資源不足の時代を終わらせるために Part 2 – 想像を絶するクリーンエネルギーの豊かさを手に入れる

クリーンエネルギーは、安価で豊富な化石燃料から高価で希少な再生可能エネルギーへの移行を意味すると考えられがちです。実際には、クリーンエネルギーによる変革は、私たちのエネルギー生産方法に根本的な変化をもたらすものであり、化石燃料のもとで資源不足のエピソードを歴史的に生み出してきた特定のエネルギーと労働の関係に革命をもたらすものです。

第1部では、鉱物資源の不足がクリーンエネルギーの普及を妨げるという懸念が、ほとんど根拠のないものであること、そしてそのリスクは存在するものの、正しい選択をすることで軽減・排除することができることをご紹介しました。今回の分析では、さらに踏み込んで、真の豊かさを生み出すためのクリーンエネルギーシステムのあり方を探ります。

最近のさまざまな研究で、世界のエネルギーシステムが根本的に変化していることが認識されつつあります。これらの研究では、化石燃料を使用するエネルギーシステムが、経済的要因と地質学的要因の組み合わせにより、一連の危機的状況に陥っていることが指摘されています。そのため、これらの研究の多くは、再生可能エネルギーシステムへの移行の重要性を認めています。しかし、再生可能エネルギーシステムが生み出す正味のエネルギー量は、現在の化石燃料システムよりもはるかに少なくなる可能性が高いことも指摘しています。つまり、文明は、資源の制約、経済の縮小、繁栄の概念の見直しなど、痛みをともなう新しい時代に適応しなければならないということです。

しかし、このような悲観的なエネルギーの未来予測には、いくつかの根本的な欠陥があります。

今、私たちが経験しているのは「転換(transition)」というよりも、エネルギーシステムのフェーズチェンジをともなう破壊的な変革(disruptive transformation)です。文明が利用できる正味のエネルギーの減少を意味するのではなく、このフェーズチェンジを最適に進めれば、逆に安価でクリーンなエネルギーを生み出すことができることが、説得力のある科学的証拠によって確認されています。この可能性の空間は、現在の経済システムの中でこれまでと同じようにビジネスが続くことを意味しません。むしろ、この新しいエネルギーシステムから得られる新たな利益を利用し、最大化し、分配するためには、経済的、社会的、政治的に根本的な変革が必要であり、それが求められているのです。

正味のエネルギー

EROI(Energy Return On Investment)という概念は、エネルギーシステムの効率を理解するための重要な指標となっています。EROI は、ある資源から1単位のエネルギーを取り出すために、どれだけのエネルギーが使われたかを示す単純な比率です。EROI を正確に評価し、正確な数値を導き出すには、エネルギーの入出力をどこでどのように測定するかなど、資源に関する正しい仮定を立てることが課題となります。

EROI は、エネルギーを取り出すために使われたエネルギー以外に、社会が利用できる「正味のエネルギー(net energy)」の量を知る上で重要な指標となります。EROI が高ければ高いほど、他の社会的・経済的活動を支える余剰の正味エネルギーが多くなります。しかし、比率が低ければ低いほど、後者が少なくなります。EROI の低下は、経済の衰退を意味します。

現在、世界の化石燃料エネルギーシステムの EROI は数十年前から低下しており、その結果、回復の見込みがない収穫逓減の悪循環に陥っていることを示す、説得力のある科学文献が存在します。

出典:Court and Fizaine, Ecological Economics (2017)

しかし、化石燃料では EROI の低下は避けられないが、再生可能エネルギーではさらに EROI が低下するため、同じレベルの社会的・経済的複雑さを達成することはできないという意見がよく聞かれます。

