エネルギー貯蔵がドイツのエネルギー転換の次の偉業になる

天候に依存する自然エネルギーが急激に増加するドイツは、太陽や風がないときに利用することを可能にする貯蔵技術の試験場になりつつあります。この先数十年は、大規模貯蔵は必須ではないものの、貯蔵技術自体は自動車や住宅での小規模蓄電池という形態で広がりはじめています。そして、それらは電力網や電力会社、必要とされる原料を供給する国々に大きな影響を与えています。このブームは、活気づく貯蔵業界が世界市場を征服しようとする動きを生み出し、ドイツが脱石炭のスピードを上げるためのカギを証明することになるのかもしれません。

変動する自然エネルギー電力の貯蔵は、「エネルギーにおける次の一大事」や、エネルギー転換の「ミッシングリンク」と呼ばれてきました。「エネルギーヴェンデ」の母国であるドイツでは、グリーンな電力がすでに消費の3分の1以上を占めるようになり、メディアでは革新的な貯蔵プロジェクトについて1週間のうちで報道されないことはありません。

特に蓄電池は最近注目を集めています。激しい価格低下に勢いを得て、蓄電池技術の普及は加速しはじめています。ドイツでは10万件目の住宅用太陽光&蓄電池が2018年の晩夏に契約されました。電気自動車の増加は、ドイツや他の多くの国々へ蓄電池が広がっていく大きな波となることを意味しています。

蓄電池や多くのその他の貯蔵技術は、化石燃料と原子力発電から低炭素経済へ移行するドイツのエネルギー転換に多大な影響を与えます。それは、エネルギーの世界を超えて、多くの既存のビジネスモデルをひっくり返し、原料の利用可能性やその調達における人と環境への影響に関する懸念を引き起こします。

「貯蔵についての一般的なブーム、特に蓄電池に対する関心の高まりは驚くことではなく、むしろエネルギー転換の現在の段階における論理的な帰結です」と、ドイツ・エネルギー貯蔵協会(BVES)マーケット部長ヴァレスカ・ゴトケ氏は述べます。「自然エネルギーの割合は増え続け、そこでは強力な集中型エネルギーシステムから分散型で柔軟な自然エネルギーシステムへと大きく変容することが求められます。貯蔵は、この移行に必要とされる柔軟性を提供する貴重なオプションです。」

しかし、貯蔵革命は、ドイツの脱石炭のカギとなることで、エネルギー転換を超えて影響をもたらすかもしれません。政府は、CO2集約型燃料からの離脱に関する現在進行中の議論において中心的な障害となっている炭鉱地域の雇用確保を期待して、蓄電池のギガファクトリーやその他の貯蔵プロジェクトを誘致しています。政策立案者は、世界的な低炭素への移行のなかで、ドイツの貯蔵技術におけるリードが輸出の成功に結びつくことを目指しています。

自然エネルギーの世界における貯蔵

貯蔵は、エネルギー転換の次の段階でカギとなります。そこでは、分散型自然エネルギー発電がますます増えると共に、脱炭素輸送(電気自動車)、産業(化石燃料集約型プロセスの置き換え)、建物(低炭素エネルギー資源による暖房)でのグリーンエネルギーの利用が増大します。セクターカップリングと呼ばれるプロセスです。

「ここで電力貯蔵、特に蓄電池が中心的役割を担うようになるのです」と、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)事務局長アドナン・アミン氏は述べます。「家庭用太陽光発電での蓄電池から電気自動車まで、自然エネルギーの普及を加速させる上で貯蔵は必要不可欠です。」

VRE, Variable Renewable Energy = 変動型自然エネルギー/RE, Renewable Energy = 自然エネルギー/V2G, Vehicle to grid = 電気自動車から系統への放電/EV, Electric Vehicle = 電気自動車|出典:IRENA

