複合危機をどう乗り越えるか

地球規模での新型コロナウイルスの感染爆発、いわゆるパンデミックがますます広がっている。日本でも都市封鎖に近いかたちで営業や外出の自粛を要請する緊急事態宣言が発令されたが、この先の展開は見通せない状況だ。

この三カ月間、新型コロナウイルス危機の渦中にあって、九年前の東京電力福島第一原発事故直後のことが否応なく想起された。当たり前の「日常」が突然失われ、終わりの見えない「非日常」が新しい現実となる。固定化していた日本社会の秩序や慣習、通念などが、おもちゃ箱をひっくり返したように激変した数年を経て、「3.11後」はそれ以前とは異なる新しい現実・社会・政治となった。

今、世界レベルで経験している新型コロナウイルス危機後(コロナ後)に、どのような社会を再構築してゆくのかを構想するためにも、グリーン・ニューディールの動きを眺めておくことは意味があるのではないか。

欧米で沸き起こるグリーン・ニューディール

米国では、2018年11月に民主党のアレクサンドリア・オカシオ=コルテス連邦下院議員とエド・マーキー連邦上院議員が「グリーン・ニューディール」を起草した。昨年2月7日に「10年以内に炭素排出をゼロ、100%再生可能エネルギーに移行」を目指す下院決議案を発表した[1]。現在進行中のアメリカ大統領選挙でも、グリーン・ニューディール政策は焦点の一つとなっている。

[1] Ocasio-Cortez, Alexandria (February 12, 2019).“H.Res.109 – 116th Congress (2019-2020) : Recognizing the duty of the Federal Government to create a Green New Deal”

欧州でも、昨年12月に発足した欧州連合(EU)の新体制(フォン・デア・ライエン委員長)のもとで、2050年までに炭素中立を目指す「欧州グリーンディール」を優先課題の筆頭に位置付けている[2]

[2] European Commission “The European Green Deal” COM (2019) 640 (2019/12/11)

背景には気候変動への危機感がある。EUが2019年秋に行なった世論調査では、気候変動への懸念が年々高まっており、経済やテロを上回り移民に次ぐ2番目となっている(移民への懸念は下がってきている)。米国でも民主党支持者の九割が気候変動への懸念を表明している(ただし共和党支持者では5割以下と割れている)。こうした危機感を象徴するのが、2018年8月に「気候のための学校ストライキ」という看板を掲げ、たった一人でデモを始めた当時15歳だったスウェーデンのグレタ・トゥーンベリだ。その後、彼女に触発され賛同した若者を中心とする人々が「未来のための金曜日」という運動を立ち上げ、世界中で数百万人規模の同時デモも催されるなど社会現象となった。

今年末に英国グラスゴーで開催予定だった気候変動枠組条約締約国会議(COP26)は来年への延期が決まったが、その際にパトリシア・エスピノーサ国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)事務局長は「新型コロナウイルスは今日の人類が直面している最も緊急の脅威だが、気候変動問題は人類が長期的に直面している最大の脅威であることを忘れてはならない」と述べた[3]

[3] 英国政府からのCOP26延期を知らせるプレスリリース(2020年4月1日)

昨年、気候変動の主要因である大気中の二酸化炭素(CO2)濃度が、過去最高値の415ppmを記録した(ハワイ・マウナロア観測所)。世界気象機関(WMO)は、温室効果ガスの影響で過去五年間の世界の平均気温は観測史上最も暑く、昨年は史上2番目の暑さと報告した。オーストラリア全土に広がる空前の山火事で大量に焼け出されるカンガルーやコアラの映像に世界中の人々が心を痛めた。日本でも首都圏を直撃した大型台風被害などが続いたことから、気候変動の影響を実感する市民が8割を超えている[4]

[4] グリーンピース・ジャパン調査(2019年9月18日)

とはいえ、欧州と米国で沸き起こるグリーン・ニューディールへの期待は、気候変動への危機感だけではない。その根底にあるこの10年の変化を振り返る。

グリーン・ニューディール小史

グリーン・ニューディールの起源は、2008年7月20日に、当時進行中だった金融危機(リーマンショック)と原油価格高騰と同時に気候変動にも対処する提案として、英国のグループが発表した報告だ[5]。かつてフランクリン・ルーズベルト米大統領がウォール街大暴落後の世界恐慌を克服するために行なったニューディール政策に由来していることは、言うまでもない。

[5] New Economic Foundation “A GREEN NEW DEAL”(2008/7/20)