しかし、この見解は、リーズ大学のポール・ブロックウェイ教授が主導し、Nature Energy 誌に掲載された最新の研究で大きく覆されました。この研究では、化石燃料が「手に入りにくく」なっていることから、「採掘にはより多くのエネルギーが必要となり、その結果、「エネルギーコスト」が上昇している」としています。この研究では、化石燃料の EROI が一般的に大幅に過大評価されていることを指摘しています。これは、化石燃料の EROI が、エネルギーが電気やガソリンとして経済に入るもっとも関連性の高い時点ではなく、坑口で測定されているためです。この研究では、化石燃料の EROI は、「非常に低く、6:1程度で低下している」と結論づけています。過去25年間ですでに10%以上も低下しています。

この論文の2つ目の重要な結論は、適切に測定された場合、再生可能エネルギーは化石燃料よりもすでに高い EROI を持っているように見えるということです。ほとんどの化石燃料の EROI 研究は、間違った段階でおこなわれているため、すぐに電気を生み出す風力発電や太陽光発電と直接比較することはできません。また、化石燃料はコストが上昇してリターンが減少する EROI の低下傾向を示していますが、風力・太陽光は逆にリターンが上昇してコストが減少する EROI の上昇傾向を示しています。したがって、ブロックウェイらは「再生可能エネルギーへの移行は、最終エネルギー段階での世界的な EROI の低下を実際に食い止める、あるいは逆転させる可能性がある」と結論づけています。

Nature Energy 誌での研究結果は、RethinkX が最近おこなった LCOE(Levelized Cost of Electricity)の研究でも裏付けられています。LCOE とは、発電所の建設費や運転費を含む、発電所の全寿命期間における平均的な発電コストのことです。RethinkX の研究結果から、国際エネルギー機関(IEA)や米国エネルギー情報局(EIA)による従来の LCOE 推定値は、石炭、ガス、大規模水力発電のキロワット時あたりのコストを最大400%も過小評価していることがわかりました。これは EROI が一般的に考えられているよりも大幅に低いことを示唆しています。

一方で、従来の LCOE の数値でも、太陽光・風力・蓄電池(Solar, Wind and Battery, SWB)はすでに化石燃料と同等のレベルに達しているとされていましたが、今回の RethinkX の研究結果では、SWB はすでにはるかに安価であり、より高い EROI で一致しています。

従来の考え方の欠陥

ブロックウェイ論文の結果にもかかわらず、再生可能エネルギーが化石燃料に比べて EROI を大幅に低下させるという考えは、根強い誤解であり、他の多くの研究でも、これらの技術を理解していないことが主な原因で、同じ間違いを何度も繰り返す傾向にあります。

このような間違いは、マイケル・ムーア監督の有名な長編ドキュメンタリー映画『Planet of the Humans』をはじめ、さまざまなところで見られます。最近では、フィンランドの地質調査所がこのような誤りを繰り返した論文を発表し、Energies 誌にも掲載されています。

しかし、これらのアプローチには大きな問題があります。特に問題なのは、ソーラーパネルの寿命が20〜30年程度であるという点です。そのため、従来の保守的な太陽電池の EROI 計算では、スイスなどでは10:1程度になってしまいます。これは、ブロックウェイらが実証した化石燃料の6:1よりもすでに高い値です。

しかし、ここでの仮定は全くの誤りです。ソーラーパネルは、20年、30年経っても自然発火することはありません。むしろ、効率は1年ごとにごくわずかずつ低下していきます。つまり、20年経っても、ほとんどのソーラーパネルは90%の性能を維持しているということです。このことから、ソーラーパネルの寿命は30年を超えて何十年も続く可能性があり、それ以上ではないにしても40~50年は続くと考えられ、効率は徐々に低下していきます。ということは、10:1という数字も低すぎるし、最低でも20:1くらいにはなると考えられます。

同様に、インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究によると、風力タービンの寿命は少なくとも25年、最近製造されたタービンではそれ以上になる可能性が高いとされています。現在、風力発電のもっとも重要な設計部品である変圧器、銅製のアースケーブル、それらが設置されているタワーなどは、50年以上の寿命があります。特にこれらの技術が性能を向上させ続けることで、再び高い EROI 値への軌道に乗ってきます。