発電が需要に合うように調整されるため、伝統的な電力システムは多くの貯蔵を必要としません。自然エネルギーをより使うようになると、風力や太陽光は天候に応じて発電するため、システムは劇的に変化することになります。ここで貯蔵が役割を果たします。簡単に言えば、貯蔵技術の目的は、後で使うエネルギーを貯めておくことです — 発電すると同時にほとんどを消費しなければならない現在のシステムを代替します。

貯蔵の原則は、新しいものではなく、数十年にわたって利用されてきました。「古典的な」貯蔵技術は、電力で丘の上の貯水池に水を汲み上げ、丘の下に放水する際に発電するというものです。しかし、ドイツでは丘の多い地域は少なく、新規プロジェクトに対する市民の反対も強いため、揚水発電の追加的導入の見込みはほとんどありません。

技術類型と国毎の定置型エネルギー貯蔵設備容量(2017年中盤までに稼働するもの)|出典:IRENA

この表は、自然エネルギー電力を貯蔵するためのさまざまな方法が模索されている理由を示しています。蓄電池は単純に長期間のエネルギー貯蔵ができず、また、十分な貯蔵もできないため、世界第4位の経済大国を脱炭素化する上で、蓄電池以外の多くの技術群がこれを進める可能性があることから、現在の蓄電池に対する熱狂に影を落とします。自然エネルギーを熱、ガスもしくは液体燃料の形態で貯蔵することで、風が吹かず、太陽が出てないときでも停電なく、暖房も維持することができます。

ドイツの住宅での蓄電池ブーム

現在の蓄電池についての誇大広告の主な推進力は、家庭用電化製品や電気自動車での利用増加によるリチウムイオン電池の価格の急激な下落です。5年以内に、ドイツでの蓄電池のコストは半分以下になり、その先数十年にわたって価格下落に終わりが来る気配はありません。

「エネルギー貯蔵システムの総コストは、設計の革新、規模の経済、プロセス合理化により、2035年までに50〜70%下落します」と、マッキンゼーコンサルティングが予測しています。IRENAは、2030年までに50〜66%価格が下がると期待しています。

こうした市場の動向に加え、モビリティと熱分野にエネルギー転換が伸張するにつれ、ドイツのエネルギー産業の専門家たちは、これからの数年にわたって電力の貯蔵需要は大幅に増加するだろうと考えていることが、欧州経済研究センター(ZEW)の調査から明らかになっています。専門家の70%以上は、蓄電池が今後10年間でもっとも急速に成長する分野となるだろうと考えている一方、熱の貯蔵は次点となっています。

「蓄電池はやってきます、対応が必要です」と、ドイツ最大の工科大学のひとつ、RWTHアーヘン工科大学の技術コンサルティング・ディレクターのカイ・フィリップ・カイリース氏は述べます。

ドイツの一般家庭は、すでに蓄電技術を取り入れはじめています。住宅用太陽光発電の新規導入のおよそ半数は、蓄電池との組み合わせとなっています。カイリース氏によれば、蓄電池を組み合わせることでソーラーパネル単独で設置するよりも収益性は下がるため、驚くことに、住宅用蓄電池の普及は経済性の観点からは説明できません(インタビュー全編はこちら)。

かわりに、多くの購入者はエネルギー転換に参加したいという思いがあり、電力会社への依存度を減らしたいと切望しています– 住宅用蓄電池メーカーの Sonnen や Solarwatt が扇動する欲望です。

ベルリン郊外の自宅の屋根に太陽光発電をすでに導入しているレネ・ケラー氏は、ひとつの例を表しています。昼間の発電量を夕方以降に使うソーラー蓄電池として、彼の自宅での導入はドイツ国内で10万件目の導入となりました。

「2つ理由からです。私はお金を節約したかったし、もっと自立したかったのです」と、ケラー氏はクリーンエナジーワイヤーに述べています。「私が契約していた電力会社と決して終わらない価格の上昇にうんざりしていました。太陽光発電は電気代を約半分まで下げてくれたし、蓄電池はもっと下げてくれるでしょう。」

