「九電ショック」でわかったこと(1)

2014年11月28日

「九電ショック」の衝撃

2014年の9月末の「九電ショック」は、日本の再生エネ普及に取って、大きな転換点になるでしょう。私にかかってきた電話の中には、悲痛なものさえありました。

「まさか日本はたった2年で再生可能エネルギーを止めてしまうんじゃないでしょうね。」

声が震えていました。九州電力だけでなく、東北電力など続いて回答保留を発表した各電力会社の説明会会場には定員を大きく超えた事業者などが殺到し、怒号が飛び交うこともあったと聞きます。

マスコミだけでなく、WWFや自然エネルギー財団など多くの再生エネ関連の団体などがコメントを発表しました。経産省も委員会を作って検証を行い、年内に対応策をまとめるとしています。このまま回答保留が続けば、影響は非常に大きなものになるでしょう。地域の太陽光発電の施工会社や事業会社によっては会社の存続にもかかわる可能性も指摘されています。

ただし、言葉を選ばずに言えば、今回のショックはある意味で良い機会だと思います。放っておけば、いずれ似たような問題が噴出することになったはずです。実は、今回の騒ぎでは、わかったことがたくさんあります。そして、それは必ずしも再生エネの普及に悪く働くことばかりではないのです。

前向きに考えましょう。ショックの対応策はそれほど難しいことでありません。すでに再生エネが普及している多くの国で実行されていることです。「九電ショックでわかったこと」を冷静に整理して、対応策を検討し実行していけば、新しい再生エネの未来を描くことが必ず出来ると考え、今回の記事を発信します。

わかったこと(1)電力会社の準備不足

「電力需要が少ない時期に過剰な再生エネ(特に太陽光)の電力が供給され、系統が不安定になる可能性がある。」との回答保留の理由そのものを、頭から否定するつもりはありません。

しかし、最も多く聞かれる「前からわかっていたことなのに、なぜ」という声には、正当性があります。買取価格が下がる前の爆発的な駆け込み申請があったと言っても、それはすでに昨年の40円の時に経験しています。また、再生エネが拡大していけば、いずれこのような状況になることは最初から予想がついていました。

また、後で述べますが、欧州のいくつもの国が、日本をはるかに超える割合の再生エネ電力を普通に系統に入れ、問題なく電力供給を行っています。これらのことを考えると、前もって出来ることはたくさんあり、時間もあったはずです。

電力会社の申請受け付けの現場では、系統連系に関する負担金の計算などさばききれないほどの作業があふれ、オーバーワークが続いていることも知っています。処理のために一定の時間が欲しいという理由が現場からは聞こえています。しかし、だからと言って回答保留は、あまりに急で、すでに大きな混乱を招いています。大きな反発に電力会社側も驚いているのではないかと思います。今回の問題の原因は、現場を指揮する電力会社のトップと政策面で全体を指揮するエネ庁サイドの準備不足にあったと言わざるを得ません。

わかったこと(2)再生エネ普及の勢い

九州電力によると、この3月だけでFIT認定数は7.2万件、出力で283万kWを記録したそうです。これは2013年度の前の月までの累計7万件、349万kWと匹敵するもので、買い取り価格が下がる前の駆け込みの凄まじさを示しています。

ただし、冷静になってみると、この申請の勢いは単純に批判されることではありません。2年前に導入された固定価格買取制度は、再生エネ普及を目的にしたものです。太陽光発電に偏っているなど、問題点も指摘されていますが、第一の目的である普及拡大は見事に成功しているのです。

制度導入前には、全電力量のわずか1%(大型ダムを除く)程度しかなかった再生エネ電力の割合が、わずか2年程度で、10%を越えるかもしれないのです。もちろん、認定を受けた設備が全て稼働するというあり得ない前提ですが、この5年以内で数%になるのは確実でしょう。

制度を導入した政府は、この数字を誇りさえすれ、嘆く必要など無いのではありませんか。実際に、原発事故後の日本政府の再生エネへの取り組みと実績は、海外からの高い評価を受けています。また、政府は具体的なエネルギーミックスの数字を決めていないのですから、想定とのかい離を指摘されることもありません。

何だか大変なことが起きている、困ったことだと思う必要はありません。まずは、再生エネ普及の勢いを感じましょう。

ただし、それぞれの立場や思惑によっても違ってきます。再生エネが普及しすぎると困ると考えている人たちがいるのも事実です。今回のショックで、その当たりがはっきりと見えてくるでしょう。

わかったこと(3)再生エネに対する地域の期待

各電力会社の回答保留に対して、様々な企業や団体などが意見を発表しています。

発電事業会社や施工会社を中心に波紋が広がっています。中には企業の存続に影響するという深刻な声もあります。秋田県で開かれた東北電力の説明会に参加した事業者の「梯子を外された感じ」というコメントが象徴的です。

ここで特に気づくのが、地方自治体の反発です。

影響は民間企業に限りません。9月29日に宮崎県は、県立学校の施設屋根貸し太陽光発電設備設置事業の公募を中止しました。自然エネルギーの普及拡大を目的に政策の提言などを行っている自然エネルギー協議会という全国組織があり、協議会には36の道府県が参加しています。

会長を務める飯泉徳島県知事が、電力会社の回答保留という事態を受け、今月7日に環境省と経済産業省を訪ね、緊急提言書を提出しました。中でも東北地方は、震災からの復興の目玉として、どの県も再生可能エネルギー事業に積極的に取り組んでいます。

特に、福島県は将来再生エネで全電力を賄おうとしています。東北電力の回答保留に対して即時に反応しました。県議会は、翌日、国に早期の契約再開に向けた取り組みを求める意見書を可決しました。ショックは多くの自治体をも襲っています。

地方の疲弊が問題となる中、自治体は生き残りに必死です。その地域活性化の強力なツールとして再生エネの普及に取り組む自治体が激増しているのです。九電ショックに対する自治体の反応は、全国各地の再生エネに対する大きな期待を浮き彫りにしています。

「地方創生」に取り組むという安倍政権のテーマ設定そのものは良しとしますが、これまで示されている施策はあまりぱっとしません。目の前に地方活性化の切り札があることを忘れてはいないでしょうか。

日本再生可能エネルギー総合研究所 メールマガジン「再生エネ総研」第50号(2014年10月14日配信)より改稿

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日本再生可能エネルギー総合研究所代表/Energy Democracy副編集長。再生可能エネルギー普及のための情報収集と発信をおこなうエネルギージャーナリスト。民放テレビ局にて、報道取材、環境関連番組などを制作、1998年ドイツに留学し、帰国後バイオマス関係のベンチャービジネスなどに携わる。2011年に日本再生可能エネルギー総合研究所を設立、2013年株式会社日本再生エネリンク設立。

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