ドイツのシンクタンク「アゴラ・エネルギーヴェンデ(Agora Energiewende)」が、ドイツの2015年の電力市場のまとめを発表しました。昨年のドイツのエネルギー事情は、再エネを中心に歴史的な記録尽くしの1年となりました。このレポートからドイツの現状を見ていきましょう。

電力分野のエネルギー転換:2015年の動向(Die Energiewende im Stromsector: Stand der Dinge 2015)」と題するこのレポートは、ドイツの電力分野で昨年起きたことを10のポイントにわかりやすくまとめたものです。ポイントを訳しながら、日本のエネルギー政策との違いなどを簡単に解説していきます。


1. 再生可能エネルギーにとって最高記録の年に

再生可能エネルギーによる発電量が、全発電量の30%となり、再エネの存在がさらに際立ちました。特に風力発電は、昨年の9.1%から13.3%と+4.2ポイントで、発電量でも5割増の成長を見せました。

ドイツの総発電量は、昨年674.1TWh(過去最高)でおよそ日本の3分の2に当たります。このうち再エネによるものが194TWhで、これは25年前の1990年に比べて10倍に伸びました。当時は、ほとんどが水力発電だったことを考えると、驚くべき普及です。また、前年の2014年比で31.6TWhの増加となり、1年間の増加量も過去最高となりました。

もうひとつの再エネに関する重要な数字は、電力の輸出などを除いた消費電力に占める割合です。これが、ドイツ国内の消費電力の32.5パーセントに達し、ほぼ3分の1の消費電力が再エネによることになりました。

解説:これは、紹介しているレポートの表紙に大きく示されるほどのインパクトだったようです。また、政府が目標としている2025年における再エネ電力の割合は40%から45%の間となっており、この達成に向けても着実に歩んでいることを示しています。

2. 電力使用量はわずかに上昇

2015年にドイツ全体で使用した電力量は、前年に比べて1.7%と、わずかですが増加しました。これは全体に寒かった天候による要因が大きいとしています。しかし、2020年までに2008年比で10%の電力使用量を減らすという目標に対して、2015年段階でわずか3.4%しか進んでいないことになります。これは、いわゆる省エネ、エネルギー効率化の課題で、目標達成のためには、さらなる効率化が必要だとしています。

解説:ここで重要なことは、エネルギー消費と経済成長の「デカップリング(分離)」です。日本と違って、ドイツはこの10年間ほどの間に着実な経済成長を続けていますが、一方で、エネルギーの効率化も行われ、電力消費は確実に減っています。

そこに経済成長とエネルギー消費の「分離」を実践している手本と言われる現状があります。いまだに経済成長に合わせて電力消費が増えるというモデルを前提にしている日本政府と比べ、際立った違いを見せています。

3. 従来型のエネルギーによる発電の減少

再エネに比べ、従来型の発電はいずれも減少しました。原子力と天然ガスは前年に比べて数TWh、また、石炭からの電力はわずかに減少しました。原発の減少は脱原発政策の着実な進行、天然ガスは再エネ発電の拡大による「メリットオーダー効果」の影響です。ただし、昨年の寒さによって、熱需要が増えたため天然ガス全体の消費はやや増えています。

この後、5の項で示すように、ドイツでは需要を大幅に越えた発電量が輸出に回っています。取り上げたレポートでは「国内の電力需要は再エネ電力でこれまで以上にカバーされているため、石炭火力での電力がますます輸出されるようになっている」とまとめています。

解説:原発の減少による電力が再エネで補われていることが数字で証明されています。ここでも「日本の常識」とは違う実態が見て取れます。

4. 気候変動対策の停滞

CO2の排出は前年に比べて、わずかに上昇しました。これは2015年が寒い年となり、暖房用のエネルギー需要がやや増えてことによるとしています。これで、2011年の水準に戻ってしまいました。ドイツの2020年時点でのCO2削減目標は1990年比26%というもので、達成はさらに厳しくなったとみられています。発電に限らず、熱や交通セクションを含めた広いエネルギーにわたる一貫した脱CO2戦略が必要であるとレポートは結んでいます。

解説:大きな要因の1つは、石炭による発電が変わらず続いていることです。COP21の合意からも今後石炭発電に対する風当たりはさらに強くなることは必至と考えます。

5. 拡大を続ける電力輸出

2015年のドイツの電力輸出は過去最高の97.8TWhとなりました。一方で、周辺国などからの電力の輸入は36.9TWhで、純輸出はおよそ61TWhとこちらも過去最高でした。昨年の記録を破ったばかりか、50%増を達成しています。これは、ドイツの総発電量のおよそ8%という数字です。ドイツに対して、電力の大幅な輸入超過となっているのは、オーストリア、オランダ、フランスなどで、いずれも年間でおよそ10TWh以上を多くドイツから買っています。最大の理由は電力価格の差です。電力も商品ですから、安い電力は魅力となります。ドイツのマーケットの電力価格はスカンジナビア諸国についでヨーロッパで2番目に低い実績があります。

