40パーセントを越えた再エネによる発電

今、ドイツで起きていること
2019年1月17日

年頭に久しぶりにドイツの話をしたいと思います。フラウンホーファー太陽エネルギーシステム研究所が、1月5日に発表した昨年のドイツの発電状況のまとめ速報(”Net Public Electricity Generation in Germany in 2018”)を取り上げます。テーマは「再エネ電力4割越えのドイツで何が起きているか」です。

出典:Fraunhofer ISE(2019)“Net Public Electricity Generation in Germany in 2018”.

ついに40%を突破したドイツの再エネ発電

まずは、2018年の速報値ですが、全体の数字をいくつか出してみましょう。前提として、ドイツ国内で発電したうちで実際に供給された電力量をベースにしています。

54ページにわたるこの報告書の中で、わざわざ「オフィシャルなコンセントからの実際の電源ミックス」と書かれています。発電の後に送電線に入って、需要家まで届けられたものです。つまり、企業が独自に行っている自家発電は含まれていません。また、発電時のロスや送電前に発電所自らが使用する電力も含まれません。これをドイツ語で「NETTO(正味)」と呼び、ここで記す数字はこのNETTOを扱います。例えば、給料の手取りのことも同様な呼び方をします。

さて、2018年のドイツでのこの正味(NETTO)の発電量は、5,424.7億kWhでした。このうち再エネによるものが2,189.3億kWhで40.4%を占め、初めて40%の大台に達しました。これは昨年の38.2%から2.2ポイント増えたことになります。一方、再エネ以外による発電量は3,235.4億kWhで59.6%と6割を切りました。

出典:Fraunhofer ISE(2019)“Net Public Electricity Generation in Germany in 2018”.

再エネ1位の風力発電は、全体でもこの後示す褐炭発電に次ぐ2位となりました。このうち8割以上が陸上風力で、残りの10数%が洋上風力ですが、増加分の発電量は洋上風力が上回っているようです。

また、太陽光発電はまだ二桁には届かないものの、6.3TWh増やして再エネ2位です。一応、天然ガス発電の発電量を上回っています。

特徴的なのは、再エネによる発電量が、CO2発生の鬼っ子扱いともなっている褐炭と石炭を合わせた発電量を初めて上回ったことです。将来への方向性がはっきりと示されたと言えます。

次に、発電源別に前年からの発電量の変化を見ていきましょう。

出典:Fraunhofer ISE(2019)“Net Public Electricity Generation in Germany in 2018”.

見ての通り、水力発電は過去30年で2番目に低い発電量を記録したものの、再エネ電源(太陽光、風力、バイオマス)はすべて前年比プラスである一方、従来型電源(原子力、褐炭、石炭、天然ガス)はすべて前の年の発電量を下回りました。

また、天然ガス発電は大きく減らしましたが、実際には工場などでの独立電源を合わせるとこの1.5倍以上の発電が行われているとされています。

「再エネ4%以上は入らない」は過去の戯言に

こうした数字を見ていて思い起こされるのが、1993年6月のドイツの新聞に掲載された電力会社による広告です。その内容は、「太陽光や水力、風力のような再エネは、永遠に私たちが使う電力の4%以上をカバーすることはできない」というものでした。

あれから20数年、限界と謳われた4%のちょうど10倍以上の再エネ電力をドイツが使うようになるとは、何とも感慨深いものがあります。

その広告のさらに5年前の1988年、こんな記事もありました。「風力で発電、確かにそんなものもあるが、、、」というタイトルで、デンマークが欧州の風力発電のトップランナーだと書いています。ただし、内容は皮肉たっぷりで、「デンマークは100分の1(0.9%)の電気を風で作り出しているが、ドイツは気候的な条件からそれは不可能である。1989年の風力発電の割合は0.03%に過ぎない」と記しています。よって、環境にやさしい発電、例えば原子力を使うべきだとも書いています。チェルノブイリ事故2年後の記事で、再エネは代わりにならないと言いたかったのかもしれません。

どこかの国と似ているかもと今思いました。かくしてドイツでは、その風力発電が電力全体の2割を賄うようになりました。

ピークは太陽光発電31GWと風力発電45GW

報告書の中で、特徴的に示されているデータを見ていきましょう。まず、変動性再エネ:太陽光発電+風力発電(VRE)が発電能力のピークとなった時についてです。

太陽光発電の発電量が多い月は、7月がトップ、次いで5月です。およそ、月間で6TWh前後です。その中で発電能力の最大時は7月2日の午後1時でおよそ31.5GWです。これは全体の発電能力の4割弱です。

出典:Fraunhofer ISE(2019)“Net Public Electricity Generation in Germany in 2018”.
出典:Fraunhofer ISE(2019)“Net Public Electricity Generation in Germany in 2018”.

一方、風力発電の発電量が多いのはやはり冬で、1月と12月とがほぼ並んでトップです。月間の発電量はおよそ14.5TWhです。発電能力の最大時は12月8日の正午で45GWを超え、全体の6割強です。いずれの日も休日ではなく、再エネ発電が常時、発電の主力となってきていることを示しています。

出典:Fraunhofer ISE(2019)“Net Public Electricity Generation in Germany in 2018”.
出典:Fraunhofer ISE(2019)“Net Public Electricity Generation in Germany in 2018”.