また、太陽光や風力によるエネルギーの回収は驚異的で、化石燃料のカーボンフットプリントに比べ、後者が炭素回収・貯留を含んでいたとしても数分の1で済みます。2017年に Nature Energy 誌に掲載された研究によると、太陽光と風力の生涯カーボンフットプリントは、製造や建設を含めて石炭やガスの約20分の1であることがわかりました。また、太陽光と風力の設備は、建設に使われたエネルギーのそれぞれ26倍と44倍のエネルギーを生み出します。

誤解されている蓄電池の方程式

これまでの研究は、太陽光や風力が化石燃料を1対1で代替するかのように比較してきました。しかし、これらの研究の多くが持つ、もうひとつの根本的な誤りが明らかになります。エネルギーのディスラプションは、同じ構造を持つエネルギーシステム内での1対1の代替ではなく、構造全体を根本的に変革するものです。

その一例として、影響力のある多くのモデルでは、蓄電池の役割を組み込むと、太陽光発電や風力発電の EROI が低下します。これはもちろん、太陽が常に輝いているわけではなく、風が常に吹いているわけでもないという「間欠性(intermittency)」の問題を解決するために必要なことです。太陽光発電や風力発電に蓄電池を追加することで、発電中にエネルギーを回収し、発電していないときにエネルギーを供給することができます。そのため、クリーンエネルギーを「抑制(curtail)」する必要性を解決することができます(つまり、エネルギーをうまく伝送できないときに、エネルギー出力を意図的に減らすことができるのです)。

線形分析では、蓄電池の製造と設置に必要な追加のエネルギー入力を考慮して、同じエネルギー出力を得るためにはより多くのエネルギーを投入することになり、全体としては EROI が低くなると結論づけています。しかし、この結論は、太陽光発電・風力発電・蓄電池の3つのシステムが最適に設計されているかどうかという狭い範囲のアプローチに基づいた、答えの半分に過ぎません。EROI 値を構成要素ごとにバラバラに計算し、それを線形に集約しているため、このようなシステムがどの程度の余剰エネルギーを生み出すことができるかを十分に認識していません。実際に、太陽光発電・風力発電・蓄電池のシステムがどのように機能するかを反映していないのです。

ウォータールー大学の科学者たちが、再生可能エネルギー発電所の実際のデータを調査して独自の分析を試みたところ、太陽光発電所や風力発電所の EROI を低下させるどころか、リチウムイオン電池を追加することで、本来なら抑制によって失われるエネルギーをシステムに利用できるようになり、EROI が向上することがわかりました。「リチウムイオン電池は、風力発電所と太陽光発電所の EROI を向上させることがわかりました」 — これは、系統への送電線を改善することで、さらに向上させることができます。

しかし、この研究は、都市、地域、国家全体での太陽光・風力・蓄電池の運用状況を見るのではなく、単一の「再生可能エネルギー発電所(renewable energy farms)」の研究に焦点を当てていたため、狭すぎました。その結果、ほとんどのアナリストは、より広い規模での太陽光・風力・蓄電池システムの正味のシステム的利益を無視し、システム内での蓄電池の役割を過大評価しているため、SWB システムの潜在的な EROI をさらに過小評価することになります。SWB システムは、単に化石燃料プラントを置き換えるだけではなく、新しいエネルギーシステムアーキテクチャを生み出すものであり、それ自体を理解する必要があります。そのため、世界の再生可能エネルギーシステムの EROI が化石燃料のそれよりも縮小すると日常的に想定している研究は、リンゴとオレンジを比較しているようなものです。

新しい、より良い、より大きなシステム

2019年の One Earth 誌に掲載された文献の大規模なレビューでは、このように、太陽光・風力・蓄電池に世界的にシフトしても、EROI はまったく低下しないと結論づけています。この研究では、悲観的な見方は「エネルギー転換の短期的な過渡的傾向(太陽光と風力が石炭に取って代わる、バイオ燃料が石油に取って代わる)」を前方に外挿する直線的な方法論に大きく基づいており、「安価な太陽光発電と風力発電の大量導入に基づくエネルギーシステム」の可能性を十分に反映していないと指摘しています。

