パンデミックによってラッシュアワーは公共交通の「究極の問題」へと変わる

2020年6月5日

ドイツ航空宇宙センター(DLR)・交通研究所の所長バーバラ・レンツ氏は、トラムやバス、地下鉄のピークタイムにソーシャルディスタンスをとることが、都市の公共交通に巨大な問題を生み出すことになると述べています。しかし、彼女は恒常的に人々がコロナウィルスへの感染拡大を恐れて公共交通の利用を思いとどまるようなことにはならないだろうと希望をもっています。

また、DLRの調査によって明らかになった自家用車利用の急激な上昇は、クリーンなモビリティへの転換に対する長期的な停滞というよりは、一時的な後退だろうと彼女は見ています。全体として、今回の危機は、私たちがどのように都市を移動するか、また、どのように自転車の利用を活性化するかについて再考する機会を提供しています。ただし、そうしたイニシアティブはまだまだ断片的なままであると、レンツ氏は述べます。


クリーンエナジーワイヤー:コロナ禍は持続可能な都市モビリティへの転換に対する後退であるのでしょうか、それとも、新しい機会を示しているのでしょうか?

バーバラ・レンツ:全般的には、遅延をもたらしていると思います。コロナ禍の前は、私たちは公共交通が、特に大都市において、モビリティ転換の背骨になっていくことに合意していました。しかし、悲しいことに、公共交通はコロナ禍によってもっとも打撃を受けてしまいました。

おかげさまで、コロナ禍の間でも気候変動対策やモビリティ転換の問題は忘れられていないという印象をもっています。あたなのようなジャーナリストがこのトピックについて話したいという事実から、パンデミックは転換を少し遅らせているだけで、大幅な停滞をもたらしているわけではないという希望をもつことができると感じます。

もちろん、いくつかのポジティブな側面もあります。コロナ禍は、交通量の減少によって生まれた新たな都市の空間を発見する機会を私たちに提供しています。私は、この閑静な時間のなかで、将来の暮らしやすい都市とはどういったものなのかについて、なにか学ぶことができればと期待しています。

コロナ禍は、平常時では決して短時間にできなかったことを可能にしています。ひとつ例をあげるとすれば、通りでの Car-Free Sundays[1]の増加です。このコンセプトは新しいものではなく、数年前からパリで実施されていて、ミュンヒェンでも昨年からはじまっています。もうひとつの例は、多くの都市の主要道路でのポップアップ自転車レーンです。コロナ禍以前のかたつむりのようなペースに比べれば、これらの取り組みの延長線上に真のモビリティ転換に向けた大きなステップが形成されていると言えます。

[1] 翻訳註:日曜日に自動車利用を控えるイベント

ただし、これらはポジティブな展開ですが、あまりにも断片的であるとも言えます。しっかりとしたマスタープランがないのです。私たちに必要なのは、都市全体もしくは、少なくとも街区全体で新しいモビリティを発展させる、よりシステマティックな動きです。そういったものの代わりに、私たちはあちこちで幼い子供の遊びを見ているような状況です。それらはかわいく見えますが、私たちはもっと大きなスケールの取り組みを必要としているのです。

−− 実際にどういった展開が考えられますか?

例えば、あちこちでわずかに進めるのではなく、適切なサイクリングネットワークが必要です。単独のポップアップレーンではなく、適切なポップアップネットワークが現実を前に進めます。私たちは、歩行者や自転車を増やすカギは本物のネットワークであるということを随分前から知っています。そして、悲しいことに、現在までにそれは実現していません。

ベルリンのポップアップ自転車レーン/写真:ADFC

−− 調査では、コロナ禍の間に自転車の人気が高まっていたことが明らかになっています。こうした進展は恒常的なものになるのでしょうか?

私は、都市内の短距離移動はこのまま続いていくと想像しています。自転車は個人の輸送モードなので、公共交通よりも「高い自由度」があります。このトレンドはコロナ禍以前からはじまっていて、いまも拡大しています。私たちの調査では、回答者の9%が新しい自転車の購入を検討していると答えています。彼らの半数は、電動自転車の購入を検討していて、それには2つの目的があります。電動自転車は、これまでサイクリングは大変だと考えていた人たちにも自転車の利用を可能にします。また、電動自転車であれば、長距離通勤・通学の選択肢にもなります。

−− 人々が感染を恐れることから、公共交通に対する需要は長期的に減っていくことになるのでしょうか?