解説:どうでしょう。皆さんの常識と一致しているでしょうか。「ドイツの再エネの導入が拡大できたのは、フランスの原発の電力があるから」「再エネの導入で、ドイツの電力価格が高騰した」と思っている方がまだいらっしゃるかもしれませんが、これを機会に正しい認識を持っていただきたいと思います。今後、このような勘違いを聞いた時には、それを主張する人が遅れた知識を持っているか、あえて嘘を喧伝していると警戒した方が良いでしょう。

細かく示すと、昨年フランスは、ドイツから13.27TWhの電力を輸入し、ドイツに3.84TWhの電力を輸出しました。その差は、フランスの9.43TWhの輸入超過です[1]。フランスは、福島事故の直後の2〜3か月を除いて、一貫してドイツに対して電力の輸入超過状態です。隣国ドイツの電力を当てにしているのは、フランスの方です。原発に頼り過ぎて冬の暖房を電気に変えた家庭などが多かったのも電力需要の増加を呼んだと言われています。また、なぜフランスがドイツから電力を輸入するかという理由は、電力の市場で取引される価格を見てみれば一目瞭然です。

昨年12月で、ドイツでは1kWhあたりおよそ3.1ユーロセント(およそ4.1円、1ユーロ=130円換算)、フランスは3.5ユーロセント(およそ4.7円)とドイツの方が安くなっています。昨年のどの時期でも一貫してドイツの方が安いという傾向があります。フランスの電力も他の欧州諸国に比べれば安いのでのですが、ドイツにはかないません。ドイツでは、再エネの拡大、特に太陽光によるメリットオーダー効果でどんどん電力の市場価格が下がっています。

「再エネは高く、原発の電力は安い」というのが過去の神話であることは理解して頂けたと思います。

6. 卸売電力価格はさらに下がるが、家庭の料金は高止まり

ここで他の欧州諸国のマーケットでの電力価格を少し書いておきましょう。(レポートでは1MWh当たりのユーロで示されていますが、私たちの感覚ではわかりにくいので、ここでは1kWhあたりのユーロセントで示します)

比較的高い国は、イタリア、イギリスが5~6ユーロセント(およそ6.5~7.8円)、スペイン、ポルトガルが5ユーロセント、オランダが4ユーロセント(およそ5.2円)、フランスが4ユーロセント弱、ドイツが年平均で3.1ユーロセント(およそ4円)などとなっています。ドイツより安いのは、ノルウェーなどのスカンジナビア諸国が作る市場のノルドプールで、欧州でもっとも安い水準になっています。

ドイツの電力価格を2015年内の推移でみると、5月が2.5ユーロセントと最も安く、一方10月が最も高く4ユーロセント弱、平均は先ほど述べたように3.1ユーロセントでした。5月は太陽光発電が最も多い時期だからと思われます。2008年には6.99ユーロセント(およそ9円)と現在の倍以上で取引されていました。その後も下がり、2011年の5.6ユーロセントを経て着実に安くなってきています。

見通しについてもレポートは示しています。今後も価格は下落傾向で、2016年から2017年の年間平均価格は3ユーロセントを下回るとみられています。また、その先2019年に向かってさらに下落し、その年末には2.5ユーロセントに迫る勢いです。

解説:電力料金とは何か

「ドイツの電力料金が再エネの拡大のために高くなって消費者が苦しみ企業は海外へ移転している」と言われたことがありました。このレポートの数字を見ると、あれ、だいぶん話が違うとお思いかもしれません。

まず、電力料金とは何かを考えてみましょう。すぐに浮かぶのは、毎月私たちが払っている電力料金です。私が住む東京電力では、12月分を計算すると1kWhあたり27円強でした。これは、一般家庭の消費者が支払う電力価格です。同様に、高圧契約で企業の払う価格もあります。

一方で、先ほどからご紹介しているのは、電力市場における卸売りの価格です。つまり、電力の価格と言っても、必ずしも一つではなく、何について話しているかを確認する必要があります。一方だけ取り上げて高い安いと言うのは、意味がありません。そして、ドイツの一般家庭の消費者が払う料金については、このあと理由も含めて述べますが、実際にかなり高止まりしています。

