モビリティスタートアップ − ユビトリシティが電気自動車充電の変革をめざす

エネルギー転換の進展の中で新たな機会が生まれ、さまざまなスタートアップが新たなビジネスモデルを構築し、産業構造を変革しつつあります。クリーンエナジーワイヤーのスタートアップインタビュー連載第3回「ユビトリシティ」の翻訳記事をお届けします。


クリーンエナジーワイヤーは、ドイツのエネルギー転換がビジネスに与える影響について取り上げます。世界第4位の経済大国ドイツで進行中の大変動を紹介し、脱炭素に向けてあらゆる産業の破壊をめざすスタートアップたちを取り上げ、連載しています。第3回は、電気自動車充電を専門とする「ユビトリシティ(ubitricity)」です。

充電インフラは、電気モビリティの普及に向けたもっとも大きなハードルのひとつです。しかし、ベルリンのスタートアップであるユビトリシティは、その解決策を見つけ出したと考えています:モバイル充電システムによって街灯を充電ポイントに転換させるのです。この技術はすでにロンドンで利用されており、近いうちにニューヨークやベルリンに導入される見込みであり、自動車メーカーのホンダを含む数多くの著名な投資家の注目を集めています。

創業者で CEO のフランク・パウリチェック氏は、電気モビリティの見通し、新しいビジネスモデル、充電インフラに関する懸念が間違った方向に進んでいる理由などについて、クリーンエナジーワイヤーに語りました。

企業概要

    • ベルリンのスタートアップであるユビトリシティは、低いコストで既存の街灯を電気自動車の充電ステーションへとアップグレードする物理的なデジタルインフラを開発しました。そのシステムには、請求システムや電気自動車の充電ケーブルが含まれていて、ユーザーは、例えば自宅の屋根に設置した太陽光発電からの電力で充電することもできます。
    • ユビトリシティは、2008年に創業し、従業員は約50人へと成長しています。すでにロンドンで導入されており、現在、ベルリンやニューヨークへの導入計画がつくられています。なお、ユビトリシティは「NYCx Climate Action Challenge Tech Competition in 2018」で優勝しています。ニューヨーク市長室は、ユビトリシティの技術が電気自動車ユーザーのニーズを簡素化し、将来の利用者を増やし、市の気候目標の達成を支援することになると述べています。
    • 2019年3月におこなわれた最新の投資ラウンドでは、ユビトリシティは 2,000 万ユーロを集め、自動車メーカーのホンダとパートナーシップを結んでいます。
    • ドイツの産業コングロマリットであるジーメンスとフランスの電力会社 EDF は、投資家として参画しており、初期の顧客には自治体の電力公社やライドシェアサービスを展開する emmy や CleverShuttle がいます。

なぜユビトリシティが重要なのか

ユビトリシティへのインタビュー

クリーンエナジーワイヤーは、ユビトリシティ創業者でCEO、また、政府のクリーンモビリティタスクフォース委員も務めるフランク・パウリチェック氏にインタビューをおこないました。

—— クリーンエナジーワイヤー:現在の輸送分野におけるエネルギー転換の進捗をどのように評価していますか?

フランク・パウリチェック:電気自動車へのシフトに絞ってお話したいと思います。モビリティ全般ということになると、公共交通、シェアリングのコンセプト、自転車など、あまりにも幅広くなってしまうので。電気自動車への転換は、長い間、ドイツの自動車メーカーが取り組んでこなかったのですが、2017年に急激に変わりました。このトピックはもはや体裁をつくろうといったレベルではなく、いまや各社が完全にコミットしています。メディアでも電気自動車への転換が語られ続け、自動車メーカーの間でも大激震がおこっています。

最近、ジュネーブでの自動車展示会に行ったのですが、全体的な印象はこのような感じです:自動車メーカーには2種類しかありません。ひとつは、6気筒の超高速で巨大な自動車を製造し、エンジンがブランドに内在していると主張する自動車メーカーです。もうひとつは、それ以外のすべてです。主要な自動車メーカーの基調講演で、電気自動車を中心トピックとして扱っていないものは1件もありませんでした。

—— 電気モビリティへの本当のブレイクスルーはいつになるのでしょうか?