住宅用蓄電池の急速な導入は、さらなる価格低下とともに今後数年かけて進展が続いていくと見込まれています。太陽光産業協会 BSW Solar は、早ければ2020年には国内で20万件の閾値を超えると期待しています。

さらに、2000年代はじめに導入された数百〜数千件の屋根上太陽光発電に対する固定価格買取制度の20年間の支援が終了することで、住宅用蓄電池の普及がますます進むかもしれません。これらの屋根上太陽光発電は、ほぼゼロに近いコストで電力を生み出し続けます– 一方で系統からの電力コストは約 30 cent/kWh です(詳細はファクトシートを参照)。

ケラー一家と経済次官バライス氏(左)|出典:BSW

電力会社にとっての悪い知らせ

住宅用蓄電池の急速な普及は、既存の電力会社に課題を突きつけます。多くの電力会社は、すでに自然エネルギーとデジタル化による騒乱に巻き込まれています(詳細は「ぼろぼろの電力会社がスタートアップとのイノベーション競争に挑む」および「デジタル化がエネルギー転換の新たな局面に火を点ける」を参照)。

「こうした展開は、電力販売をビジネスとする企業にとっては悪い知らせです」と、カイリース氏は述べます。ケラー氏のようなソーラー蓄電池の所有者は、通常、電力需要の約70%を自ら生み出した太陽光発電で賄うことができます。「電力会社の1件の顧客は、0.3件の顧客になってしまいます」と、カイリース氏は述べます。

さらに、住宅用蓄電池の所有者たちは、自ら生み出したエネルギーを他の蓄電池所有者と共有するバーチャルコミュニティに参加しています。このアプローチは、既存の電力会社の必要性を完全に取り除くことができます。住宅用蓄電池メーカーで、この技術の卓越した主導者である Sonnen によれば、これはドイツ国内だけでなく、海外にも当てはまるとのことです。同社は、4万件の住宅を「バーチャルパワープラント」につなぐことで、世界最大の住宅用蓄電池のネットワークをオーストラリアに構築する計画をもっています。

マッキンゼーによれば、どれだけ早くコストが低下するか、電力会社がどのように適応するか、サードパーティがどれだけすばやく動くのか、規制がどうなるのかといった要因に依存して価値の源泉が発展するため、蓄電池の普及は巨大な勝者と敗者を生み出します。「電力会社は、低コストの貯蔵がどのように未来を変えていくか、いますぐ理解しなければいけません」と、マッキンゼーは警鐘を鳴らします。「実際には、電力会社は自らを破壊する必要があります– もしくは、他社が破壊することになるでしょう。」

ドイツの電力会社の中には、すでに変化の風をつかみとり、いまや自ら住宅用蓄電池を販売しています。代表的な例が EnBW であり、同社は顧客に太陽光発電と住宅用蓄電池の組み合わせを提供しており、これらは他のユーザーが参加するバーチャルコミュニティからの電力を補給することもできます。2018年はじめ、EnBWは「分散型エネルギー転換のフルライン供給者」になり、「バリューチェーンと専門性をインテリジェントエネルギーマネジメントシステムに広げる」ため、蓄電池メーカーの Senec を買収することを発表しました。

「分散型の電力供給への転換は、エネルギー分野でもっとも主要なトレンドのひとつであり、電力貯蔵は中心的役割を担います」と、EnBW のスポースクパーソン、ハイコ・ヴィルレット氏はクリーンエナジーワイヤーに述べます。「電力会社は考え直す必要があります。分散型エネルギー供給の新たなビジネスモデルを開発できない企業は当然悩むことになります。」

マッキンゼーは、Sonnen のように分散型エネルギーの分野に特化した企業や、技術製造およびファイナンスを担うプレイヤーには「莫大な成長のポテンシャル」があると見ています。「さまざまな課題をすべて切り抜けるには危険な領域であり、その道のりでは間違いなくつまずくこともあるでしょう。しかし、貯蔵の時代が来ることは間違いありません。」

貯蔵は脱石炭に向けた敷石になりえるか?

