熱分野のスタートアップ − サーモンドがエネルギー供給をリードする

エネルギー転換の進展の中で新たな機会が生まれ、さまざまなスタートアップが新たなビジネスモデルを構築し、産業構造を変革しつつあります。クリーンエナジーワイヤーのスタートアップインタビュー連載第2回「サーモンド」の翻訳記事をお届けします。


クリーンエナジーワイヤーは、ドイツのエネルギー転換がビジネスに与える影響について取り上げます。世界第4位の経済大国ドイツで進行中の大変動を紹介し、脱炭素に向けてあらゆる産業の破壊をめざすスタートアップたちを取り上げ、連載しています。第2回は、ベルリンの熱供給企業「サーモンド(Thermondo)」です。

多数の人々に関心をもってもらおうとするとき、熱効率を高めることは最初の選択肢にならないのかもしれません。しかし、ドイツの気候変動対策目標を達成する上で、熱供給システムを改善することがカギとなることを理解していることから、ベルリンのスタートアップであるサーモンドは、そこに途方もないビジネス機会を見出しています。

住宅の所有者たちのボイラー更新を支援するオンラインポータルサイトを立ち上げるというアイディアは、高い成長率によって報われ、現在、サーモンドはドイツ最大の分散型エネルギー供給事業者になることをめざしています。同社は、ガス販売も手がけはじめ、太陽光発電の設置も視野に入れています。マーケティング部長のステファン・ヘルヴィック氏は、熱供給の未来と既存の大規模事業者の変化についてクリーンエナジーワイヤーに語りました。

企業概要

    • サーモンドは、2012年に設立され、堅実なビジネスに新しいデジタルアプローチを取り入れることで、すでにドイツ最大の熱供給システム設置業者となっています。
    • ベルリンを拠点とするサーモンドは、住宅の所有者たちに熱供給システム改修方法をアドバイスするオンライン・ポータルサイトを運営しており、現在、175人の熟練した従業員がドイツ全国で導入を進めています。同社は、すでに約1万5,000件の熱供給システムを改修しています。
    • サーモンドの公式な行動指針は「2℃未満(<2°)」です — パリ協定にもとづく排出削減が重要な動機付けとなっていることを発信しています。同社は、潜在的な顧客に対して、ドイツのエネルギー転換には誰もが貢献する必要があり、熱供給システムを更新することで30%もの排出を削減することができると伝えています。「未来の発電所は屋根の上、もしくは地下室にあります。[中略]あなたは未来の発電所運営者です。」
    • サーモンドの高い成長率から、膨大な未開発の市場が発見されています — 同社は、2013〜2016年の間に400%の成長率を記録し、Financial Times の2018年欧州高成長企業ランキングで2位に入っています。また、Bloomberg New Energy Pioneer Award 2017 などを受賞しています。
    • サーモンドの成功物語は、大電力会社の E.ON やオランダの Eneco も含め、著名な投資家たちの関心も集めています。2017年の最終投資ラウンドで2,100万ユーロを集めました。
    • 最近、サーモンドは、ガス販売事業へとプロダクト・ポートフォリオを拡大し、従業員は320人へと成長しました。目標は高く設定されています:サーモンドは「ドイツで最大の分散型エネルギー供給事業者」になりたいと考えています。
    • サーモンドは、現在のビジネス開発については非公開としています。公表されている直近の売上は2,600万ユーロ(2016年)となっています。今年は、2桁の成長をめざしています。

なぜサーモンドが重要なのか

サーモンドへのインタビュー

クリーンエナジーワイヤーは、サーモンド・マーケティング部長のステファン・ヘルヴィック氏にインタビューをおこないました。

―― クリーンエナジーワイヤー:ドイツのエネルギー転換の進展について、特に熱分野に関してどのように評価されていますか?

ステファン・ヘルヴィック:ドイツは、いまのところ、残念ながら正しい方向に向かっているとは言えません。電力は、私たちの総エネルギー消費の20%に過ぎないものの、エネルギー転換は電力に集中しています。熱分野の膨大な省エネポテンシャルに十分な注目を与えないことによって、エネルギー転換の成功をリスクにさらしていると言えます。

早急に更新することが必要な旧式の熱供給システムは1,300万件あります。多くの人々は、機器を更新したいと望んでいるものの、現在の市場にはその需要に応えるために導入計画をつくり、施工する能力が十分にありません。特に、熱利用がはじまる季節には、熱供給システム導入業者から更新の見積りをとるだけでも数週間かかってしまいます。

さらに、熱供給システムはプロセスが非常に複雑なので、多くの人々が取り組もうとしないトピックであることはたしかです。例えば、現在利用することができる数々の資金インセンティブは混乱を招くばかりです。多くの人々の気が向かないのも不思議ではありません。

—— 将来、熱供給はどういった方向に進むのでしょうか?

