「下り列車」に乗り換えて見えてくる幸福なニッポン(書評)

2017年12月12日

東芝、タカタ、神戸製鋼、日産と不祥事が続き、高品質なものづくりで世界をリードしてきたはずのニッポン株式会社の屋台骨を揺るがしている。大企業だけでなく、「堅い仕事」の代名詞であるお役所も、モリカケ問題や日報問題などで記録も記憶もないと徹底的にシラを切り通して、国民からの信頼は地に落ちた。

「経済成長なき幸福国家論」平田オリザ、藻谷浩介著/毎日新聞出版

彼らに共通するのは「依存」だ。組織に依存し、権威に依存し、高度成長期や果ては戦前の勇ましかった時代の「ニッポンを取り戻す」と妄想に依存して、事実やルールさえ歪める。日本がもはやアジアで唯一の先進国ではなく、人口や経済が縮小してゆく現実を受け入れられない「寂しい人たち」なのだ。

本書は、「下り坂ニッポン」で軽やかに活躍する2人が、そうした「寂しい人たち」さえも思いやりながら交わした対談録だ。文化・演劇で地域再生に取り組む「現代の宮沢賢治」こと平田オリザ氏、相方は日本中を津々浦々くまなく訪ね回ってきた「現代の宮本常一」こと藻谷浩介氏。

その2人が「足で稼いだ実感」をもとに、魅力的な「過疎の町」を次々と紹介する。例えば、女性が昼間から1人でビールを飲めるという理由で女性漫画家が移住先に選んだ城崎温泉、小学生全員が子ども歌舞伎を授業で習う岡山県奈義町、写真甲子園で移住者を引きつける北海道東川町。

そうした魅力的な地域社会への移住での心配ごとのひとつは、自分にあった仕事があるかだが、専業ではなく「複業」で、分業ではなく「一人多役」を担えば、どこでも楽に豊かに暮らせる。何よりも、心豊かに生きるには、自己決定力が重要だと説く。

これまでの東京中心に向かう「上り列車」を「下り列車」に乗り換えると、その先に希望が見えてくる。「寂しい」どころか、心豊かで幸福なニッポンの姿ではないだろうか。

—-

日刊ゲンダイDigital:明日を拓くエネルギー読本「「下り列車」に乗り換えて見えてくる幸福なニッポン」より転載

アバター画像

1959年、山口県生まれ。環境エネルギー政策研究所所長/Energy Democracy編集長。京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻修了。東京大学先端科学技術研究センター博士課程単位取得満期退学。原子力産業や原子力安全規制などに従事後、「原子力ムラ」を脱出して北欧での研究活動や非営利活動を経て環境エネルギー政策研究所(ISEP)を設立し現職。自然エネルギー政策では国内外で第一人者として知られ、先進的かつ現実的な政策提言と積極的な活動や発言により、日本政府や東京都など地方自治体のエネルギー政策に大きな影響力を与えている。

次の記事

地域経済のカギはエネルギーにある

前の記事

顔の見える「志金」で地域の課題解決(書評)

Latest from 書評

Don't Miss