ドイツの貯蔵産業は、すでに1万2,000人の雇用を生み出しています(その内、約5,000人が蓄電池)− ドイツ国内の褐炭産業の雇用数の半分以上です。ドイツ・エネルギー貯蔵協会BVESによると、2018年に総売上は約10%増加し、51億ユーロに届くと見込まれています。ドイツ政府は、蓄電池製造を炭鉱エリアに誘致することで、石炭委員会で検討されている脱石炭への移行期間に貯蔵産業を活かしたいと考えています。

「エネルギー転換における蓄電池の影響は、ドイツの石炭委員会にとって重要な問題です。脱石炭は主に雇用に関する議論だからです」と、気候・エネルギー・輸送に関する国際コンサルタントのハラルド・ディアズ・ボーン氏は述べます。彼は、国内の石炭発電所の屈強な擁護者である石炭鉱業組合IG BCEに言及します。

「ギガファクトリーと呼ばれる新しい雇用のプロフィールは、褐炭鉱業の古い雇用とよく似ています — そして、それらはいまだにIG BCE によってカバーされています。組合は、メンバーを維持することができ、同等の賃金レベルで雇用を保ち、影響を受ける労働者たちは移動する必要もありません。こうした適合性について、現在、綿密な調査が進められています」と、IRENAや国連、GIZなどで働いた経験をもつディアズ・ボーン氏は述べます。

労働組合は、エネルギー転換における声高なステークホルダーであり、彼らは賃金レベルの低下、雇用の安定性の低さ、既存のエネルギー分野に比べて自然エネルギー分野では低い組合組織率などを懸念しています。

経済次官トーマス・バライス氏によると、投資家との交渉はかなり進んでいるようです。「これまでの数週間だけでも、具体的なギガファクトリーのアイディアについて、3件の投資コンソーシアムと議論を交わし、彼らはこれを特別な投資にしたという意向をもっています。多くのことが起こりつつあります」と、バライス氏は2018年8月に述べています。そのすぐ後で、ポーランドとドイツは、東ドイツの褐炭エリア・ラウジッツと西ポーランドにおける蓄電池製造の協力を発表しました。経済大臣ペーター・アルトマイヤー氏は、9月にドイツが国内での蓄電池製造のイニシアティブをとることを発表しましたが、その詳細は明らかになっていません。

テスラのイーロン・マスク氏は、米国企業がフランスとドイツの国境付近(炭鉱エリアのあるラインラント付近)に蓄電池のギガファクトリーを開くことを考えているようだ、と一般に向けて述べています。

「私は、ドイツに蓄電池製造を誘致することが今日の産業政策のカギとなる課題だと考えています。私たちは、電気自動車や蓄電池といった未来の製品をつくりあげることを確実にしなければなりません。」とディアズ・ボーン氏は述べます。

ドイツの自動車メーカーの低排出モビリティへの移行に際して、2018年7月、中国の蓄電池メーカーCATL は、チューリンゲン東部でギガファクトリーを建設することにすでに合意しています。この背景には、ドイツの自動車メーカーが蓄電池製造への投資に消極的であることが背景にあります。

ドイツ宇宙航空センター(DLR)は、貯蔵技術を利用して脱石炭を容易にする代替アプローチを提案しています。研究者たちは、使われなくなった石炭発電所で液体塩を充塡した大規模タンクを設置し、そこに自然エネルギーから生み出された熱を貯蔵し、既存の蒸気発電機やタービンを使って熱を電力に転換する方法を提案しています。ドイツ政府は「大規模な熱貯蔵を必要としなくなった発電所を活用する」可能性を検証すると述べています。DLRによると、もしこれらのプロジェクトが成果を上げれば、現在の石炭発電所の雇用のおよそ半分を維持することができます。