風力発電と太陽光発電の間の変動吸収

先述の通り、再エネ発電トップの風力発電はすでに全体の2割の発電量をカバーするまでになり、太陽光発電は10%に近づいてきました。また、それぞれのピークが太陽光は夏、風力は冬とうまく住み分けられています。両者を合わせると、年間のVREの発電量の推移が平準化されます。合計の発電量が最低である2月の10TWh弱から最大の1月や12月の15TWhまでの間にきれいに収まっています。

このように太陽光と風力の発電量の変動が、自然の状態である程度互いに吸収され平準化されることで、原料費がゼロという究極のメリットのあるVREをより多く使うことができるようになっていることがわかります。

2018年後半に問題となった九州電力管内の太陽光発電の出力制御の原因の一端が、太陽光への偏りにあるともいえる面を考えれば、うらやましい現象です。そのうえで報告書の中で課題としているのは、6月から9月にかけてのVRE発電量の不足です。この間の合計発電量は11TWhから12TWhで、前後の月の発電量を2~3TWhほど下回っています。ここをVREでカバーすることで、限界費用ゼロの電力がさらに取り込めると考えているようです。

つまり、理想的な風力と太陽光発電の割合とその導入量というテーマです。報告書の最後のページで取り上げられているくらいですから、フラウンホーファーISEが最も重要と考えているのでしょう。

風力発電と太陽光発電との理想のバランスとは

出典:Fraunhofer ISE(2019)“Net Public Electricity Generation in Germany in 2018”.

このグラフのタイトルは「風力と太陽光発電:理想的な設置済み発電能力の割合」です。興味深いですね。理想的な割合とは、両方の発電量が最も無駄なく使える割合という意味だと考えられます。設備利用率(風力発電は太陽光発電のおよそ2倍以上)、設置量の割合、両者の発電量の実績などを合わせて、暦年での理想の数字を組み立てています。

ここではザクっとした結論を示しておきます。現状のドイツ全体の設置量は、風力発電で50GW後半、太陽光発電で40GWの半ばです。2018年末での太陽光発電の理想的な設置量は60GWで、このため16GWの不足があるということです。風力発電が先行しており、太陽光発電の伸びは急速ですが、それでも追いついていないのだそうです。先述した夏の時期(6月から9月)の発電量不足がそれを反映しています。

太陽光発電の復活の兆し

16GWという太陽光発電の不足分はかなり大きいと思われます。このため、ドイツでは今後さらに積極的に太陽光発電を増やすための努力が求められています。

実は、このところのドイツの太陽光発電の伸びは必ずしも芳しくありませんでした。風力発電は、陸上風力の技術的な革新(弱い風で回り始める風車など)や洋上風力に対する国家的な後押しなどで、2014年から17年の4年間は、毎年およそ5GWを超える設置が続いていました。一方の太陽光発電は、1~2GWの間と低迷しました。目標値である2~3GWのコリドー枠さえ達成できずにいたのです。

ところが、昨年は一気に3GWを超え、ドイツのマスコミでも太陽光復活との声が聞かれるまでになっています。

まとめ

昨年のドイツの再エネ発電が4割を越えたことは、エポックメイキングな事象でした。しかし、目標としている2030年に3分の2という数字はそれほど簡単には達成できないでしょう。一方、2022年末までの原発廃止は既定路線ですし、こちらは揺るがないはずです。

4割越えは、明らかな「柔軟性」の必要性を意味してきます。これまでは実証レベルでしかなかった蓄電池や水素を含むその他の電力貯蔵システムは、その実現と実施が迫られてきます。また、すでに過当競争がささやかれているVPPビジネスはEVや蓄電池を包含するシステムへと拡大するでしょう。

「大変だ」「難しい」「コストが合わない」と繰り返して衰退していったのは、ドイツの巨大発電会社でした。先述したように「4%以上再エネは入らない」と後ろ向きの発言をしていたのが彼らです。同じ現実を、チャンスと見ることができるかどうか、発展と衰退は紙一重かもしれません。

今回見てきたフラウンホーファーISEの報告書では、具体的な数字を示しながら、体系的に素人にもわかりやすく解説していました。「再エネの主力電源化」にかじを切ったはずの日本なのですから、現実的な目標設定と効率的な道筋を具体的に示す努力を期待するばかりです。

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日本再生可能エネルギー総合研究所 メールマガジン「再生エネ総研」第102号(2019年1月8日配信)、第103号(2019年1月14日配信)より改稿

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日本再生可能エネルギー総合研究所代表/Energy Democracy副編集長。再生可能エネルギー普及のための情報収集と発信をおこなうエネルギージャーナリスト。民放テレビ局にて、報道取材、環境関連番組などを制作、1998年ドイツに留学し、帰国後バイオマス関係のベンチャービジネスなどに携わる。2011年に日本再生可能エネルギー総合研究所を設立、2013年株式会社日本再生エネリンク設立。

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