新規導入に関して、ヒートポンプが大幅に成長する傾向にあると見ています(例えば、太陽光発電との組み合わせ)。

しかし、現在、サーモンドはボイラーの更新に注力しています — 私たちは、いまは新規導入をおこなっていません。熱供給システムを更新する一方で、ヒートポンプのような新しい技術は、あまりにも多くの不確実性にさらされています。宣伝されている期間で投資は成り立つのでしょうか?ヒートポンプの熱負荷は低いため、既存の建物からすると違った絵が見えてきます — ヒートポンプを利用する上では建物がしっかりと断熱されていなければならないのです。

このテクノロジーをより魅力的にするには、管理組合もしくはエネルギーコンサルタントが包括的なコンセプトのもとで改修に取り組み、顧客にこのプロセスに関する助言ができるようになることがカギとなります。現時点では、顧客の大多数が従来の熱供給システムの継続を選択するでしょう。そのため、これからもガスは熱供給の主要な技術であり続けます。しかし、私たちは、今後、顧客たちはガスもしくは石油の熱供給と太陽熱エネルギーを組み合わせたハイブリッドなソリューションを選択していく傾向にあると見ています。

—— 現在、ガスの販売がサーモンドのビジネスモデルをどのように補完しているのか、ご説明いただけますか?

基本的に、私たちは3つのプロダクトを提供しています。第一のプロダクトが現金販売で、顧客は施工も含めて熱供給ユニットを現金で購入し、メンテナンス契約はオプションとなります。

第二のプロダクトが「サーモンド365」という契約で、顧客は投資コストを2〜10年にわたって支払うように選択することができます。月々の支払いに追加のメンテナンスや修理のコストは含まれており、フルサービスのパッケージを利用することができます。

2018年12月、第三のプロダクトとして「サーモンド365プラス」をはじめました。これは、炭素中立の熱利用リースサービスであり、サーモンド365と似ていますが、カーボンオフセット証書のついたガス供給が含まれていることが重要なポイントです。

顧客の約25%がリスクのないリースプロダクトを選択していることから、私たちは「サーモンド365」に大きな需要があると見ています。熱利用リースサービスについて、顧客の約10〜15%が潜在的に長期契約になると見ています。

—— シェルが蓄電池の先駆者 Sonnen を買収したという最近の発表について、どのようなご意見をお持ちでしょうか?また、グリーンエネルギー供給事業者の LichitBlick についても買収の可能性があるようですが、このようなトレンドがあるのでしょうか?

時代が変わりつつあることを示していると思います。多くの大規模エネルギー企業は、より持続可能なポートフォリオを構築することを試みています。彼らは、将来が証明されたビジネスモデルに投資したり、積み上げたり、吸収するなどしています。シェルは比較的早くこの動きを理解したプレイヤーのひとつで、現在、正しい方向へと進んでいるようです。ガスと石油のプレイヤーたちは、この先15年、20年、30年で、どこに向かって進むのかを評価する必要に迫られるでしょう。

多くの電力会社は、どのように顧客にリーチすることができるのか、また、彼らとどのように持続的な関係を築けばいいのか悩んでいます。多くの自治体電力公社とその他のエネルギープロバイダーたちは、わずかな価格差だけで競合他社との差別化を図っています。これは、顧客がエンパワーされる時代では、顧客のスイッチングの意向と頻度を高める結果となっています。

どうすれば顧客を留まらせることができるのか、具体的なアイディアを持ち合わせている大規模プレイヤーはほとんどいません。本質的には、将来、家庭に追加的なサービスを提供できるのは誰なのかということを問わなければなりません。

—— ドイツ最大の分散型エネルギー供給事業者になるという目標を達成する上で、サーモンドの主要な競争相手は何でしょうか?