例えば、この論文では、どのモデルでもほとんど考慮されていないシナリオを指摘しています。「化石燃料のバックアップを必要とする断続性の問題は、太陽光発電と風力発電を大幅に増強し、断続的な電気の過剰供給を燃料に転換することで、好転させることができる。」

この方法では、必要以上に太陽光や風力を建設し、余剰エネルギーを他の用途に利用するシステムを導入することで、蓄電の必要性を減らし、より多くのエネルギーを利用できるようになります。この場合、新しいエネルギーシステムを使って合成燃料をクリーンに生成し、それを特定の分野に展開することが提案されていますが、これはひとつの選択肢に過ぎません。One Earth シナリオでは、新しいクリーンエネルギーシステムの EROI は10:1程度であり、現在の化石燃料システムと劇的には変わらないように見えます。しかし、このシナリオはあまりにも保守的であり、大量導入と規模の経済性によるクリーンエネルギーのディスラプションがもたらすシステム全体の変革を過小評価しています。このようなシステム変革は、単一の発電所を個別に見る場合には現れないものです。

RethinkX のレポート「エネルギー再考2020〜2030:100%太陽光・風力・蓄電池は、はじまりに過ぎない(Rethinking Energy 2020-2030: 100% Solar, Wind and Batteries is Just the Beginning)」によると、冬のもっとも暗い日にエネルギーを供給するためには、太陽光発電と風力発電の大幅な過剰生産能力を構築する必要があります。この場合、既存の化石燃料システムよりも大量のエネルギーを生産し、電池の必要性ははるかに低くなります。太陽が出ず、風も吹かないときに、24時間365日電力を供給するように設計された100% SWB システムは、従来の想定よりも5倍ほど大きくなりますが、その結果、冬の需要をすべて賄うことができ、必要な蓄電池の量は30〜40分の1になります。

このレポートの「クリーンエネルギーUカーブ(Clean Energy U-Curve)」は、蓄電池と太陽光・風力発電のコストの関係を図示したもので、この組み合わせがもっとも最適で、コストが低く、導入が早くて簡単であることを示しています。この曲線を地域ごとに適用することで、最適な導入方法を具体的に決めることができます。この SWB システムは、1年のほとんどの日に、ゼロに近い限界費用で大量の電力を発電します。このエネルギーを無駄にするのではなく、活用することで、この安価な余剰エネルギーをどのように分配し、新たな用途に活用するかというイノベーションのためのまったく新しい可能性が生まれます。レポートによると、新しいクリーンエネルギーシステムは、既存の化石燃料システムの3倍のエネルギーを生成することができ、その多くは1年のほとんどの日に無料で利用できると言われています。

化石燃料を中心とした既存の送電網が制約となるという前提は、ディスラプションがどのように作用するかという現実を見落としています。自動車は、道路がまったくないためにユビキタス化が妨げられたのではなく、新たな交通網の出現に拍車をかけました。同様に、コンピュータやスマートフォンは、固定電話を破壊し、インターネットへの進化に拍車をかけました。同様に、1年のほとんどの期間、無料に近い電力を大量に発電できる能力に代表される新たな可能性の空間は、送電網をより大きく、柔軟で多様な能力を備えたシステムへと進化・変換させる動機付けとなり、それを加速させます。RethinkX では、新しいクリーンエネルギーシステムが切り拓く画期的な可能性空間を「スーパーパワー(Super Power)」と表現しています。それは、化石燃料中心の既存のビジネスモデルを破壊する一方で、多大な価値創造の可能性を秘めたまったく新しいビジネスモデルを可能にするからです。

