「1%」の人々が気候変動の危機を食いものに(書評)

2017年10月2日

福島第一原発事故が起きた2011年に、著者の前著「ショック・ドクトリン」が邦訳された。「火事場泥棒の資本主義」という意味だ。人々が大災害や危機に遭って呆然と立ち尽くしているスキを狙って、「1%」の独裁権力や大資本が危機を食いものにし、危機を都合良く利用してきた歴史をあぶり出している。いま振り返ると、今の日本を見事に言い当てている。

「これがすべてを変える」(上・下)ナオミ・クライン著、幾島幸子ほか訳/岩波書店

人類最大の「大災害」である気候変動は、地球スケールで「すべてを変える」恐れがある。本書は、その気候変動の危機を利用した地球規模の「ショック・ドクトリン」に警鐘を鳴らしている。

1%の人たちは「気候変動はウソだ」という声を広げ、一刻の猶予もない気候変動への対策を遅らせ邪魔をしてきた。そのためアメリカでは、気候変動問題が科学の問題ではなくイデオロギー対立に陥ってしまった。

気候変動対策さえ1%のビジネスの食いものにしてきた。市場原理主義が気候変動対策の中にも入り込み、炭素クレジットという「汚染する権利」を取引する市場は、「対策」と見せかけながら対策を遅らせてきた。そこに一部の大手環境保護団体までも手を貸してきたとも批判している。

本書は、気候変動がもたらしうる切迫した全世界的な危機に対して、社会や政治を望ましい方向に変えてゆくために、民衆の下からの根源的で大胆な転換を求めている。

ところで、本書には大きな見落としがある。原著が2014年の刊行なのでやむを得ないが、15年のパリ協定の成功、そしてここ数年の自然エネルギーや電気自動車の大躍進が触れられていないのだ。風力発電や太陽光発電が既存の原発産業や石炭産業を崩壊させつつあり、電気自動車が十年以内にガソリン・ディーゼル車を駆逐するという予測さえ出てきた。

著者が期待した「下からの根源的で大胆な転換」は、今まさに起きているのだ。

日刊ゲンダイDigital:明日を拓くエネルギー読本「「1%」の人々が気候変動の危機を食いものに」2017年9月13日より転載。

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1959年、山口県生まれ。環境エネルギー政策研究所所長/Energy Democracy編集長。京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻修了。東京大学先端科学技術研究センター博士課程単位取得満期退学。原子力産業や原子力安全規制などに従事後、「原子力ムラ」を脱出して北欧での研究活動や非営利活動を経て環境エネルギー政策研究所(ISEP)を設立し現職。自然エネルギー政策では国内外で第一人者として知られ、先進的かつ現実的な政策提言と積極的な活動や発言により、日本政府や東京都など地方自治体のエネルギー政策に大きな影響力を与えている。

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