おなじみのバナナは代替種のクローン!!(書評)

2017年11月22日

昨年から今年にかけて、北海道のジャガイモが不作でポテトチップスが品薄になったことは記憶に新しい。台風による一時的な影響だったが、本書で紹介される食糧危機はそんなものではない。

「世界からバナナがなくなるまえに」ロブ・ダン著、高橋洋訳/青土社

19世紀にアイルランドを襲った疫病によるジャガイモ凶作は、餓死や移民で人口を半減させた。ジャガイモは、もともと中米アンデスで多様な品種で構成されていた。そのためさまざま疫病や気候に対して耐性があった。ところが15世紀のスペインの侵略者たちがわずかな品種のジャガイモを持ち帰り欧州に広がった。だからいったん疫病が広がると容易に全滅する。

書題のバナナは一度1950年に全滅し、今日のお馴染みのバナナは全て代替種のクローンだ。これも何かの拍子に全滅しかねない。かつてチョコレートの大輸出国だったブラジルのカカオは細菌テロのため数年で壊滅した。それがいつガーナに飛び火しないとも限らない。その他、キャッサバ、小麦などを襲った大凶作が紹介される。

こうした危機は、現代の構造的問題だと著者は指摘する。今日、私たち人類はわずか12種類の作物で8割のカロリーを摂取している。それぞれの作物の中でも大量生産に向く単一品種が進み、同時に特定の疫病で壊滅する恐れも高まる。遺伝子組み換え作物で対抗しようとするモンサントなどグローバル企業は、逆に事態を悪化させている。私たちの文明は、豊かさに溢れているように見えて、一寸先は大飢饉と背中合わせなのだ。

他方、ヒトラーやISが迫るなかで自らの危険を顧みずに種を守った科学者たち、北極圏に「ノアの箱舟」を築いて地球上の可能な限りの種を未来に保全しようとする科学者など、いくつかの英雄的な取り組みには勇気づけられる。

種の多様性やそこで成立している小さなエコシステムを失ってきたことが、私たちの文明を脆弱にしてきた。これは、多様な人たちの参加を排除しつつある今の政治や社会の「脆さ」とどこか共通している。

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日刊ゲンダイDigital:明日を拓くエネルギー読本「おなじみのバナナは代替種のクローン!!」より転載

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1959年、山口県生まれ。環境エネルギー政策研究所所長/Energy Democracy編集長。京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻修了。東京大学先端科学技術研究センター博士課程単位取得満期退学。原子力産業や原子力安全規制などに従事後、「原子力ムラ」を脱出して北欧での研究活動や非営利活動を経て環境エネルギー政策研究所(ISEP)を設立し現職。自然エネルギー政策では国内外で第一人者として知られ、先進的かつ現実的な政策提言と積極的な活動や発言により、日本政府や東京都など地方自治体のエネルギー政策に大きな影響力を与えている。

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