ブレイクスルーに近づいていると思います。平均的な自動車バイヤーが求めているものや、電気自動車が提供しなければならない妥当な価格とのギャップは急速に縮まっています。しかし、必要とされる自動車は、まだ手に入っていません。蓄電池システムのコストは、電気自動車の購入と利用がエンジンの自動車と同じレベルのコストになるまで、さらに下がらなくてはなりません。重要な問題として、ドイツよりも電力が安い国々では、電気自動車のコストパリティに達するのが大幅に早いということです。

しかし、すでに述べたように、自動車メーカーの転換は本格的にはじまっているので、これはブレイクスルーに向けた明確なシグナルだと思います。また、フォルクスワーゲンが主導する電気自動車プラットフォームModular Electrification Toolkit (MEB) に見られるように、膨大な額の資金が投資されています。MEB はすべてのブランドとモデルに対応するため、大量の生産台数と巨大な規模の効果を生み出すでしょう。

フォルクスワーゲンのModular Electrification Toolkit (MEB)

規制枠組みについても、さらなる進展が得られるでしょう。ユビトリシティの新しい投資家であるホンダは、2025年から電気自動車を欧州で独占的に販売することを発表しました。この動きは、地域の汚染や気候変動問題を理由として、2030年代ぐらいから自動車メーカーがエンジンの自動車を欧州で販売することが許されなくなることが、ますます明確になったことを物語っています。それまでに残された時間は10年しかなく、過去数十年にわたって膨大な数の従業員と生産設備を成長させてきた自動車産業全体が取り組むには、あまりにも短い時間です。

消費者の視点から見て、自動車バイヤーが電気自動車を真剣に考えるようになるブレイクスルーは、早くて2025年ぐらいに訪れるでしょう。電気自動車の販売は、主にアーリーアダプターに支えられるかたちで、これから2022年まで急速に増えるでしょう。そこで、ようやく本当の波及効果が生まれ、現在、多くの人々が想定するよりもはるかに急速に電気自動車への転換が起こります。

2025年にショールームを歩くバイヤーは、このように声をかけるでしょう:「ちょっと待った。いまガソリンかディーゼルの自動車を買ったら、5〜10年後には売ることができませんよ。」その時点では、電気自動車の方が多少高かったとしても、従来型の自動車を買いたい人はひとりもいなくなるでしょう。

大規模自動車メーカーは、エンジンと電気の自動車の両方を大規模に並行して生産することは間違いなく不可能なので、エンジン自動車の販売を禁止する必要すらなくなるポイントがやってきます。中国やカリフォルニアの新規参入者とは対照的に、既存の自動車メーカーたちは既存の従業員、生産設備、プロセスなどの転換に対処しなければならないため(信じられないほど気遅れする作業)、すでに最大のリスクとなっています。

—— ユビトリシティが専門とする充電インフラの分野に話を移しましょう。大きな進展があるのでしょうか?

充電インフラ普及における主なハードルは、単純にこれまで成立した事例がないので、誰も商業的な関心をもたないという点にあります。おそらく、ドイツ国内には、もしかしたら世界中で利益を生み出している充電ポイントはひとつもないのかもしれません。

最大22kWの標準的な充電ポイントを導入するには、約10,000〜15,000ユーロがかかり、加えて200ユーロ/月がメンテナンスにかかります。この数字で利益を上げることは決してできないでしょう。RWE は、頻繁に充電されるポイントでさえ、利益を上げるには 1.8ユーロ/kWh を課金しなければならないと数年前に述べています。もちろん、自宅で払う場合の約6倍かかるので誰も利用しないでしょう。そこでは選択肢は2つしかありません — 補助金なども使ってとにかく本当に安い技術を普及させる、もしくは、より賢明な解決策を選ぶことです。

私たちは、異なる使用事例を区別しなければなりません。私たちは、将来、いつどのように自動車を充電するのでしょうか? ほとんどの人はこの問題に対して今日の「充電インフラ」を思い浮かべて取り組もうとします。つまり、ガソリンスタンドのようなイメージです。彼らは「道路に出ていて充電しなければならなくなったとき、どこで充電したらいいのでしょうか?」と考えるでしょう。まさにこの問いが、私たちが「アドホック充電インフラ」と呼ぶものの進展を定義しています — 走行中にできるだけ早く充電したいという状況です。このシナリオは、人々の頭の中に深く刻み込まれています — 規制機関や自動車産業に従事する人であってもです。

しかし、現実には、すでに電力インフラは自宅にあります — コンセントです。夜間や仕事中など、自動車を長時間駐車させるときは、比較的小さな設備容量で充電することができます。電気自動車を高圧で素早く充電する必要があるケースはめったにありません。ユビトリシティが個人の環境で充電することに注力する理由はまさにこの点にあります。ガレージや職場で充電できなくても、街路で充電できるのです。

ユビトリシティは、1日あたり22〜23時間という自動車の平均駐車時間を簡単に充電時間へと変えることができます。これに関連していくつかの動きがありますが、個人が所有する自動車を自宅のガレージでコンセントにつなぐのがもっとも簡単です。しかし、この場合、カバーされるのは自動車所有者の50%以下です。残りの人たちにとって、問題はもっと複雑です。例えば集合住宅に住んでるような人たちです。そこでは、複雑でややこしい規制が充電ポイントの導入を極端に難しくしています。