ドイツの石炭発電所|出典:Pixabay

車輪のついた蓄電池

蓄電池製造を後押しする主な推進力の背景には、化石燃料の自動車の退場とゼロエミッション・モビリティへの移行が次第に迫ってくるなかで、政府がすべての自動車産業の未来を保障したいという要望があります。電力分野から見れば、電気自動車は「車輪のついた蓄電池」であり、住宅用蓄電池をはるかに上回るインパクトを与えることになるでしょう。

「10万件という住宅用蓄電池の数字は印象的ですが、電気モビリティのスケールを考えると、穏当な数字と言えます。私たちは、数百万台という自動車を視野に入れており、それぞれは40〜100kWhで、一般的な住宅用蓄電池の5〜10倍の大きさです」と、ディアズ・ボーン氏は述べます。

住宅用蓄電池のように、電気自動車は充電するだけでなく、必要があれば系統に給電することもできます。例えば、午後に仕事から帰ってきた電気自動車のオーナーは、翌朝までにフル充電するように充電システムに指示したとします。充電システムは、充電に必要な時間を割り当て、余剰分を系統の安定化に配分することができます。簡単な通知で大量の電力を充放電することができるという、蓄電池の核心的な強みは、電力系統にアンシラリーサービスを提供する理想的なツールとなります。系統を安定化させる上で、蓄電池は電力の流れをスムーズにすることが可能であり、また、供給が豊富で安い時間に消費をシフトさせることができます。

電気自動車の普及に応じた系統給電サービスの拡大|出典:IRENA

しかし、自動車のオーナーとメーカーの承諾に依存するため、多数の電気自動車がこうしたサービスを提供するかどうかは依然として不明です。

「自動車オーナーからの抵抗は克服できるでしょう — 単純に報酬の問題だからです」と、アゴラ・エネルギーヴェンデの貯蔵専門家、マティアス・ ドイチュ氏は述べ、電気自動車オーナーに系統安定化の費用を支払うことを含めたビジネスモデルを参照します。「自動車会社にはより大きな問題となりえます — 例えば、蓄電池が系統に統合されるのであれば、彼らは製品保証を取り消すでしょう。」

双方向充電と呼ばれるこの取り組みは、すでにパイロットプロジェクトでテストされています。バーチャルパワープラント運営者のNext Kraftwerkeは、系統安定化に自動車の蓄電池を利用するため、オランダのスマート充電プロバイダーJedlixと組んでいます。

マッキンゼーによれば、電気自動車は2030年までにドイツの電力需要に対してそれほど増えませんが、仕事から帰宅した人々が充電することで夕方のピーク需要が高まり、需要曲線を変形させる可能性があります。国レベルでは、電力システムが予期される軽微な影響を吸収することができる一方で、郊外エリアのような電気自動車の普及が進んだホットスポットでは著しくピーク需要が増えるため、地域の変電所をアップグレードすることが必要になると見られています。

「または、エネルギー貯蔵ユニットと変電所を併設して、低需要の時間に貯蔵するといったかたちで、より地域に密着した解決策を考えるエネルギープレイヤーも考えられます。蓄電池のコストが急激に下がりにつれ、需要プロファイルをスムーズにするためにエネルギー貯蔵を利用することはますます魅力的になるでしょう」と、マッキンゼーは述べます。

ドイツの貯蔵産業も、高額な費用がかかる系統のアップグレードのコストを下げる支援ができると述べています。「電気自動車の充電が系統に高い負荷をかけているという話をよく聞くかと思います — しかし、蓄電池をバッファーとして使うのであれば、それは正しくありません」と、貯蔵協会のゴトケ氏は述べます。

将来を見渡すと、電力系統で使うことができる電気自動車の台数はまったく未知数です。もし、個人所有の自動車台数が減り、自動ロボットタクシーに置き換わってしまえば、多くのモビリティ専門家が予期しているように、それらは多かれ少なかれ恒常的に路上にいることになります(詳細については資料集「BMW, Daimler, and VW vow to fight in green transport revolution」を参照)。

