「九電ショック」でわかったこと(4)

2014年11月28日

今行われている議論について

「九電ショック」のリアクションが日本中を駆けめぐっています。その中で、気になることがあります。あまりにレベルが低い再生エネ・ネガティブキャンペーンではありません。そこではなく、あたふたした対応の中で議論の根本がはっきりしなくなっていることです。 今回は、これまでの議論にもとづいて、より建設的に再生エネを普及させていくための提言をまとめます。

冷静な議論をすること ― 問題整理の重要性

何より言いたいのは、落ち着いて問題を整理しましょう。ということです。今回の九電の回答保留は、九電自体が言うように、あくまで「問題が起きる可能性があることについて、検討する時間を取る。」と言うことです。本当にそこに問題があるのかどうか、また何かあったとしても、どんな問題で、いつ起きる可能性があるかということについても、まだ未確定です。

それが、いつの間にか「大変な問題が起きるから、対策をすぐに講じる。」ことになり、「賦課金が高くなりすぎるのが問題」だの「太陽光の買い取りをやめよう」だのどんどん話がエスカレートしています。

少し落ち着いて、これまで記事(「九電ショックでわかったこと(1)(2)(3)」)で書いたこと、つまり、今回の状態が実際に危機なのかどうかをチェックすること、そして、それがいつまでにどのように解決されなければならないのかということを確認する作業をまず行うべきです。手順踏んで冷静に議論を進めることが必要だと思うのです。

現在、「九電ショック」で直接的に混乱が起きているのは、再生エネ事業を進める側です。彼らは、ある意味での被害者です。政府も九電も混乱を鎮める側に回らなければならないのに、逆に慌てふためく側になっているようにも見えます。さらにマスコミが、こぞって「制度設計の間違い」「太陽光は儲けすぎ」と煽ります。本当に問題なのか、問題があるならば、それにどう対応しようとしているかを明らかにすべきです。

「目標設定が無い」問題

ただし、問題を抽出するために、若干の問題があります。それは、何が問題かということを決めるための基準が無いからです。政府は、現在の「エネルギー基本計画」の中で、将来のエネルギーミックスの数字を決めていません。唯一あるのが、「(これまで)示した水準をさらに上回る水準を目指し」というものです。

「2030年に21%」がこれまでの示した水準だそうですが、「さらに上回る」のはどのくらいなのかわかりません。また、太陽光発電の割合や賦課金の額の目標もありません。報道されている数字はあくまでも2030年に21%という以前の基本計画の数字で、これは現在の目標ではありません。これを越えるのが目標ですから、数字は無いのです。ですから、今回の騒ぎの基となった太陽光発電の認定量が想定外なのかさえ、本当は判断しにくいのです。もちろん、技術的に九電の言う不安定になる可能性が出てきたというのですから、検討してみることは必要です。私のスタンスは、すでにこれまでので書いたように「現状ですぐに大きな危機が発生するようなことはない」です。しかし、それをこれまで検討もしていなかったのですから、今から検証するしかありません。

目標設定と課題整理、解決への議論

そこで提案です。この際ですから、目標の設定の議論も含めて課題整理をしていきませんか。

数字はエネルギー基本計画にも入れられないほどの“政治課題”なので、簡単ではないと思います。しかし、何より目標もないのに課題抽出や解決策もあったのものではありません。明確な目標がないために、制度をいじる些末な議論が飛び交っています。想定でも良いのでぜひ進めていただきたいと考えます。

2014年10月15日に、経済産業省は再生可能エネルギーに関する有識者の会議を開きました。言い方は悪くてすみませんが、思ったよりずっとまともな意見がたくさん出ています。「再生エネ拡大方針の堅持」や「FIT制度の効果の評価」など、すでに固定価格買取制度が浸透してきていることが良く分かります。これまでの記事で示してきたような、議論の基礎に関するものも散見されます。今後は、今回のことが問題なのかどうか、また、現状でどう対応できるかなども含め、ぜひ前向きに続けていただきたいと思います。

賦課金の議論を例にして

有識者会議の中で、賦課金についてのこんな意見がありました。「賦課金負担がどこまで許容できるか、アンケートなどで把握するべき」と言うものです。先日のエネ庁の資料で、今の認定分がすべて稼働すると月額の賦課金が一家庭当たり935円になると示され、いくつかのマスコミが「高額負担だ」、「たいへんだ」と取り上げました。ある新聞は、賦課金総額が2.7兆円になるから、「国民一人あたり2万円を超える負担」と書きました。企業やその他電力を多く使う対象があるにもかかわらず、この書き方です。

繰り返しますが、賦課金がいくらだと高すぎるかの議論はされていないし、目標も設定されていません。だから、アンケートを取ろうという話が出るのです。

ドイツの賦課金に関する世論調査

ちょうど、ドイツで賦課金についての世論調査の結果が今月発表されました。これは、「再生エネ賦課金の適切性」の調査として今月1015人を対象に行われたものです。調査主体は、再生エネ普及を進めるAEE(再生エネ協会)で、調査会社のTNS Emnidが実施しました。

ご存知のように、ドイツの賦課金は14年にわたるFIT制度の末、上がり続けました。来年は初めてわずかに下がりますが、1kWhあたり6.17ユーロセントで、年間の標準家庭の負担額は3万円近くになります。月額だと2,450円弱です。ここでは、詳しくは説明しませんが、ドイツの賦課金と日本のそれとは中身が違っています。このため、企業の減免措置分などドイツにだけ入っているものを減額するとおよそ4割減になり、月額1,500円程度に下がります。それでも高水準ですが。