日中にアドホック充電の需要がないため、夜間、住宅街の通りに駐車している人たちには、ユビトリシティが提供するもの以外に賢明な解決策がまったくないのです。

ここでユビトリシティの技術が役割を果たします。私たちは、いつもできるかぎり既存のインフラを利用して、ほんの少しのアップグレードで充電ポイントをつくります。例えば、街灯のといったものです。

明確にしておきたいのですが、ユビトリシティの技術は街灯をアドホック充電ポイントへと変えることを目的にしているわけではありません。自然発生する「早く充電しなければ」シナリオに対応するには、現状の設備容量ではあまりにも小さいのです。私たちは、夜間に街路に駐車している個人に対して、経済的に成り立つ選択肢を提供したいのです。メンテナンスコストは請求システムを通じてユーザーに課金されますが、その代わりにユーザーは自身の契約している電力を選ぶことができます。

いまだに電気自動車が立ち往生するのを心配する人たちがいるので、高圧のアドホック充電ポイントに対して公的な財政支援や多くの投資がなされていることは、良いことだと思います。しかし、高圧の充電ステーションは電力系統のアップグレードが必要になるため、軽く数十万ユーロがかかってしまい、それは電気自動車の充電にも多額のお金がかかることになってしまいます。将来的に急速充電は高くなり、普通充電は安くなることが、すでに明らかになっています。

—— どういった規制がユビトリシティ、また、全般的なグリーンモビリティへの転換を妨げているとお考えですか?

規制の問題を比喩で説明させて下さい。固定電話の世界にいることを想像して下さい。あなたは電話ボックスに多額の投資をしていますが、ユーザーが1回通話するのに20セントがかかります。そこで、あなたは新たな発明である携帯電話を導入したくなりました。関連する法律は「電話ボックス法」と呼ばれていて、この法律は電話を「コインスロットが付いたコミュニケーション機器」と定義しています。あなたの発明である携帯電話は、法律の定義によれば電話ではない(!)ので、大変困ったことになってしまいます。

おもしろく聞こえるかもしれませんが、私たちにとってはまったくおもしろくありません。まったく異なる使用事例を念頭に置いた規制によってイノベーションが殺されてしまうことが多々あります。

ドイツの法律での充電(‘Ladesäulenverordnung’)は、新たな技術が必要とされることを想定することなく、明らかにガソリンスタンドを念頭に置いています。ユビトリシティは、充電の問題に対してネットワークの視点だけでなく、モバイルユーザーの視点、つまり自動車の視点に立って取り組んでいます。私たちは、電話ボックスに賭けているのではなく、モバイルインフラに賭けているのです。

自動車は、すでに充電ポイントに組み込まれている技術の多くを備えています — 請求、コミュニケーション、支払い許可などです。私たちは、それらの技術すべてを複製する必要はありません。固定インフラから可能なかぎりシンプルに離脱して、自動車に必要な技術を簡単に追加するというのが、ユビトリシティの考え方です。

長く激しい戦いの結果、小規模な設備容量の場合、充電ポイントはスーパースマートである必要はない、という規制の例外を獲得することができました。通常の定義では、充電ポイントはすべての高価な技術を備えなければならないので、携帯電話の概念を応用して定義を解放することができたのです。また、ここでは、必要な技術が自動車の中に収まるとは誰も思い浮かべていませんでした。

データの計測と商業的な処理に関して、ユビトリシティだけでなく、多くの他社が深刻なトラブルにさらされるリスクを抱えています。私たちはドイツで10年以上かけてスマートメーターの導入に取り組んできましたが、法律は細部の細部まで融通が利きません。そのため、今日切迫して必要とされている技術を取り入れる余地がまったくないのです。例えば、自動車の蓄電池を系統安定化のためにインテリジェントな需要管理に応用するといったことです。これは自動車の所有者にも経済的なメリットを生み出すはずなのですが。

基本的に、既存の系統インフラで数万台の電気自動車を充電することに問題はないのです。しかし、もしすべての自動車がやみくもに充電しはじめるとまずいことになります — このプロセスはインテリジェントに調整されなければなりません。しかし、極度に複雑な規制が計測要件を覆っているので、今日これを実現することは実質的に不可能です。これはユビトリシティだけの問題ではなく、他の多くの革新的なビジネスモデルにとっても同様の問題です。

—— 充電に必要な技術が車体に組み込まれてしまったら、ユビトリシティは無駄になってしまうのでしょうか?