すでに言及されていたように、Sonnen は強い価値提案を打ち出している有望な企業です。 Sonnen は電力に注力していますが、彼らは統合エネルギーサービスプロバイダーでもあります。

私たちは熱に注力していますが、電力も取り組みの視野に入れています。私たちは、今年、燃料電池による熱供給システムを再投入する予定です。これは、電力分野との興味深い交差点を提供するものであり、将来的にはヒートポンプや太陽光発電も含むプロダクトポートフォリオへと拡張することを検討しています。燃料電池はガスで稼働しますが、熱と電力の両方を生み出し、それらはオンサイトで利用されるか、系統に売電されます。

Sonnen のような新規参入者とは別に、私たちは、大電力会社や5万5,000件の小規模な従来の施工会社とも競争しています。

—— サーモンドの次のマイルストーンは何でしょうか?

今年、私たちは成長することに再度注力し、40%の売上増加をめざしています。私たちのビジネスモデルは多くの人々を巻き込んでおり、従業員数はそれにともなって増えていく必要があります。

もうひとつのマイルストーンは、太陽光発電の販売に参入することです。これは、私たちにとってまったく新しいプロダクトになります。太陽光発電をポートフォリオに加えることにより、電気工事が必要となることから、さらに多くのスタッフを採用する決定となります。そういった電気工事は、これまで私たちが担ってきた純粋な熱供給の世界にはなかったものです。

私たちはすでに太陽熱システムを提供しています。特にドイツ南部では、顧客の10〜15%が太陽熱テクノロジーによる熱供給システムを利用しています。

—— これまでのところ、サーモンドのビジネスはドイツのみで展開しています。他の国に拡大する計画はありますか?

私たちは、欧州のいくつかの市場に目を向けていて、それらのいくつかは私たちに関心をもっています。しかし、現段階では、私たちは具体的な計画をもっていません。ドイツの市場は巨大であり、サーモンドはそれなりに大きなプレイヤーであるとはいえ、市場シェアは比較的小規模に留まっています。

先述の通り、熱供給システムを導入する企業は5万5,000社いて、それらの多くは典型的な配管工のように非常に小規模です。その他の多くは、HVACサービスプロバイダー[1]で、彼らはサーモンドのように熱供給のみに注力しているわけではありません。

[1] HVAC:Heating, Ventilation, Air Conditioner = 熱供給、換気装置、空調機器

—— サーモンドのビジネス拡大を遅らせる主な規制障壁は何でしょうか?

地域や国の補助金スキームがもっと明確であると非常に助かります。いまのところ、この分野がどこに向かっていくのか、はっきりしません。例えば、燃料電池を支援する新しいプログラムがありますが、これは2年間に限定されています。まったく新しいマーケティングキャンペーンを検討する場合、これではあまりにも短期すぎます。

—— ドイツのエネルギー分野のスタートアップはどのような状況にあるとお考えでしょうか?

全般的には、ドイツには有利な法律や規制があると言えますが、スタートアップが心地良いと思える環境ではありません。スタートアップの資金調達もまた問題があり、特に開発後期で大規模な資金を必要とする投資ラウンドでは、通常、国際投資家が資金を出しています。しかし、初期段階の資金調達については、近年、良好になりつつあります。最近では、ドイツのベンチャーキャピタルも積極的になりはじめています。

もうひとつは、スタートアップたちの間に励まし合い、助け合う強力な文化があり、非常に積極的な交流があることがあげられます。また、ドイツは非常に強力な教育システムを誇りとしていて、エンジニアリングやデジタルの専門性を新たに築こうとしています。スタートアップからすると、これがドイツの地理的魅力を高めており、最近、世界的に有能な人たちがベルリンを拠点とするようになった要因でもあります。

さらに、スタートアップを支持する多数の組織があります。エネルギー分野では、Eco Innovation Allianceが50件以上のエネルギースタートアップのアイディア交流および共同声明の場をなっています。他にも、ドイツ・スタートアップ協会などがあります。また、スタートアップと中小企業の間でネットワークが進んでいる傾向もあり、私たちは、そういった対話を促進していきたいです。「私たち」と「彼ら」ではなく、共に進んでいきたいと考えています。

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インタビュー:ソーレン・アメラング(Sören Amelang)Clean Energy Wire特派員

元記事:Clean Energy Wire “Heating start-up Thermondo aims to be leading energy supplier” by Sören Amelang, Mar 27, 2019. ライセンス:“Creative Commons Attribution 4.0 International Licence (CC BY 4.0)” ISEPによる翻訳