“住宅貧乏”から抜け出す方法(書評)

2017年9月22日

全身に使い捨てカイロを貼った裸の男が真冬の雪の中に出ていく写真に、いきなり驚かされる。日本の住宅の現実は、そういう状態だと著者は指摘する。この写真に限らず、副題に「省エネ住宅のプロも陥る25の勘違い」とあるとおり、本書を読むと目からウロコが25枚剥がされる。

「ホントは安いエコハウス」松尾和也著/日経BP社

ところで、日本は世界に冠たる省エネ国家じゃなかったっけ?本書を読むと、それは国のプロパガンダに過ぎず、日本の住まいの現実はお寒い限りだということが分かる。

日本の住宅の実に8割が「断熱なし」で、日本で本当に温かい住宅を知っている人は10人に一人しか居ないという衝撃の事実。だから、工務店や大手のハウスメーカーといえどもエコハウスを設計できる人はほとんどいないと著者は指摘する。

特に日本の窓はお粗末で、そのため冬は暖気の6割が窓から逃げ、夏は7割の熱気が窓から入ってくる。だから既築にお住まいの方も、安く簡単に冬温かく夏涼しくできる工夫も提案されている。

食器洗浄機の活用やレンジフードの設計、電気温水器の入れ替えだけでも大幅に省エネと光熱費ができることを具体的な事例や数字で次々に解説してゆく。エコハウスや住宅を巡って蔓延(はや)っているさまざまな「迷信」が著者によって次々に覆され、論破されていくさまは小気味よい。

災害にも強く、周辺環境や家族構成などの変化にも対応できる末永く暮らせ、そして何よりも夏も冬も過ごしやすく、光熱費もほとんど掛からない、そういうエコハウスは誰にも手の届くところにあることが分かる。

これから住宅を建てたい方はもちろん、すでに建てた方も賃貸の方もぜひご一読を。裸にカイロを貼ったような「住宅貧乏」から抜け出す途が見えるかも?

日刊ゲンダイDigital:明日を拓くエネルギー読本「”貧乏住宅”から抜け出す方法」2017年8月23日より転載。

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1959年、山口県生まれ。環境エネルギー政策研究所所長/Energy Democracy編集長。京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻修了。東京大学先端科学技術研究センター博士課程単位取得満期退学。原子力産業や原子力安全規制などに従事後、「原子力ムラ」を脱出して北欧での研究活動や非営利活動を経て環境エネルギー政策研究所(ISEP)を設立し現職。自然エネルギー政策では国内外で第一人者として知られ、先進的かつ現実的な政策提言と積極的な活動や発言により、日本政府や東京都など地方自治体のエネルギー政策に大きな影響力を与えている。

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