直後に、国連環境計画(UNEP)が「グローバル・グリーン・ニューディール」として取り上げ、当選したばかりのバラク・オバマ米大統領、中国、そして日本も後に続くなど、リーマンショックで痛手を受けた世界中で一種の「ブーム」となった。

ところが、この時のブームは現実の効果が見えないまま、金融危機の安定化と原油価格の沈静化とともに、消えていった。「早すぎたブーム」だったからだ。2009年のコペンハーゲン気候サミット(COP15)と2015年のパリ気候サミット(COP21)の違いにも重なる。

COP15の直前、アメリカの大統領は、化石燃料業界に近いジョージ・W・ブッシュ政権に代わって、気候変動対策に意欲を燃やすオバマ政権となった。日本も経団連に近い自民党政権から気候変動対策に熱心な鳩山由紀夫民主党政権に代わった。気候変動対策に最も後ろ向きの二大国の政治が大きく替わり、環境先進国のデンマークがホスト国として開催されたCOP15では、京都議定書の次の枠組みが合意されると誰もが期待していたが、裏切られた。

ところがCOP21は、レイムダックのオバマ米政権と、気候変動対策に消極的な安倍晋三自民党政権のもとで開催されたにもかかわらず、画期的なパリ協定が合意された。成功要因は、解決策としての再生可能エネルギーのリアリティだ。COP15の2009年では、再生可能エネルギーは気候変動やエネルギー対策の選択肢の一つでしかなく、気候変動は「環境vs.経済」の対立に陥っていた。その後、COP21の2015年には、再生可能エネルギーへの移行が最大かつ現実的な気候変動対策という見方、つまり「環境+経済+エネルギー」という構図に様変わりした。グローバル企業がこぞって参加しつつある「RE100」の活動が2014年に始まったことも、それを裏付けている[6]

[6] The Climate Groupが2014年に立ち上げた国際ビジネスイニシアチブで、事業運営のエネルギーを再生可能エネルギー100%で賄うことを目標とし「Renewable Energy 100%」の頭文字からRE100と呼ぶ。

表1. 2008年のグリーン・ニューディールと今回(2018年〜)の違い

この10年の大転換

あらためて、この10年を振り返ると、私たちは今、大変革のまっただ中にいることが分かる。以下、グリーン・ニューディールと直接関係する3つの分野 ― 電力エネルギー、輸送交通、共有経済 ― を概観する。

電力エネルギー分野

電力分野では、風力発電と太陽光発電の普及拡大とコストダウンが著しい。2009年からの10年で世界全体の風力発電は160GW(ギガワット、百万キロワット)から650GWへと4倍に拡大し、コストは七割下がった[7](図1)。太陽光発電は、23GWから630GWへ27倍に拡大し、コストは9割下がっている。風力発電と太陽光発電は、今や世界の多くの国や地域で石炭火力を下回るコストになっただけでなく、今後も下がってゆく傾向だ。歴史的な積み重ねもあるが、やはりドイツが2000年に導入した固定価格買取制度(FIT)という買電価格を保証する市場拡大策が中国を始めとする世界各国に広がったことが大きい。FITが市場拡大をもたらし、それが技術学習効果による性能向上とコストダウンという好循環を生み出した。

[7] Lazard Levelized Cost of Energy Analysis (LCOE 13.0) (2019年11月)

図1. 風力、太陽光、原発の世界全体の発電設備量

化石燃料や原発をエネルギーの基軸として見ていた「主流派」の専門家・行政・企業・政治家は、10年前は太陽光発電と風力発電を「クリーンだが高コストで取るに足らないエネルギー」と見ていた。それが今や、そうしたエネルギー主流派の多くが「クリーンで無尽蔵で純国産でしかも最も安いエネルギー源」という認識に変わった。

そしてついに、化石燃料産業の崩壊さえ予見されはじめた。昨年9月、英国の金融専門シンクタンクが「今後10年ほどで数百兆円規模の化石燃料市場の崩壊が起きる」と報告した[8]。太陽光と風力、そして蓄電池の継続的なコスト低下によって、2030年代前半までに既存の化石燃料発電のコストを下回り、その大半が「座礁資産」、つまり回収不能費用になると指摘した(図2)。加えて、社会的責任(ESG)投資の観点から、化石燃料や原発からの投資引上げ(ダイベストメント)の動きも拡大しており、いよいよ化石燃料の時代も終わりが見えてきた。