その問いに答えるには、水晶玉をのぞき込まなければなりませんね。現在、私たちにわかっていることは、人々が自家用車や自転車の利用とは対照的に、公共交通を利用することにあまり快適さを感じていないということです。私たちは、これは恒常的な変化なのか、それとも一時的なものなのかを明らかにしようとしています。このトピックについて、数週間前に調査をおこない、この調査から自家用車の復活が明らかになりましたが、6〜8週間後に事態がある程度正常化した段階で2回目の調査をおこなう必要があります。その結果次第で、公共交通の快適さに対する感覚がこのまま続くのか、もしくは大幅に減っていくのか、もっと自信をもって答えることができるはずです。

興味深い点としては、公共交通を快適に感じていないことが、すべての公共交通のモードに同じレベルで影響を与えているわけではないということです。トラム、地下鉄、その他の都市鉄道システムは、非常に強く影響を受ける一方、人々は急速にバスに回帰しているようなのです。

−− バスやトラム、地下鉄でソーシャルディスタンスを実施する場合、公共交通は大幅に乗車人数を減らさなければなりません。また、感染が終息するには長い時間がかかります。

まさにその通りです。これは公共交通にとって究極の問題です。乗車人数は少なくともコロナ禍以前のレベルまで早く戻ってほしいところですが、人々はより物理的な距離をとらなければならないので、それは明らかに不可能です。この問題は、ピークタイムで特に先鋭化します。ラッシュアワーは、本当は私たちの問題であって、公共交通の問題ではないのです。みんなが同じ時間に職場や学校に行くときにだけ、深刻な問題になるのです。

−− この問題を解決するアイディアは何かあるのでしょうか?

いいえ、私はそのアイディアをもちあわせていません。いまのところ、この問題を克服する方法を知っている人は、どこにもいないのが現実です。もちろん、自動車や自動車を運転する人を増やして、既存のインフラを延長して、新しいラインをつくることはできます。しかし、これらのアプローチは迅速に問題を解決するものではありません。新しいバスや新しい鉄道ラインを短期間で発注することはできないのです。これらの方法は多大なコストもかかり、公共交通は現時点ですでに莫大な赤字を抱えています。短期的な選択肢としては、頻度を高めることしかありません。需要が集中する場所で、より短いインターバルで、より多くの車体を動かすということです。それによってピークタイムを引き伸ばすことができればいいのですが。

−− コロナ禍によってホームオフィスが増えたことが、長期的には混雑の緩和につながるのでしょうか? 危機が過ぎ去っても人々は自宅で仕事をすることを支持し続けるでしょうか?

ホームオフィスの利用を増やすことでターゲットを絞り、ピークタイムを減衰させることは、まさに密度を下げることに貢献するでしょう。私たちの調査では、労働者の1/4〜1/3は自宅で仕事をすることが可能であり、また、圧倒的にポジティブな意見が出されています。多くの人々が自宅で仕事をすることが可能であると、今回はじめて気づき、また、それが快適であるとわかり、ずっとではないにしても、より定期的な実践に向けて備えています。もしこれが大規模かつシステマティックに実行されるのであれば、それは非常に大きな進展となるでしょう。しかし、このアプローチは、企業や行政、その他の主体の間で調整が必要であり、それは決して簡単ではありません。

−− コロナウィルスの時代は、カーシェアリングやライドシェアリングのような新しいモビリティのフォーマットに終焉を告げると思いますか?

現時点では、シェアされるあらゆるモノゴトは、個別に利用するよりも「気持ちのよさ」が格段に低いのは事実です。しかし、2〜3ヶ月後も私たちがシェアリングのコンセプトに疑問をもっているのかどうか、明言することは不可能です。

−− モビリティに対するパンデミックの影響をやわらげる方法について、ドイツでの政治的討論の大部分が新車購入のインセンティブに集中しています。どういった代替案や追加案を推薦しますか?

間違いなく公共交通への大規模な財政支援が必要であり、これに疑問の余地はありません。問題は、使える資金は限られているということです。現在、公共交通に対する2つの選択肢が議論されています。ひとつは、年間利用料金ですべての公共交通を使えるようにするというもので、ここにはいくつかのシェアリングサービスも含まれます。もうひとつは、シンプルに公共交通を無料で使えるようにすることです。これは、国が公共交通の総コストを公的資金で支払うことを意味します。現時点で、ドイツの公共交通に対する補助金は、総コストの1/3以下に過ぎません。

しかし、それらの選択肢のいずれかが、どの程度モビリティ転換を前に進めるのか、はっきりしません。コロナ禍の1年前に、人々が公共交通へ支払う必要がなくなった場合、どういったことがおこるのか、私たちはモデルをつくって研究しました。自動車を使っている人の約10%が公共交通に切り替え、歩行者と自転車利用者も一定数が公共交通に切り替えるという結果でした。10%はあまり多くないと思えますが、これによってピークタイムの問題を悪化させてしまうでしょう。公共交通はピークタイムの問題に対応することができないため、1年前の時点でも大きな問題が投げかけられていました。ソーシャルディスタンスのために乗車人数を減らさなければならない現在ではなおさらです。繰り返しになりますが、本当の問題はピークタイムであり、公共交通は他のすべてに対応できます。本当の課題はピークタイムの需要をフラットにすることなのです。

インタビュー:ソーレン・アメラング(Sören Amelang)Clean Energy Wire記者

元記事:Clean Energy Wire “Pandemic turns rush hour into public transport’s “ultimate problem” – mobility researcher” by Sören Amelang, 20 May 2020. ライセンス:“Creative Commons Attribution 4.0 International Licence (CC BY 4.0)” ISEPによる翻訳

次の記事

「グリーンエネルギーバレー」数字で見るドイツのグリーンスタートアップシーン

前の記事

「名もなき生涯」と「バリー・ユアグロー」

Latest from インタビュー

Don't Miss