気候変動による絶滅に怒れる大人たち

2019年7月4日

子供たちの登校拒否をきっかけに、温暖化対策の強化を求める動きが世界的な広がりをもちつつある。彼らの行動は、どのような影響を生み出しているのだろうか。

子供たちだけでなく

今、世界中で、子供たちが金曜日に登校拒否をして温暖化対策の強化を求める街頭デモに参加する Fridays for Future(未来のための金曜日)が旋風を巻き起こしている。3月15日の金曜日には、125ヵ国で160万人の子供や若者たちが学校をサボった。同じく5月24日の金曜日には、131ヵ国の1,851の都市で100万人以上の子供たちが街頭などで温暖化対策の強化を大人たちに求めた。これに影響を受けて、あるいは同時発生的に、大人たちも、Scientists for Future(未来のための科学者)、Parents for Future(未来のためのお父さんお母さん)、Grandparents for Future(未来のためのおじいちゃんおばあちゃん)などを結成している。

オックスフォード・サーカスでの行動 – Photo by Kevin Grieve

その中でも、一番、目立っているのが Extinction Rebellion(略称XR)だろう。「絶滅への反乱」と訳せば良いのだろうか。XRは、英国で2018年11月に100名ほどの科学者、法学者、宗教者などによって設立された。Fridays for Futureのきっかけを作ったスウェーデンの16歳の高校生 Greta Thunberg(グレタ・トゥンベリ)と同様に、政府による気候変動政策の強化を要求しており、現在は国際的かつ組織的に拡大している。

2019年3月9日、約400人のXRのメンバーは日本の永田町にあたるロンドンのダウニング街10番地で「血の中の子供たち」と名付けたデモを行い、失われようとしている子供たちの命を示すために、赤い血のような色の液体を道路に流した。

2019年4月15日から10日間は、英国だけでなく世界中で集中行動が行われた。ロンドンでは、議会前広場やウォータールー橋、オックスフォード・サーカスといった街の中心の一部を封鎖した。また、手足を接着剤で道路や建物の壁に付けたり、電車の屋根に登ったりして、少なくともロンドンだけで1,100人以上(!)のXRメンバーが逮捕された。同時期に、ニューヨークでは62人が逮捕され、同様のアクションは、オーストラリア、ドイツ、トルコ、インド、デンマーク、カナダでも行われた。

彼らの要求と戦略

彼の主な要求は、(1)政府は、気候変動の重大性や対策の緊急性に関する真実を語る、(2)政府は、2025年までに炭素排出量をゼロにするための対策をとる、(3)温暖化政策の策定に市民が直接的に参加できる仕組みを作る、の3つである。また、彼らの戦略は、(1)非暴力を貫く、(2)一般市民やメディアに注目されて政治的なインパクトを持たせるために警察や機動隊に積極的に逮捕される、という2つだ。

これらは、ニューヨークのウォール・ストリート占拠運動、ガンジーの独立運動、マーチンルーサーキングなどの草の根運動などからインスピレーションを得ている。とにかく、非暴力と行動の二つに力点を置いている。

これらの非常に練られた要求や戦略は、日本で長く温暖化問題に関わってきた研究者としてどれも興味深い。日本では、このような具体的発想や大胆かつ緻密な戦略がほとんどなかったからだ。例えば、3番目の要求は、利害関係者と政治家だけが政策を決めている現状に対する不満から生じており、まさに日本も同じ状況である。すなわち、政治家と官僚と業界の利害関係者が密室の中ですべて決めてしまうことに対する反発だ。また、3番目の要求は、実際に実を結んでおり、5月1日、英国議会は Climate Emergency Declaration(気候危機宣言)を超党派で採択した。

Disruption(破壊)

彼らのもう一つのキーワードは、破壊や断絶を意味する “Disruption” だろう。もちろん、彼らは、モノは壊さない。しかし、道路を占拠したり、電車を止めたりすることは、いわゆる社会的秩序の破壊と言えなくもない。それに対する批判もたくさんある。それも大きな事なのだが、より重要なのは、私たちの心の中にある “Comfort zone(快適な場所)” からの断絶を目的としていることだろう。言い換えれば、先進国に住む多くの人がぬくぬくと生きている閉じられた空間と、気候変動で文字通り壊れつつある現実の世界との間にある壁を破壊しようとしている。

このようなXRは、日本でどう受け止められるだろうか。かつては、日本でも、街頭に多くの人が繰り出して政府や企業に対峙するような運動が多くあった。それに対しては、例えば1960年代の全共闘運動の場合、運動に参加した学生に暴力学生というレッテルを貼るメディアが少なくなかった。

ただ、今回は左も右もない。すなわちイデオロギーはあまり関係ない。暴力もない。小学生も中学生もおじいちゃんもおばあちゃんも参加している。かなり昔とは雰囲気や状況が違う。

XRのメンバーの一人に Farhana Yamin(ファハナ・ヤミン) という著名な国際法学者がいる。彼女は、温暖化対策の国際交渉で途上国側の意見のまとめ役を長く務め、理知的な人柄で知られている。その彼女が、ロンドンにある国際石油会社シェルの建物の玄関の地面に、接着剤で両手を貼り付けた。何が彼女をそうさせたのかに、ぜひ思いをはせてほしい。

WEBRONZA「気候変動による絶滅に怒れる大人たち(2019年5月24日)」より改稿

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東京生まれ。東北大学東北アジア研究センター・同環境科学研究科教授。東京大学農学系研究科修士課程修了(農学修士)、インシアード(INSEAD)修了(経営学修士)、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了(学術博士)。京都大学経済研究所客員助教授などを経て現職。2010年〜2012年は(公財)地球環境戦略研究機関(IGES)気候変動グループ・ディレクターも兼務。著書に、『グリーン・ニューディール: 世界を動かすガバニング・アジェンダ』(岩波新書、2021年)、『脱「原発・温暖化」の経済学 』(共著、中央経済社、2018年)、『クライメート・ジャスティス:温暖化と国際交渉の政治・経済・哲学』(日本評論社、2015年)、『地球温暖化:ほぼすべての質問に答えます!』(岩波書店、2009年)など。

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