原発立地による地域経済への恩恵は「神話」(書評)

2017年9月29日

世界最大の原発が集中する新潟県の柏崎刈羽原発。新潟はいくつもの意味で、福島と「一つの組紐」のように絡まり合ってきた。

「崩れた原発『経済神話』」新潟日報社原発問題特別取材班著/明石書店

いずれも東京電力のエリア外にも関わらず原発が集中し首都圏への電力供給基地となっている。2007年の中越沖地震で、東京電力には危機への備えが全くないことが明らかになったが、ほぼ無策のまま福島第一原発は東日本大震災に襲われ、みすみすメルトダウンを引き起こした。故吉田昌郎所長が指揮を振るった免震重要棟は、より深刻な事態を回避することができた「最後の命綱」となったが、これこそが中越沖地震の教訓で唯一直前に整備された対策であった。

そして、福島第一原発事故の収束や賠償費用が膨れあがる東京電力にとって、柏崎刈羽原発は経営再建の「命綱」ともいえる位置づけとなっている。ところが昨年10月の知事選で、再稼働反対を掲げる新人の米山隆一氏が、市民と野党連合の支援を受け、事前の大方の予想を覆して当選したのだ。

新潟日報の取材班は、そこに追い打ちを掛ける。原発の立地する柏崎市は、同県内で原発のない三条市や新発田市と比べて、人口でも産業やサービス業でもその波及効果でも、地域経済への恩恵は「神話」であることを丹念に実証してみせたのだ。

では、何のための誰のための再稼働なのか、本書は疑問を突きつける。

1996年の巻原発住民投票や2001年の刈羽村プルサーマル住民投票など、新潟は「国策としての原発」に民意を通して一石を投じてきた歴史がある。その民意を受けて誕生した米山知事は、福島事故の検証せずに再稼働の議論には入れないとの公約どおり、8月に新たな委員会を発足させた。

古今東西の歴史は「周縁からの変革」を教えてくれる。新潟の民意がやがては「国策」を覆すのか、今後の展開から目が離せない。

日刊ゲンダイDigital:明日を拓くエネルギー読本「原発立地による地域経済への恩恵は「神話」」2017年9月6日より転載。

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1959年、山口県生まれ。環境エネルギー政策研究所所長/Energy Democracy編集長。京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻修了。東京大学先端科学技術研究センター博士課程単位取得満期退学。原子力産業や原子力安全規制などに従事後、「原子力ムラ」を脱出して北欧での研究活動や非営利活動を経て環境エネルギー政策研究所(ISEP)を設立し現職。自然エネルギー政策では国内外で第一人者として知られ、先進的かつ現実的な政策提言と積極的な活動や発言により、日本政府や東京都など地方自治体のエネルギー政策に大きな影響力を与えている。

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