・「適切」が55%、「低すぎる」4%

世論調査の結果は、現在の賦課金の水準が「適切」が55%と過半数で、「高すぎる」が36%、なんと「低すぎる」が4%いました。このように批判的な意見が3分の1以上ありますが、およそ6割が現在の賦課金水準を受け入れています。

実は、2年前にも同じ調査が行われていました。その時は、賦課金が5ユーロセントを越える段階で、「賦課金が5ユーロセントを越えることについて」という質問でした。結果は、「適切」が44%、「高すぎる」が51%、「低すぎる」が2%でした。見てわかる通り、賦課金がさらに上昇し、6ユーロセント台にまで上がった今回の調査結果の方が、賦課金を許容しているという驚く結果でした。

・ドイツ国民の再生エネの受け入れ感覚

別の世論調査では、ドイツ国民の9割以上が再生エネの利用拡大について、「重要、または非常に重要だ」と答えています。目的を明確した負担には、国民の許容の考え方が違ってくるのでしょう。電力料金が上がるのを喜ぶ人はいません。しかし、理由がはっきりして納得できれば受け入れることが出来るのです。

繰り返します。今、日本で行うべきことは、例えば賦課金であれば、賦課金の将来の水準をどう予測し、どの額ならば問題なのかをはっきりさせることです。マスコミは何の基準もなく高いと言い、財界は基準もなしに制度の見直しをやれと主張しています。さらに担当官庁のエネ庁は、何の精査もせずに、自分たちが決めた制度を失敗だったと認めているように見えます。それでは議論になりません。

成果に自信を持つこと

太陽光への偏りはあるものの、飛躍的な再生エネ電力の増加は、FIT制度の驚愕のパワーと制度導入の成果として誇ってよいことです。また、再生エネを地域活性化に結び付けたいとして多くの自治体が、政府の「第三の矢」とは別に独自に取り組みを進め、少しずつですが実を結び始めています。地方が復活するチャンスを再生エネの力で得たのです。もちろん、太陽光パネルのメーカーなど大きな企業も恩恵を受けています。

これらの成果は、まずは制度化と制度の運営してきた経産省、資源エネルギー庁の担当の方々をはじめとした努力の結果だと言って良いと思います。これは決して皮肉でも嫌味でもありません。もっと、堂々として胸を張っていただきらいと本当に思っています。

再び、有識者会議の内容を引用します。会議では、ドイツで導入された「マーケットプレミアム制度」や他に「入札制」の導入検討の意見も述べられています。将来の可能性は否定しませんが、これは、FIT制度を止めることと同じことになります。細かくは説明しませんが、特に、この2つの制度の導入は、地域の力で発電を行い地域活性化に結び付けようとする比較的小さな事業者や住民にとって、たいへん厳しい結果を招きます。資本力に欠ける彼らが、直接マーケットで電気を売ったり、入札と言う競争に耐えられなかったりするのは明白です。

制度変更には慎重な議論を

さらに、導入わずか2年で制度の根幹(法律)を大きく変更するのは、問題です。行政の一貫性の観点からも、政府の施策の信頼性を大きく損なうことになります。何より、客観的に見て現時点で制度の根幹を変える必要はないと考えます。昨日の会議でも同様の意見が多くありました。論点が明確でない混乱の中で、拙速に動いては禍根を残します。

最大かつ最後の争点は、太陽光発電の買い取り方法になるでしょう。今回の騒ぎの原因が増えすぎた太陽光と強く印象付けられているからです。ただ、冷静にデータを見ていけば、そちらも心配しすぎなくてもよいのではないでしょうか。今年3月の駆け込みのあと、太陽光の認定は急激に減っています。5月の認定は3月の100分の1です。円安のために施設の建設コストは逆に上がっているほどです。ちょうどIRR(内部収益率)の優遇期間が終わるわけですから、まず客観的な計算をしたうえで数字を決めるべきです。そのためにも、導入目標が必要となるのですが。

太陽光をつぶすのではなく、他の再生エネを伸ばす

各所で言われているように、太陽光とその他の再生エネ源とのバランスも大変大事です。風力発電とうまく量が組み合わせられれば、それだけで需要の曲線にうまく重ねることも可能です。そのためには、太陽光発電をつぶす方策より、風力発電を伸ばす普及策が重要です。これまで風力発電は、長すぎる環境アセス期間など事業のリスクが大きすぎ、増えなかったのです。まさしく「規制緩和」の問題であり、すでに書いた系統問題など、緩和によって解決できることがたくさんあります。

今回起きている混乱の解決は、対立したり勝ち負けを決めたりすることではありません。再生エネを拡大するというのは、現状の政府の「エネルギー基本計画」にも合致していることです。それは先日の有識者会議でも再確認されていました。

再生エネ拡大のために、政府、民間事業者、それに有識者も、いかに協力して対応していくが重要です。その中には、世界で最も安定的に電力を供給してきている電力会社の知恵も含まれると考えます。

日本再生可能エネルギー総合研究所 メールマガジン「再生エネ総研」第52号(2014年10月22日配信)より改稿

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日本再生可能エネルギー総合研究所代表/Energy Democracy副編集長。再生可能エネルギー普及のための情報収集と発信をおこなうエネルギージャーナリスト。民放テレビ局にて、報道取材、環境関連番組などを制作、1998年ドイツに留学し、帰国後バイオマス関係のベンチャービジネスなどに携わる。2011年に日本再生可能エネルギー総合研究所を設立、2013年株式会社日本再生エネリンク設立。

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