RethinkX のモデリングは、他の研究者の研究成果を参考にしています。例えば、コロンビア大学のマーク・ペレスは、太陽光や風力の過剰な発電能力を3倍に増強すると、蓄電池の必要性が劇的に減るだけでなく、電力コストが75%も低下し、間欠性の問題も解消されることを明らかにしました。ペレスのチームは、ミネソタ州を例にして別の研究をおこないました。その結果、太陽光発電と風力発電を過剰に建設すると、季節ごとの蓄電のためのバッテリー投入量が90%も減少することがわかりました。世界的なエネルギー企業であるバルチラ社も同様に、太陽光と風力をピーク負荷の4倍に増強した場合、季節的な蓄電は必要なく、4〜10日分の複数日分の蓄電容量があればよく、もっともコストのかからないシステムになるとしています。

これらの研究は、EROI を劇的に低下させる蓄電池の役割に関する従来の仮定が、最適な太陽光・風力・バッテリーの配置がどのようなものであるかについての古い理解に基づいていることを示しています。それでも、彼らは、この3~4倍の余剰電力を抑制するのではなく、系統にアクセスできるようにシステムを設計するという「スーパーパワー」の意味を十分に理解していませんでした。

では、このエネルギーシステムの出力は、地球規模ではどのようになるのでしょうか。このようなシステムはまだ構築されていないため、その有効な数値を導き出すことは、本質的に理論的なものであるため困難です。また、正しい数値を導き出すためには、このような新しいクリーンエネルギーシステムのまったく新しい特性を把握できない、縦割りの直線的なアプローチの落とし穴を避ける必要があります。

しかし、そのような試みが、スイス連邦材料科学技術研究所の科学者たちによっておこなわれました。Energies 誌に掲載された彼らの研究によると、現在の世界のエネルギー需要は年間6.7テラワット(TW)の発電電力量に相当しますが、もっとも保守的なシナリオでは、建築物に集中して太陽光発電を建設した場合、現在の消費量の3倍以上に相当する22TWの電力を発電することができるとしており、RethinkX の研究結果を裏付けるものとなっています。

しかし、この数字は可能性のほんの一例に過ぎません。このシナリオには風力発電は含まれていないし、世界でもっとも日射量の多い地域(砂漠の一部)の可能性も考慮されていません。もっとも楽観的なシナリオとして、こうした地域からの太陽光も利用して送電するグローバルシステムでは、現在の10倍にあたる71TWの発電が可能になるとしています。また、この驚異的な結論は、風力発電の可能性を考慮していないため、保守的なものとなっていますが、この数字にはさらに桁違いの効果が期待できます。

つまり、新しいグローバルなクリーンエネルギーシステムは、現在では考えられないレベルのエネルギーを社会に供給することができることを、入手可能なもっとも確かなデータが裏付けているということです。それなのに、私たちはその可能性を過小評価しているのではないでしょうか。

それは、太陽光・風力・蓄電池を、性能が一定に保たれている静的な技術と考えてしまうことです。しかし、これは事実に反しています。化石燃料の採掘産業は、収益の減少、性能の低下、コストの上昇という死のスパイラルに陥っています。それに対して、太陽光・風力・蓄電池は、リターンが増加し、性能が飛躍的に向上し、コストが飛躍的に低下する破壊的なテクノロジーです。

2017年、スタンフォード大学の科学者は、太陽光の EROI がアリゾナ州では27と高く、アラスカのような日照時間の少ない地域でも14と高いことを発見しました。自家消費のために蓄電池を追加しても EROI は20%しか減らないため、アラスカのような場所での太陽光発電システムの EROI は11程度、アリゾナでは22程度となります。しかし、抑制を避けるためにシステムに蓄電池を追加すると、全体の EROI が12〜42%向上することが分かりました。この研究では、蓄電池の貢献度を下げ、余剰エネルギーを系統にフィードバックする能力を最大化することで、より高い EROI レベルを実現できると結論づけています。