人々と地球に対する副次的影響

来たる蓄電池市場の規模拡大は、必要とされる原料の問題や、人々や環境に対する製造と廃棄に関する副次的影響関して警鐘が鳴らされています。

クリーンモビリティのシンクタンクであるアゴラ・フェアケアースヴェンデの調査研究によれば、リチウムやコバルトといった蓄電池のカギとなる材料は、蓄電池ブームを可能にするには十分な量がある一方で、それらの採掘には環境・社会問題が内在していることが指摘されています。「持続可能性は、「長期的な入手可能性」以上のものを意味します。サプライチェーン全体を通じて環境基準を守り、労働者の労働環境を整えることを意味するのです。」

「この分野の問題は多岐にわたります。例えば、採掘オペレーションにおける膨大なエネルギー消費、酸性鉱山の廃水、鉱業と先住民の間での水を巡る紛争、鉱山における劣悪な労働環境などです。」と、アゴラの研究は述べています。

特に、労働者が素手で原材料を掘っていたコンゴの小規模コバルト採掘場での非人道的な労働環境は、最近メディアの注目を集めました。ニッケルリチウムの採掘にも、高い環境負荷がかかります。

使用済み自動車バッテリーの廃棄もまた重大な環境問題をもたらします。しかし、萌芽期にある産業として、アフターマーケットが形成されつつあります。

顕著な例としては、自動車メーカーが蓄電池をひとまとめにして大規模な定置型で導入し、寿命を延ばすという取り組みです。すでにさまざまなドイツの自動車メーカーが、電力の需給バランスを保つため、数百個の電気自動車の使用済み蓄電池を組み合わせて電力システムの大規模なバッファーを形成しています。メルセデスのメーカーであるダイムラーは、2018年7月に総容量10MWhで、これまでに3番目の大きさとなる電気自動車の使用済み蓄電池による蓄電施設を開設しました。BMWも同様のプロジェクトにかかわっています。

大規模蓄電池が系統サービスを提供する

中古/新品にかかわらず、価格が低下していることから、すでに蓄電池は系統安定化にとって不可欠なツールとなっています。貯蔵協会BVESによれば、ドイツの大規模商業蓄電池の総容量は2018年にほぼ倍増して約320MWとなる一方、すべての住宅用蓄電池の合計は約380MWになります。

英国やオーストラリアのような、より隔絶された国々では強力な使用事例となります。「島国である英国には国際連系線がわずかしかなく、風力発電には莫大なポテンシャルがあります。そのため、英国は系統接続型の蓄電池の恩恵を受けるはずです。」と、ディアズ・ボーン氏は述べます。

「ドイツでは、例えば国際連系線での輸出入といったように、幅広く柔軟性の選択肢があり、それらは比較的安いことから、大規模な系統接続型の蓄電池の必要性はあまり語られていません。そのため、ドイツは英国ほど蓄電池に依存することはないでしょう。」

英国とは対照的に、ドイツの電力系統はアルプスの水力発電を活用することが可能であり、また、現在建設中の水中ケーブルNordLinkを使って、風力発電の電力をノルウェーの水力発電所に給電することになるでしょう。

WEMGAによる大規模蓄電設備|出典:Carel Mohn / Clean Energy Wire

大規模蓄電池プロジェクトは、集中型の電力系統に頼ることができない遠隔集落のエネルギー供給をグリーン化する上で、重要なツールとなってきました。

北海のドイツの島々は、貯蔵を含むスマートミニグリッドの完璧な実験場所を提供します。例えば、EUが支援するボルクム島での実証プロジェクトは、いくつかの貯蔵技術を備えたスマートグリッドに接続した太陽光発電と風力発電によって化石燃料による発電を置き換えることを目的としています。

ドイツの貯蔵企業のノウハウは、海外からも注目されています。例えば、蓄電池のスペシャリストYounicosは、ディーゼル発電を置き換えるため、大西洋の中央に位置するポルトガルのグラシオーザ島にエネルギー管理システムを提供しています。