ところが、卸売りの価格は欧州の最低ラインです。最大の理由は再エネの拡大で、特に需要のピーク時に多く発電する太陽光発電の影響です。これまでも何度か書いたように、スポット市場で最優先に売られる大量の太陽光による電力が、メリットオーダー効果によって他の発電手段からの電力の価格も押し下げることになるためです。

そして、大量の電力をこの市場から仕入れることができる企業はその恩恵をたっぷり得ています。また、それに加えて賦課金の大幅な減免措置もあります。よって、恩恵に与れる比較的大きな企業は苦しんでいるどころか、再エネのおかげで助かっています。実際に「再エネの拡大による電力料金の高騰」でドイツから出ていった企業は1社もありません。これは、ドイツ政府が議会で認めている公式見解です。一方、一般家庭の消費者はそうはいきません。

ドイツの家庭の電力料金は高止まり

今年の一般家庭の電力料金は、平均で1kWhあたり29.5ユーロセントと予想されています。これは、日本円で38円にもなります。はっきり言って高いです。

その内訳を見てみましょう。まず、良く問題にされる再エネの賦課金です。2016年は、およそ6.4ユーロセント(およそ8.3円)で、電力料金のおよそ2割となります。2015年に初めて少し下がりましたが、今年は再び3%ほど上昇しました。全体の料金もそれに合わせるように2014年(29.5ユーロセント)からいったん下がり(29.1ユーロセント)、今年また2014年の水準に戻ってしまいました。残りの8割分を含めた内訳は下記の通りです。

2016年の家庭用電力料金(29.5€cent/kWh)とその内訳
発電原価 7.1(24%)
税金 6.8(23%)
託送料 6.8(23%)
再エネ賦課金 6.4(22%)
地域配電料 1.6 (5%)
その他賦課金 0.8 (3%)

発電原価、税金、託送料、賦課金でほぼ4分割されています。発電原価が4分の1にすぎないのに驚かれるかもしれません。発電原価は1kWhあたり9円ほどで、これは昨年より0.5ユーロセントも下がっています。2011〜12年の8.4ユーロセントから低落傾向が続いていますが、これは先ほど見た卸売市場の価格の低下を反映している形です。

また、電力を卸売市場から手に入れることを考えると、電力の原価は市場卸売り価格+賦課金となります。こちらは、卸売市場の価格下落を受けて、このところ1kWhあたり10ユーロセントを下回り続けています。2016年も下がって、卸売り価格の平均3.35ユーロセント(70%が1年先物ベース、30%が1年先物ピーク)+賦課金6.35ユーロセントで、合計9.70ユーロセントです。

解説:なぜ家庭の電力料金が高いのか

コストを押し上げているのは、なんといっても税金です。20%近い付加価値税の上にさらに環境税がかかっています。再エネの賦課金と合わせると料金の半分近くを占めています。さらに託送料の上昇が止まらないことが問題で、せっかく卸売り価格が低下していても、家庭の電力料金は逆に上がる現象が起きています。

実際には、安い卸売市場から仕入れた電力を元にした一般家庭への安価な料金プランもあります。しかし、消費者が小売事業者をあまり変えないという現実があって、卸売市場での低下メリットが電力料金に及びにくく、この対策も課題になっています。

7. 「負の電力価格」の発生時間の増大

ドイツでは、このところ発電事業者が余剰となった電力の扱いとして、売るのではなく逆にお金を払って市場に引き取ってもらう「負の電力価格(ドイツ語でnegative Strompreise)」が発生する現象がしばしば起きています。

2015年はこの負の電力価格の発生時間が、前年の倍の126時間となりました。この発生時間は、1年間の1.4%の期間に当たります。一方で、負の電力の平均価格はおよそ0.9ユーロセントでした。つまり、1kWhあたり0.9ユーロセント(およそ1円強)支払って市場に電気を引き取ってもらったということです。これは前の年2014年1.56ユーロセント(およそ2円)より大きく減っています。負の電力価格の時間は増えているが、その価格は下がっているという実態がわかりました。

負の電力価格の発生時間は、2012年には56時間で、年々増加し、ついに100時間を突破しました。一方で、引き取り価格は、2012年にはおよそ7ユーロセント(およそ9円)だったのに比べ激落しています。その結果、発生時間と引き取り価格(マイナスの価格)を掛け合わせた損失分は、2012年のおよそ3分の1になっています。