ユビトリシティはケーブルやメーター、ソケットなどを提供しているため、一見して、多くの人たちが私たちのビジネスモデルをハードウェアに関するものと考えがちです。しかし、以前はそれが手に入らなかったため、私たちが開発しなければならなかったのです。

ユビトリシティがめざしているのは、自宅の電力プロバイダーを選択できるのと同じように、自動車の電力プロバイダーを選択できるようにすることです。夜中の 1:00 〜 3:00 といった、風力の発電量が大きく、需要が少ない時間帯でのみ、消費者(この場合は自動車)が電力を消費するということを理解すれば、電力供給者は、はるかに安く電力を売ることができます。そう考えると、需要を調整する選択肢がない住宅と自動車の電力価格がなぜ同じでなければならないのでしょうか。

基本的に、ユビトリシティはエネルギー分野のプロセスイノベーションを推し進めています。自動車は、ひとつの配電ネットワークから別の配電ネットワークへと移動するため、電力を契約することができないといった現状を未来の人々が聞いたら、失笑するかもしれません。従来の電力契約は、特定の場所の特定のメーターに紐付いています。

私たちは、この問題をデジタル化と可視化で解決できることを示さなければなりません。そのため、ユビトリシティのビジネスモデルは、大規模なデータプラットフォームを構築し、データを活かしたモバイル電力のような新しいエネルギーサービスを可能にすることに本質があります。メーターがケーブルの中にあるのか、車体の中にあるのかは問題ではなく、完全にバーチャルになることも考えられます。ユビトリシティは、本質的にはソフトウェア企業なのです。

もちろん、現在、ハードウェアのインフラを普及させることが開発の中心的な役割を担っています。しかし、データ処理とモバイル電力が目的であることから、どこかの時点でハードウェアのインフラは重要でなくなるでしょう。私たちは、モバイル電力プロバイダーがサービスを提供することができるプラットフォームなのです。

—— ユビトリシティの次のマイルストーンは何でしょうか?

ホンダの参画は、私たちにとってすばらしいマイルストーンになりました。今年、私たちは2つのマイルストーンを迎えます。

ひとつは、ロンドンでの数年にわたる成功にもとづいて、パイロットプロジェクトをベルリンで展開します。もうひとつは、昨年私たちが革新的な価格を獲得したニューヨークでの展開です。小規模なパイロットプロジェクトで、私たちの技術が機能するのは欧州だけではないということを示したいと考えています。

来年、投資家である EDF との協力のもと、私たちは街灯の技術をフランスで普及させはじめたいと考えています。

—— スタートアップが成功するには何が必要でしょうか?ドイツは適切な環境を提供していますか?

ドイツでスタートアップを設立することはもはや難しいことではありませんが、成長させることは依然として難しい部分です。現在、私たちにはきわめて強力な初期投資家やエンジェル投資家がいる状況にあり、いったんそれなりの規模になれば、資金を集めることはそれほど難しくありません。しかし、中間期での成長に対するファイナンスは難しくなります。

ドイツ、一般的に欧州では、大きく考えることを可能にする規模でファイナンスを組成することも難しくなっています。米国と比べて不利であることは明らかで、米国では「あるビジネスモデル、特にプラットフォームは、強力なプル効果を生み出すクリティカルなユーザー数のもとでしか機能しません」となります。このようなクリティカルな規模に達するには、ときに数年にわたる巨大な投資が必要になります。輸送分野の Uber や、小売の Amazon を思い浮かべて下さい。

単純に、すでにある資金を投資する対象となる意欲、もしくは必要なマインドセットを見つけることができないのです。ドイツでは、人々は安全なビジネスにできるだけ小額の投資をして、できるだけ早くブレイクに到達したいと考えています。

それでも、政府は問題を理解していて、なにかしら対策を取ろうとしています。通常より少し時間がかかったとしても、私たちは適切な軌道にいます。問題に対してまず理論的なレベルでアプローチしようとする私たちのメンタリティが現れているのだと、私は思います。

また、既存の家族所有の中小企業の動きも興味深いと思います。そうした企業の多くが、より小規模なパートナーや初期段階の投資家たちと協力することで、それがなければアクセスできなかったイノベーションのポテンシャルを開花させることができると気づきつつあります。いまや、巨大産業の企業でさえ、初期投資家のフィールドに参入する価値があることに気づきつつあります。

インタビュー:ソーレン・アメラング(Sören Amelang)Clean Energy Wire特派員

元記事:Clean Energy Wire “Mobility start-up ubitricity wants to revolutionise e-car charging” by Sören Amelang, Mar 20, 2019. ライセンス:“Creative Commons Attribution 4.0 International Licence (CC BY 4.0)” ISEPによる翻訳