「開発途上国の多くの農村地域では、蓄電池と自然エネルギーが提示する可能性に関して、分散型でスマートなミニグリッドが、国の電力系統建設を完全に飛び越えて進むのかどうかが問われています」と、ディアズ・ボン氏は述べます。

熱と季節貯蔵

しかし、蓄電池は、今後のエネルギー転換のステージで必要とされる膨大な貯蔵に対する万能な解決策ではありません。蓄電池は、数日以上の電力貯蔵には不適当であり、長い期間にわたって風が吹かず、太陽も出ないときに必要とされるだけの容量を確保することも難しいからです。この視点を具体的なところに落とし込めば、こういうことです:2017年にテスラが建設した世界最大の蓄電池は129MWhですが、これがベルリン市に電力を供給できるのは約5分です。

「蓄電池に関するこうした議論のすべては、肝心な問いにまったく答えていません:私たちは冬にどこから自然エネルギー電力を手に入れるのでしょうか?」と、ドイチュ氏は述べます。「カギとなるのは季節貯蔵です — 私たちは、夏の太陽光発電を数ヶ月間どのように貯蔵することができるのか考える必要があります。」

多くの専門家は、長期的に風も太陽もないときの安定的なエネルギー供給がドイツのエネルギー転換の中心的な課題だと考えています。こうした気象状況は、エネルギー転換の文脈で幅広く議論されており、これに関する新しい言葉も生まれています:デュンケルフラウテ(Dunkelflaute, 暗く、無風の状態)。

デマンドレスポンスや電力取引といった安価な柔軟性の選択肢が利用可能であることから、エネルギーの専門家たちは、大規模な貯蔵技術は数十年間も必要とされないだろうと考えています。「ドイツで今後20年間におこなわれる風力発電と太陽光発電の開発には、新しい電力貯蔵は必要とされません」と、アゴラの調査研究は結論づけています。

しかし、大規模貯蔵の問題は、依然として議論の余地が残ります。エネルギー転換政策に対して声高に批判を展開する経済学者のハンス・ヴェルナー・ジン氏は、巨大な貯蔵を必要とするため、変動する自然エネルギーへ完全に移行することは不可能であると主張しています。しかし、ドイツ経済研究所(DIW)の経済学者たちは、ジン氏の想定は非現実的であると反論しています。例えば、発電された自然エネルギーのすべてが利用されなければならないわけではありません。そして、彼らはこのように結論づけています:「電力貯蔵の必要性は、エネルギー転換の進展の障害とはなりません。」

しかしながら、専門家たちは、実際には大規模貯蔵がカギとなることについて同意しています(詳細はHow can Germany keep the lights on in a renewable energy future を参照)。

自然エネルギーの割合に応じた柔軟性の構成要素|出典:Ecofys

ドイツ技術者協会によると、この課題に対応する適切な技術がすでに利用可能となっています。「貯蔵技術には、すでに取り組まれているエネルギー転換を完成させることが求められています。貯蔵技術には異なる開発の段階があるものの、技術的な観点から見れば、貯蔵の問題は解決されています。」

例えば、電力は水素やその他のガスを生成することに使うことができ、それらは無限に貯蔵することも可能で、従来のガス火力発電所で燃やして発電することもできる上、住宅で熱として使うこともできます。しかし、多くのエネルギーが変換で失われるため、現在、その技術は高価です(詳細はPower-to-gas: Fix for all problems or simply too expensive?を参照)。

もうひとつのアプローチは、熱の形態で大規模にエネルギーを貯蔵することです。「Power-to-gasは、季節貯蔵の唯一の選択ではありません。これは、単純に断熱の問題です。」と、ドイチュ氏は述べます。「例えば、大規模な帯水層貯蔵のようなかたちで地中を使うことができます — 巨大な魔法瓶のような効果があります。」

ハンブルク市は、巨大な地下帯水層熱貯蔵システムの実証段階をすでに終了しており、これは石炭発電所を置き換え、冬に8,000件の家庭に熱供給をおこなうことができます。水は、80℃に温められ、地中に送られ、温度を維持し、後で市の地域熱供給で使われます。