解説:負の電力価格の背景にあるもの

負の電力価格というのは、なかなか理解しにくいですね。電力需給は「同時同量」が原則なので、一定時間内での起きる発電の変動発生に対応しきれない場合、お金を払ってでも送電線に流して市場に引き取ってもらうことが起きるという事です。市場の先にはその電力を使う需要家がいるわけで、つまり、無理矢理安い電力価格にして、需要を作るということでもあります。

この原因は、第1に再エネ電力の増大があります。特に「変動再エネ(VRE)」と言われる太陽光と風力発電の拡大です。そこでは、だから再エネは不安定で困るし、場合によって損をするのでは、という声が聞こえてきそうです。

しかし、考え方を変えると別の側面が見えてきます。実際に、今回取り上げたレポートでは、もう1つの原因を挙げています。変動を吸収すべき従来型の発電システムの柔軟性が低いことです。

これは、どういうことでしょう。太陽光や風力発電といったVREは、限界費用(1単位の生産物を得るために必要な原価)が原則としてゼロ、つまり原料費が必要ない発電施設です。本来であれば、わざわざお金を払ってまで再エネ電力を引き取ってもらうより、原料費のかかる化石燃料などによる従来型の発電施設を止める方が、発電側にとってみれば経済的に良いに決まっています。

いくらドイツでも、現状では再エネ電力で100%カバーできるほどは再エネの発電能力は無いため、今のところ、ある再エネ施設の発電を続けるために別の再エネ発電を止めて需給を調整するということにはなりません。アゴラのレポートの内容の主旨は、従来型の発電施設の柔軟性の無さが、せっかくの安い再エネ発電を活かしきれていないということでもあります。

ここでお気づきの方もいらっしゃると思います。つまり、ドイツの発電の考え方は、日本とはまったく違っているということです。何を中心に発電システム考えるかというところが、日本とは違っているのです。

再エネ電力中心、特に限界コストがゼロである変動再エネをベースにしたドイツの考え方に、日本の「ベースロード」というものが入ってくる余地はありません。柔軟性が無い原子力や、柔軟性が低い従来型の発電システムは逆に邪魔になります。ベースロードによって、安い再エネが妨げられているという発想にまでなっているのです。そこまで来ると、はっきりとしたエネルギーシステムの選択になります。ドイツは、従来型を捨てて、再エネに将来を託したということです。

日本の再エネレベル、特にVREの割合はいまだに数パーセントにも達していません。ですから、ベースロードと再エネが共存していてもまったく不具合は起きません。一部、すでに大騒ぎをしている方々もいらっしゃいますが、それはおかしなことです。しかし、いずれは議論をしなければならない時期がやってきます。

もう一つ、日本ではまだ各種の再エネを一緒に考えていますが、エネルギー先進国ではすでにVREという呼び方で他の再エネと区別をつけ始めています。今後はこの考え方が重要になります。

8.
 再エネの記録、次々と更新

「ドイツのエネルギーシステムを性格づける特徴的な日」という名前で、2015年に再エネによる発電で起きた特徴的ないくつかの日をピックアップしています。

3月20日:部分日食が起きた日

前項でも述べたVRE電源の変動の極端な例となるのが日食です。突然太陽光発電ができなくなる事態にどう対応できるかが注目されていました。この日ドイツはたいへん天気が良く太陽光発電も順調でした。そして、9時半に日食が始まり、11時前に日食のピークが来て12時に終了しています。当然ですが、太陽光の発電量は日食が進むにつれ激減し、その後12時頃に回復しています。肝心の変動にどう対応したかですが、当日の全発電量の電源別の変動を見るとよくわかります。

そこで起きたのは2つです。揚水発電が急激に進んだこと、そして、ドイツの電力輸出量が大きく減ったことです。従来型の化石燃料などによる発電はほとんど変わっていません。そして、電力の卸売価格は日食の進行に合わせて価格が上昇しました。

解説:日食対応で2030年の予行演習

2030年には、特にVRE電源の割合が増えて、今回の日食のような事態が日常的に起こるとされています。よって、ドイツでは2030年に向けてのテストだとも言われました。今回の日食への対応は大変うまくいったと評価され、再エネ電力拡大へのポジティブな結果となったのです。

8月23日:再エネ電力のシェアが最高レベル

この日の午後1時に再エネによる発電がすべての電力需要の83.2パーセントになり、過去最高の割合となりました。全需要は50.8GWで、これに対して、太陽光発電が25.1GW、風力発電が18.9GWなどとなり、輸出などに向けられた余剰発電は16.9GWにのぼりました。その結果、当然ですが、電力の卸売りスポット市場は強い安値となり、1kWhあたりおよそ1ユーロセント(およそ1.3円)に下落しました。