[8] Carbon Tracker “The Trillion Dollar Energy Windfall”(2019/9/5)

図2. 再エネと化石燃料発電のコスト推移の見通し

産業構造も変わりつつある。ABBはいち早く1999年に原発と火力発電部門を売却し、シーメンス社も2011年に原発部門を売却し、今年9月に火力発電部門を分離・上場させる。GE社も日立製作所と合弁の原発部門は維持しているものの、主力は風力や太陽光へと舵を切っている。ドイツの巨大エネルギー会社エーオンとRWEは、生き残りをかけて2018年に再生可能エネルギーを軸とする新会社の設立やM&Aによる企業再編を進めている。

太陽光発電と風力発電の驚異的なコスト低下によって、10年前には予想さえできなかったことが現実化しつつある。太陽光発電と風力発電の「安い電力」の恩恵を他の分野(温熱、交通、産業、農業など)に活用するもので、「セクター・カップリング」と呼ばれる。電気自動車の電源に活用するのは分かりやすい例だろう。地域熱供給先進国のデンマークでは、風力発電の余剰電力を温水に「蓄熱」し、また水素を介して「風力ガス」(メタンガス)を作り、化石由来の天然ガスに置き換える構想も具体化しつつある。

輸送交通分野

電気自動車(EV)も年間販売量がおよそ2,000台(2008年)から200万台(2018年)へ10年で千倍増し、反比例してリチウムイオン蓄電池のコストも4分の1に下がっている[9](図3)。技術学習効果によって今後も性能改善とコスト低下を見込めるこれら3つの電力技術(太陽光発電、風力発電、蓄電池)が、今後の電力とエネルギー、そして輸送分野の大転換で中心的な役割を担うことが、もっとも確実な将来像となった。

[9] 電気自動車(プラグインハイブリッドを含む)統計はIEA “Global EV Outlook 2019”(2019/5)による。蓄電池コストはR. Bucher etal.,“Live test results of the joint operation of a 12.5 MW battery and a pumped-hydro plant” HYDRO2018 conference paper (Oct.2018)

図3. リチウム電池コストと導入規模見通し

輸送分野は、電動化するだけではない。「今後10年でガソリン車とディーゼル車は世界で1台も売れなくなる」という2017年のスタンフォード大学報告は世界に衝撃を与えた[10]。同報告では、電動化に加えて並行して急速に進化しつつある自動運転化とライドシェア化が進むことで、そもそも自家用車を所有しない「移動のサービス化」(MaaS ; Mobility as a Service)が進むと予測している(図4)。ライドシェアとは、UberやLyftなどに代表される自家用車の空き時間を利用した「移動サービス」だ。

[10] Tony Seba, “Rethinking Transportation 2020-2030”, Rethink X(May 2017)

図4. クルマ市場の将来予測

これら電動化と自動運転化とライドシェア化が統合することで、化石燃料車を所有する場合に比べて移動コストは一桁下がり、人々はこぞってMaaSに移行するという予測だ。仮にMaasに移行すると、現在は平均数%しかないクルマの稼働率が一桁高くなり、渋滞もなく街中の駐車場なども不要になる。また、1社で年間数百~一千万台もの「売り切り販売」をしている巨大自動車産業や、自動車燃料が原油需要の3割を占める石油産業は大崩壊する可能性があると指摘する。政府も税収や都市計画など公共政策を根底から見直す必要に迫られるだろう。

共有経済分野

インターネットなど情報通信(ICT)分野や人工知能(AI)、モノのインターネット(IoT)、ビッグデータなどの進展は、引き続き著しい。Apple社がiPhone(いわゆるスマホ)を発表した2007年をエポックとして、世界中に広がったソーシャルメディアやYouTube、オンライン地図アプリなど、この10年ほどで、産業や経済のあり方はもちろん、私たちの暮らしも一変した。

それらの進展で財やサービスの生産と流通の効率が極限まで向上し、限界費用[11]が急落したことで、前述したUberや自宅の「空き」を利用した宿泊サービスAirbnbなどの財やサービスにとどまらず、ウィキペディアや無料の大学講義など知識の共有、調理法などノウハウ共有にも広がった「共有型経済」(シェアリング・エコノミー)と呼ばれる新しい現象が生み出された[12]

[11]「限界費用」とは、生産量を一単位だけ増加させたときの総費用の増分を言う。

[12] ジェレミー・リフキン『限界費用ゼロ社会〈モノのインターネット〉と共有型経済の台頭』NHK出版(2015)及び同氏による『グローバル・グリーン・ニューディール』同(2020)

