている原発の再稼働について、「反対」は55%で、「賛成」の29%を上回った。13年6月以降、同じ質問を9回しているが、傾向は今回も変わらなかったと記事は書いている。

原発回帰のエネルギー基本計画、そして原発の再稼働への動きは、民意の裏打ちを欠いている。筆者としては、エネルギー基本計画のパブコメの分類で、94%の反対、1%の賛成という情報を世に出せたことを、よかったと思っている。

WEBRONZA

 

 

オリジナル掲載:WEBRONZA, 原発賛否で安倍内閣・経産省が秘密にしておきたいこと(2014年11月12日)