実際、Renewable and Sustainable Energy Reviews 誌に掲載された太陽光発電の EROI 研究のメタ分析によると、EROI の最低値は9:1(ブロックウェイの化石燃料の6:1よりもすでに高い)、最高値はテルル化カドミウムを使用したパネルの34:1と、ばらつきが見られました。低い値になったのは、主に古い設備を取り入れたためです。石炭の歴史的な EROI の最大値が約80と推定されていることを考えると、この研究の結論は注目に値します。「この論文で議論されている効率と埋め込みエネルギーの改善ポテンシャルに基づけば、PVテクノロジーは将来的に石炭の最大 EROI に追いつく可能性が高い」

そのため、太陽光発電の EROI が60:1を超えるという研究結果が出ているのも不思議ではありません。

数十種類の技術で経験的に検証されているライツの法則や、RethinkX の Seba Technology Disruption Framework に基づく予測によると、SWB は継続的に性能を向上させながら、約10年以内にコストを10倍低下させる方向にあります。2021年9月に発表されたオックスフォード大学新経済思想研究所の研究でも、RethinkX の結果を裏付けるように、現在のペースでのコスト削減は少なくとも15年は続くとされています。つまり、現在のテクノロジーに基づいて検証された評価からすると、2030年には10倍という桁違いの改善をもたらす可能性があるということです。

この改善の原動力となるのは、EROI のインプットとアウトプットです。技術の向上、生産方法の改善、規模の経済による生産効率の向上により、ソーラーパネルの製造に必要なエネルギー投入量は減少します。それにともなって、太陽エネルギーを電気に変換するパネルの性能も向上し、出力も増加していきます。投入エネルギーが減り、出力エネルギーが増えることで、EROI はますます向上していきます。

現在のデータは、このような展開を示しています。米国エネルギー省の Solar Futures Study は、可能性を保守的に評価した上で「太陽光発電の効率、生涯エネルギー収量、コストの改善」を続けると、「2030年までに太陽光発電のエネルギーコストを60%削減する」ことが可能になると想定しています。同時に、太陽光発電はすでに効率が飛躍的に向上しており、数十年かけて以前の何倍もの電力をパネルで発電できるようになっています。1955年の初期パネルの効率は2%でしたが、1985年には14%となり、1955年と比べて600%のエネルギーを生み出すことができるようになりました。その後、平均で約22%まで上昇し、1985年と比較して57%多くエネルギーを生み出しています。現在も改良が続けられており、新たな技術革新により27.3%の効率が見込まれています。風力発電や蓄電池にも同様の改善傾向が見られます。このような傾向から、太陽光・風力・蓄電池の EROI は今後も改善されていくと考えるのが妥当でしょう。

これらのことから、最適に展開された世界のクリーンエネルギーシステムの EROI は、既存の化石燃料システムよりも桁違いに高くなり、最適に展開された国や地域の再生可能エネルギー発電所では100:1を超える可能性もあると考えられます。 One Earth 誌での 10:1という保守的な EROI 推定値は、2030年までに継続的に性能を向上させた新しいグローバルなクリーンエネルギーシステムの予想 EROI を過小評価していると結論づけることは十分に可能です。しかし、これはまだローエンドのシナリオです。現在の太陽光発電の EROI 値が約30:1、あるいは上述のように60:1であるとすれば、性能向上の累積120%によって、適切に設計されたクリーンエネルギーシステムの10年後の EROI 値が66:1、あるいは132:1になることを期待するのは不合理ではありません。2040年には、さらに研究開発を進めることで、さらに上昇する可能性があります。

つまり、太陽光・風力・蓄電池をベースにしたクリーンエネルギーのディスラプションは、これまでにない新しいエネルギーシステムへのブレークスルーとなる可能性を秘めているということです。これにより、人類はエネルギー需要を持続的に満たすことができるだけでなく、現在のシステムで莫大なエネルギーコストと環境コストを発生させている膨大な公共サービスを電気で賄うことができるようになります。