太陽光発電と風力発電も、同じく限界費用ゼロである。太陽から請求書は送られてこないし、売電すれば収入にもなる。ICTを用いて、分散型の太陽光や蓄電池を集合的に一つの発電所とみなす仮想発電所(VPP)や需要応答(DR)も徐々に始まりつつある[13]

[13] 大規模な仮想発電所(VPP)や需要応答(DR)の事例では、例えば南オーストラリア州でテスラなど9万戸の家庭に蓄電池と太陽光を設置する事業が2019年から始まっている。

限界費用ゼロで有形・無形の財やサービス、知識、ノウハウなどを共有するかたちは、オープンで環境負荷の低い資源節約型グリーン・ニューディールでも不可欠な要素となるだけでなく、従来の資本主義のあり方を根底から変えようとしている。

他関連分野の重要な進展

以上のほか、グリーン・ニューディールに関連した重要な進展も簡単に触れておく。

暖房や給湯など温熱分野では地域熱供給の復権だ。デンマークが理論と実践で世界をリードして2014年に「第四世代地域熱供給」として概念整理し、2050年までに冷暖房分野でEUの炭素8割減を目指す温熱ロードマップ欧州(2016年~)の研究グループの中心を担っている[14]。第四世代地域熱供給とは熱効率が高く太陽熱や風力などの再生可能エネルギーや産業排熱などを統合した低炭素の地域熱供給を言う。

[14] 温熱ロードマップ欧州(Heat Roadmap Europe, HRE)

需要側効率改善も重要な要素だ。米国では総合エネルギー効率[15]が1900年の2.5%から2010年の14%に5倍も向上したものの、未だに86%がロスである[16]。これをIoTも用いた需要側効率改善で60%へと改善できるという。

[15] 総合エネルギー効率とは、投入されたエネルギーのうち実際の有用な仕事量に変換された割合を言う。

[16] John A. Skip Laitner et al., The Long-Term Energy Efficiency Potential: What the Evidence Suggests (Washington, DC: American Council for an Energy-Efficient Economy, 2012)

需要側効率改善のうち、住宅は重要な要素を占める。EUでは、2021年までに全ての新築住宅・建築物を「ゼロエネルギー建築物」(ZEB)とする「EPBD指令」が施行されている。米国カリフォルニア州も2020年から太陽光発電の設置義務を含む「正味ゼロエネルギー」(ZNE規制)を導入し、2030年までに5割の既存住宅に広げるとしている。とりわけ既存住宅への断熱気密改修への投資は、住環境の改善と社会全体の効率改善に加えて、大きな投資と雇用を生む。

人々にパワーを

1971年3月にジョン・レノンがリリースした「パワー・トゥー・ザ・ピープル」。おりしも、ビートルズに象徴される「ヒッピー文化」(対抗的政治文化)の時代に、反戦平和運動とともに反原発運動も世界的に盛り上がっていた。当時、風力発電や太陽光発電など自然エネルギーは反原発運動の掲げる夢と象徴であり、いわば「ヒッピーのエネルギー」だった。ところが今や、風力発電や太陽光発電がエネルギーの本流となった。大手電力会社から巨大資本まで、こぞって再生可能エネルギー分野に参入し、巨大な洋上風力発電やメガソーラーなどへの巨額投資事業が世界中でますます急拡大している。中には、地域社会との紛争に発展している事例も少なくない。

こうして時代がひと巡りするなかで、再び「パワー・トゥー・ザ・ピープル」の重要性が強調されている。英語の「パワー」は、権力と電力(エネルギー)という二つの意味を持つ。再生可能エネルギーが、本来的に地域分散型であることに加えて、1970年代からのデンマークの風力発電組合などボトムアップで育んできた長い歴史もある。用いられる地域資源(土地、景観、自然環境など)に地域社会としての資源管理や合意形成、すなわちガバナンスが不可欠である。デンマークでは、今なお風力発電に対して、地域社会から最低15%の出資を義務付けている。これらを踏まえて、世界風力エネルギー協会は「コミュニティパワー三原則」(地域所有、地域での合意形成、地域への便益還元)を2011年に起草し社会的に提案している[17]

[17] 世界風力エネルギー協会(WWEA)「コミュニティパワー三原則」(2011年5月23日)