11月3日:再エネ電力のシェアが最低レベル

この日の午後5時には、再エネ電力の発電能力の合計が7.3GWでした。これは、全需要の1割弱しかカバーできないものですした。これは特に風力発電が低いレベルになったのが原因です。午後5時時点では、わずか0.5GW、また同じ日の午後2時にはさらに低い0.2GWでした。

4月15日:電力需要最大の日で3分の2が再エネ電力

この日の午後1時には、電力需要が2015年最大の83.2GWとなりました。一方、再エネは、太陽光が27.6GW、風力が20.2GWなどで他の再エネ電源と合わせて、需要の66%をカバーしました。

9. 国民の圧倒的多数がエネルギー転換に賛成

ドイツ国民の大多数がエネルギー転換を支持しているという調査結果です。エネルギー転換について、「非常に重要」と答えたのがおよそ50%、また「重要」と答えたのが40%で、合わせて全体の9割が積極的に支持するという結果となりました。

また、どの電源が今後のエネルギーシステムの中で重要な役割を果たすかという問いに対して(複数回答)は、太陽光が85%でトップ、続いて風力の77%、水力44%、バイオマス24%と上位はすべて再エネ電源でした。一方で、従来型は、天然ガスの22%が最高で、原子力8%、石油7%、石炭5%となりました。

10. 2016年の展望:再エネの拡大と従来型の減少の傾向変わらず

まず、再エネ電力はさらに拡大すると予測しています。特に洋上風力発電は、FIT制度の後押しもあり、昨年から大型のウィンドファームが稼働を始めています。また、太陽光発電もやや持ち直して、ゆっくりですが拡大傾向に転じるとしています。FIT制度導入後初めて買取価格の引き下げが行われない一方で、パネルの価格が世界的には安くなっていることが、ポジティブにとらえられています。一方、従来型は原発の停止が着実に進むなど縮小が続くとしています。

もう一つ重要なのが、エネルギー政策からの観点です。今年からFIT制度に入札制度などが導入されるなど新しくなります。その中で、レポートでピックアップされているのは、新制度で厳しい環境となる小規模風力や市民エネルギーに対して、例外措置を取るかどうかの政策議論です。

また、昨年12月のCOP21の合意の実施が最重要課題だとされています。ドイツが約束するCO2の1990年比の削減率は、2030年に55%、20140年に70%、2050年に80から95%と非常に高いものです。特に2030年の目標に対しては、実際の対策を伴った行動計画を作ることが迫られています。これは、発電に限らず、熱や交通に関するエネルギーも含めたすべての分野に関する継続的な脱炭素戦略となります。

解説:特に後半は、パリ協定の実施が重い命題になっていることをうかがわせます。エネルギー政策を日本よりずっと体系的に進めているドイツでさえ、このままでは約束の数字の達成が難しいと考えられ、政府は頭を抱えています。

もちろん、日本も同様です。まずは、大きな幹となるエネルギー政策、そして、電力、熱、交通というすべての分野での「戦略」が日本にも求められます。昨年末から繰り返しお話しているように、CO2削減こそ2016年からの最重要事項であり、エネルギービジネスの基本であることをかみしめていただきたいと思います。

[1] 電力輸出入に関する資料は、欧州電力系統運用者ネットワーク(ENTSO-E)のデータをもとにアゴラ・エネルギーヴェンデがまとめたものです。そして、これは物理的な電力の移動(輸出入)ではなく、商業的な移動(輸出入)です。これはどういうことかというと、送電線を使って物理的にドイツを入った電力のすべてがドイツで使われる訳ではないという事での区別です。ドイツ国内の送電線を使ってさらに隣の国に流れる電力は、ドイツの商業的な輸入ではなく、最終消費地の隣国の輸入になるという事です。統計によっては、単なる物理的な移動をまとめたものがあり、そちらでは、一見ドイツがフランスから輸入超過している様に見える可能性があります。

日本再生可能エネルギー総合研究所 メールマガジン「再生エネ総研」第65号(2016年1月12日配信)、第66号(2016年1月19日配信)、第67号(2016年1月27日配信)より改稿

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日本再生可能エネルギー総合研究所代表/Energy Democracy副編集長。再生可能エネルギー普及のための情報収集と発信をおこなうエネルギージャーナリスト。民放テレビ局にて、報道取材、環境関連番組などを制作、1998年ドイツに留学し、帰国後バイオマス関係のベンチャービジネスなどに携わる。2011年に日本再生可能エネルギー総合研究所を設立、2013年株式会社日本再生エネリンク設立。

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