クルマを不便にし、道路を暮らしの空間に(書評)

2017年10月19日

仕事がら全国各地の地方都市をよく訪れるが、その地の風土の面白さの前に「廃れ感」が気に掛かる。金太郎アメのようなファーストフード店やコンビニに消費者金融が並び、そのスキマを時間貸し駐車場とシャッター街が埋める。

「ドイツのコンパクトシティはなぜ成功するのか」 村上敦著/学芸出版社

そうした日本の地方都市に対して、欧州の地方都市はなぜあれほどに人で賑わい豊かさを感じるのか。誰もが感じる疑問に、本書はドイツと対比しつつ真正面から切り込む。

地方の中核都市として同規模の青森とフライブルグを比較しつつ、住宅とまちが連動して空いていく日本の住宅政策の失敗を指摘する。消費財のように住宅を作り続けることを奨励し、空き家を抑制する都市政策もない。その結果、日本の都市は人の半生の寿命で衰退する。これでは持続可能な都市どころか、消滅都市も現実味を帯びる。

著者が前著「キロワットアワー・イズ・マネー」で提唱した考え−地域での省エネ・再エネ投資が地域経済を活性化する−に加えて、本書では「キロメートル・イズ・マネー」を提唱する。マイカー依存社会から徒歩・自転車・公共交通中心に切り替えると、外部に流出していた移動費用が地域内で循環し、地域経済を活性化するという考えだ。

さらに著者は「渋滞は問題ではなく」クルマをもっと不便にし、道路を暮らしのための空間に取り戻せと主張する。日本人には「過激」な主張だが、ひと中心のまちづくりは賑わいの要だ。ドイツの地方都市との差を見れば一目瞭然だろう。

日本の地方都市の現実は厳しい。筆者が指摘するとおり、人口減少で再投資の余裕が無い中、地方は高齢化、低教育化、低所得化・貧困化が加速する。住宅政策と都市計画と交通政策の3つを大胆に転換し統合する必要がある。行政の縦割りが強烈な日本では難しいが、もはや猶予はない。

私たちは自分たちのまちを再生できるのか、突きつけられた課題は重い。

—-

日刊ゲンダイDigital:明日を拓くエネルギー読本「クルマを不便にし、道路を暮らしの空間に」2017年10月4日より転載

アバター画像

1959年、山口県生まれ。環境エネルギー政策研究所所長/Energy Democracy編集長。京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻修了。東京大学先端科学技術研究センター博士課程単位取得満期退学。原子力産業や原子力安全規制などに従事後、「原子力ムラ」を脱出して北欧での研究活動や非営利活動を経て環境エネルギー政策研究所(ISEP)を設立し現職。自然エネルギー政策では国内外で第一人者として知られ、先進的かつ現実的な政策提言と積極的な活動や発言により、日本政府や東京都など地方自治体のエネルギー政策に大きな影響力を与えている。

次の記事

自らの選択を肯定することが幸せに(書評)

前の記事

断熱・気密住宅が医療費・介護費を抑制する

Latest from 書評

Don't Miss