1990年代からの規制緩和と民営化・市場化の潮流のなかで、とりわけエネルギー部門の民営化は著しく、北欧やドイツでも地方公営のエネルギー公社の民営化が進んできた。しかし近年、それを問い直す「再公営化」の動きが起きている。先駆者は一九九七年に住民自ら送電網を買い取ったドイツ南部のシェーナウ電力だが、その後、900の地方電力のうちハンブルグ電力(2014年再公営化)など287ものエネルギー公社が「再公営化」されている[18]

[18] ソーレン・ベッカー「私たちの送電網 ドイツにおけるエネルギーの再公営化動向」(「再公営化という選択」TNI 2019年1月3日)

これは、地方政府と一部の企業だけで意思決定してきた従来のやり方が不適切であり、地域における意思決定と統治のあり方は、分散型でオープン、水平方向でなければならないという共通理解が高まっていることを意味する。この間のICTの急速な進化によって、私企業による独占的統治のリスクが再認識されると同時に、こうした地域の中での新しいオープンな意思決定と統治のかたちも技術的に可能になってきている。

とくに、送電網を軸に地域独占として進められてきた電力事業だが、その形態だけでなく所有者も分散型である再生可能エネルギーが急速に広がってゆく中で、送配電の所有やガバナンス、規制・ルール、その運用について、透明かつ公正なあり方が求められている。

「コロナ後」のグリーン・ニューディールへ

冒頭の新型コロナウイルス危機に戻ると、世界中でほぼ同時に直面している危機であるため、日本の政治行政システムの機能不全とも言える対応の拙さが際立つ。数日で感染者が倍増する強力な感染力であるため、わずかな期間で爆発的に感染が広がってゆく。この急速な感染拡大に対して、検査や医療体制、国民への直接的な経済補償など矢継ぎ早に対応している韓国、台湾、ドイツなど諸外国に比べて、日本の対応は明らかに後手後手に回っている。日本は、官の慣性力と行き過ぎた形式主義、そして政治による歪みや不作為で機能不全に陥っている。

時間スケールは異なるものの、ここ10年の再生可能エネルギーの急激な普及と役割の変化に対応できていない日本の政治・行政・社会とも通底している。

新型コロナウイルスに関して時々刻々増大してゆく最新の知識や技術を使いこなせない政治行政や既存組織の硬直性とともに、人々の暮らしはおろか生命と健康さえ守ろうとしない今の政治態度を、私たちは心に深く刻む必要がある。直面する危機にさえまともに対処できない政治行政には、気候変動という長期的な危機にも、すでに起きてしまった原発事故という危機や後処理にも対処できるはずがないからだ。

今の危機をくぐり抜けてたどり着く「コロナ後」の社会は、残念ながら人々の暮らしも経済も大きく毀損したところからの再建となるだろう。それを立て直す上で、グリーン・ニューディールは重要な役割を果たしうる。米国では、経済学者や環境学者など有志が今年3月末に連邦議会宛の公開書簡「コロナ後の経済再建のための緑の刺激策」を公表し、パンデミック大恐慌からの経済再建・差し迫る気候危機・極端な経済格差への緊急対応を提言している[19]

[19] “A Green Stimulus to Rebuild Our Economy – An Open Letter and Call to Action to Members of Congress”(2020/3/23)

グリーン・ニューディールは、社会インフラの抜本的なアップデートとともに、それらの所有や統治、ガバナンスのあり方の見直しも要請している。田中信一郎は、日本の行政が部分最適を組織の論理とし、それを自民党と業界団体が擁護してきた弊害を指摘している[20]。私たちが今、目の当たりにしている、新型コロナウイルス危機に対する日本の政治行政の機能不全の本質だろう。前回のグリーン・ニューディールが環境省所管の単なる補助金事業に堕ちてしまった失敗もその一例だ。従来のエネルギー政策も、各業界の部分最適と利害調整が中心で、その弊害が大きい。

[20] 田中信一郎『政権交代が必要なのは、総理が嫌いだからじゃない』現代書館(2020年)

これからは「国民の幸福」を目標に据えて、その「全体最適」に向けて、各業界の部分最適や省庁の縦割り、官僚の慣性力を超える、政策と政策形成プロセスを再構築する必要がある。文明史的なエネルギー大転換に沿って提起されているグリーン・ニューディールは、軸となる分散型技術の活用とともに、オープンで水平・参加型の統治を可能とする民主主義の深化が求められるからだ。

オリジナル掲載:『世界』2020年6月号(岩波書店)