熱分野と交通分野の脱炭素化を巡る世界の潮流

2021年1月26日

パリ協定のもと気候危機に対応するためには温室効果ガス、特にCO2(二酸化炭素)の排出量を2050 年までに実質ゼロ(Net Zero)とすることが求められており、多くの国や自治体、企業や団体が2050 年までに CO2 排出量を実質ゼロにすることを宣言しています。

2019年9月の国連気候変動サミットで立ち上げられた「気候野心同盟(Climate Ambition Alliance)」で宣言している国は、日本の菅内閣総理大臣が「我が国は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と今年10月の国会での所信表明演説において宣言したことで121カ国となりました。

2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すためには、電力分野だけではなく熱分野や交通分野を含む最終エネルギー消費全体に対する施策が重要になってきます。

自然エネルギーは、電力分野において世界中で目覚ましい発展を遂げて来ましたが、熱分野や交通分野での自然エネルギーの普及は一部の国や地域に留まっており、世界的にもこれらの分野の省エネルギーや自然エネルギー普及を進めることが課題となっています。さらに電力分野と熱・交通分野を跨るセクターカップリングの技術やスマートエネルギーシステムにも注目が集まっています。

熱分野

2020年12月に発表されたIRENA(国際自然エネルギー機関)、IEA(国際エネルギー機関)およびREN21(21世紀のための自然エネルギー政策ネットワーク)の共同レポート ”Renewable Energy Policies in a Time of Transition: Heating and Cooling” では、最終エネルギー需要の約半分を占めると言われる熱分野(特に冷暖房)でのエネルギー転換のための自然エネルギー政策の在り方をまとめて提言しています。

熱分野(特に冷暖房)の脱炭素化に対する課題は、政策や支援により解決できる可能性があります。最初の課題として一般的に運転費用は自然エネルギーの方が低いにも関わらず、化石燃料と比べて自然エネルギー導入の初期費用が高いことがあります。そのための支援策として税額控除やローン、補助金などの金融的な支援のほか、導入目標を設定した上での導入の義務化などがあります。

さらなる課題として、ユーザにとって化石燃料の価格が自然エネルギーと比べて安くなっていることがあり、化石燃料への補助金がいまだに多くの国で存在します。そのため化石燃料の環境への影響などの外部性を如何に経済的に評価するかが問われています。その他、ユーザが自然エネルギーの優位性に気が付きづらいことや、信頼できるサプライチェーンの構築や必要なインフラの構築が必要となっています。

これらの課題を解決し、自然エネルギーへの転換を進めるために、以下の5つの方策が示されています。(1)自然エネルギーによる電化、(2) 自然エネルギーによるガス、(3)持続可能なバイオマス利用、(4)太陽熱の利用、(5)地熱の利用、などです。さらに、熱分野インフラの構築として自然エネルギーを大量に導入できる地域熱供給の重要性が指摘されています。現状の地域熱供給では、化石燃料が多く使われていますが、欧州(特に北欧やバルト三国など)では、地域熱供給への自然エネルギーの導入が進んでいます。

交通分野

REN21がFIA Foundationと共同で11月に発表したレポート ”Renewable Energy Pathways in Road Transport” では最終エネルギー需要の約3割を占める交通部門の中でその約7割の温室効果ガスを排出する道路輸送(自動車やトラックなど)に注目して2050年までの脱炭素化の道筋を示しています。

交通分野における自然エネルギーの割合は世界全体で3.7%しかなく、そのほとんどがバイオ燃料で、将来の主力となると考えられている自然エネルギー電気は0.3%しかありません。交通分野(特に道路輸送)での自然エネルギーの本格的な利用に向けては以下の様な提案がされています。

まず、エネルギーと交通システムの脱炭素化に関する国全体の長期ロードマップを定めること。そのためには長期な脱炭素化の政策目標と合わせて中期目標を明確に定める必要があります。これにより、選択すべき技術が明確になります。そして、その際の排出削減はライフサイクルで評価する必要があります。

さらに、エネルギーと交通セクターの連携を強化することを通じて、国や自治体などさまざまなレベルで自然エネルギー導入を進める必要があります。自然エネルギー政策と交通政策(交通量の削減、モーダルシフト、エネルギー効率化など)を統合した交通分野での自然エネルギー政策が必要になりますが、合わせて交通利用者のための施策やエネルギーシステム全体を統合するための仕組みも必要になります。

2050年に向けた交通分野での自然エネルギー普及の形態としては、電化(電気自動車など)、バイオ燃料、自然エネルギー由来の合成燃料、自然エネルギー由来の水素などがありますが、まずは電化(Electrification)が最も有望な選択肢となります。自然エネルギー由来の合成燃料や水素については、長期的なロードマップにもとづく導入が必要です。

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千葉県出身。環境エネルギー政策研究所理事/主席研究員。工学博士。東京工業大学においてエネルギー変換工学を研究し、学位取得後、製鉄会社研究員、ITコンサルタントなどを経て、持続可能なエネルギー社会の実現に向けて取り組む研究者・コンサルタントとして現在に至る。持続可能なエネルギー政策の指標化(エネルギー永続地帯)や長期シナリオ(2050年自然エネルギービジョン)の研究などに取り組みながら、自然エネルギー白書の編纂をおこなう。自然エネルギー普及のため、グリーン電力証書およびグリーン熱証書の事業化、市民出資事業や地域主導型の地域エネルギー事業の支援などにも取り組む。

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