「ドイツ製の貯蔵」に対する世界の政策立案者の注目

国内の普及と国際的に成功する貯蔵産業構築の両面で、政府の政策がドイツの貯蔵の開発をかたちづくる上できわめて重要となります。さまざまな技術の未来は「政策に大きく依存するでしょう」と、アーヘン大学の研究者カイリース氏は述べます。「ドイツでは柔軟性の選択肢に対する構造的な怠慢があり、それは政府が異なるエネルギーの形態への課税を改革することを拒否しているからです。」

カイリース氏と他の多くの貯蔵の専門家たちは、Power-to-gasのような決定的な技術にレバレッジを利かす上で必要となるエネルギー税や課徴金の抜本的な改革を主張しています。「例えば、ガスをつくるために電力を使えば、価値の大部分が失われてしまうため、規制は経済的に不可能です。」

欧州経済研究センター(ZEW)の調査によれば、エネルギー産業の専門家たちは、現在の政策枠組みがエネルギー貯蔵をほとんど促進していないことに同意しています。ドイツの急速な自然エネルギーの普及は惜しみない支払い支援の複雑なシステムによって加速してきた一方で、蓄電池革命は政策的なインセンティブなしで大きく普及しており、政策は追いつく必要があります。

「現在10万件の蓄電池が導入されていますが、それは政策立案者のおかげではありません。規制者は問題を解決するダイナミックな方法として蓄電池を使おうとしますが。」と、太陽光発電と蓄電池のメーカーSolarwattのCEOデトレフ・ノイハウス氏は述べます(インタビュー全編はこちら)。

「貯蔵は、時代遅れで狭小な規制枠組みに押し込められてしまい、多くの技術が適切に収益を上げることができなくなっています — 例えば、そのような技術は課徴金を何度も支払わなければなりません。」と、貯蔵産業協会のゴトケ氏は説明します。「規制枠組みは、技術の発展に遅れをとっています。」

政府は、貯蔵産業の世界市場に向けたステップとして、国内で貯蔵の利用を加速するために改革が必要であることを認識しているものの、抜本的だが困難な税制改革に取り組むことを躊躇っています。

「私たちは、新しいビジネスモデルと電力貯蔵にインセンティブを与える価格を必要としています」と、バライス次官は述べます。彼は、貯蔵産業の「競争力を維持し、国内だけでなく、世界に製品を提供できるように」支援するという点で、政府が今後数年間にわたって「非常に積極的」になると述べています。

強い影響力をもつ産業協会BDIは「気候変動対策における指導的役割は、ドイツの経済競争力を高め、イノベーションを促進する膨大な機会をもたらします。」と述べます。

主に中小企業で構成されるドイツの貯蔵産業は、すでに積極的な輸出志向をもっており、世界での売上成長の恩恵を享受するポジションにあることを主張しています。それは、米国やオーストラリアでの大規模系統蓄電池や、アフリカでのミニグリッド/オフグリッド蓄電池の需要によって後押しされています。

連立政権は、すでに最新の予算で蓄電池研究への資金を大幅に増やしており、バライス氏はそれ以上の追加がないことを示唆しています。「エネルギー転換は、技術プロジェクトでもあります。私たちは、近い将来のドイツの成長と繁栄にどの技術を利用することができるのかを問わなければなりません。」

「ドイツは、現在、「自然エネルギー2.0」の技術リーダーです。」とノイハウス氏は述べます。「私たちが議論に追いつきながらも、このリーダーシップがアジアへと移っていくのを眺めるようなことになれば、それは本当のスキャンダルになるでしょう。」

著者:ソーレン・アメラング(Sören Amelang)Clean Energy Wire特派員

元記事:Clean Energy Wire “Electricity storage is next feat for Germany’s energy transition” by Sören Amelang, Oct 10, 2018. ライセンス:“Creative Commons Attribution 4.0 International Licence (CC BY 4.0)” ISEPによる翻訳