RethinkX の新しいレポート「気候変動再考(Rethinking Climate Change)」では、廃水処理からリサイクル、鉱業から製造業まで、膨大な数の産業やセクターが電化されることで、クリーンエネルギーによる電力供給が可能になることを実証しています。つまり、新しいシステムが生み出す膨大な「スーパーパワー」によって、これまでは考えられなかった方法で、循環型経済に必要な大規模な新しい産業プロセスをクリーンに維持することがはじめて可能になるのです。新システムにおける「スーパーパワー」は、新システムの中で、その構成技術を持続的に維持・交換することを可能にします。

既存のシステムにおいても、重要な鉱物の需要が増えれば、リサイクルの需要が高まり、規模の経済性とコスト削減が進むことは想像に難くありません。しかし、新しいクリーンエネルギーシステムでは、「スーパーパワー」によって、古いパラダイムでは不可能だったリサイクルが、商業的にも技術的にも効率的になります。SWB システムのための採掘と製造は、新システムで生成される膨大な量の安価な電力のおかげで、すべて持続可能なものとなります。

同じように、クリーンエネルギーのディスラプションが加速する一方で、電気自動車(EV)、A-EV(自律走行型EV)、TaaS(輸送サービス化)、PFCA(精密醗酵・細胞農業)などのディスラプションが、輸送や食品の分野で絡み合っていくでしょう。これらのディスラプションが複合的かつ連鎖的に作用することで、私たちが選択すれば、これまで考えられていたよりもはるかに早く(2035年までに90%)、二酸化炭素の排出量を削減することが可能になります。さらに、これまで化石燃料システムでは持続不可能で、商業的にも自滅していたさまざまな二酸化炭素排出メカニズムを、豊富なクリーン電力に基づいて経済的かつ実現可能なものにし、数十億エーカーの土地を解放することで、大規模な受動的森林再生、能動的森林再生、再野生化、保全を大規模に可能にします。

ディスラプションがシステムを変える|出典:Rethinking Climate Change(2021)

新しいクリーンエネルギーシステムでは、資源の主要な「ストック」を無限の再生可能資源である太陽光や風力に移し、エネルギー生産に必要なエネルギーや労働力の投入量を1年の大半にわたって限界費用ゼロにまで劇的に削減します。これにより、化石燃料システムでは考えられなかったほど、エネルギーの「フロー」を社会に開放することができます。このシステムを利用して循環型ダイナミズムの中に原材料のフローを閉じることで、システムのマテリアルフットプリントを継続的に拡大することなく、エネルギー生成量を最大化することができるようになります。その結果、新しいエネルギーシステムは、物質的なフットプリントを際限なく拡大するのではなく、地球を再生する新しい方法を支えることができる、新しいかたちの繁栄と価値創造の機会を人類に初めて提供することができます。

しかし、このシステムは自動的にやってくるものではありません。社会や意思決定者は、来るべき可能性の空間を理解し、そこに到達するために正しい選択をする必要があります。新しいシステムは、これまで通りの経済、中央集権的なエネルギー事業、旧来のヒエラルキー的なエネルギー産業の伝統的な指標の継続とは相容れません。最適な展開をするためには、社会組織、信念、価値観、考え方などのシステム全体を見直す必要があります。いま、正しい選択をしなければ、これまでの文明のように、自ら招いた危機のパーフェクトストームの中で、文明が崩壊してしまうかもしれません。

しかし、もし成功すれば、文明、人類、そしてすべての種のために、巨大な新しい可能性の空間を作り出すことができるでしょう。化石燃料の時代を後にして、私たちはエネルギーの豊かさ、経済の繁栄、生態系の回復という前代未聞の新しい時代を迎えることができるのです。しかし、目的地を見ようとしないのであれば、そこに到達することはできません。選ぶのは本当に私たちです

この記事は2021年10月10日に修正され、将来のもっともらしい EROI シナリオの詳細が記載されました。

著者:ナフィーズ・アーメド(Nafeez Ahmed)RethinkX 編集者

元記事:RethinkDisruption “Unimaginable Clean Energy Abundance Could Be Ours – Ending the Age of Resource Scarcity Part 2” October 6, 2021. RethinkX の許可のもと、ISEPによる翻訳