Thomas Gerke

Energiewendeからの正しい教訓の導き方

2014年12月17日

マンハッタン研究所のメンバーが執筆した論文が「ドイツの失敗したエネルギー政策」から学ぶことがあると、影響力をもって主張しています。残念ながら、著者の分析にはいくつかの間違いがあり、それゆえに彼の結論の土台が弱まっています。

Economics21のサイト上でJared Meyer氏はドイツの事例からアメリカに向けていくつかの結論を導き出そうとしています。

彼の主な論点は「ドイツの経験は、脱炭素・脱原子力のエネルギー政策が電力の値上げを引き起こし、持続不可能であることを示している」というものです。しかし、その結論に至る分析には不注意による間違いが多くあり、結論の土台が弱まっています。

まず、些細なところでは「ドイツの経済相と副首相が、スウェーデン政府に(Vattenfall社に対してドイツ国内での石炭火力発電から身を引くことを求めた)決断を再考するよう強要している」というものです。これは実際には一人の人物を二人として扱っており、このFinancial Times の記事で明らかにされているようにSigmar Gabriel氏は経済相であり、副首相でもあります。

次に、彼は「‘環境に配慮した国’を追求する中で、ドイツが石炭電力に大きく依存しているのは驚きである」と分析しています。しかし、むしろドイツが多くの石炭電力を消費することはあらかじめわかっていたことです。ドイツは再生可能エネルギー、天然ガス、石炭に国を託すことで原子力を段階的に減らしています。再生可能エネルギーは原子力削減の埋め合わせ以上に導入されています。その他にも、ドイツの電力市場はメリットオーダー(発電コストが安い順)をベースにしているため、何が消費されるかは限界費用(主に燃料コスト)によって決まります。ドイツにはほとんど天然ガスがなく、ガス電力を使おうとすれば、世界最大の埋蔵量がある国内の褐炭から発電するよりも多額の費用をかけて輸入することになるのです。もしドイツに石炭ではなく天然ガスがあれば、石炭よりも天然ガスが燃やされていたことでしょう。

さらに、著者が石炭発電を論じるとき、彼は短期的な時間軸に重点を置き過ぎているようです。今年、ドイツでの石炭発電の消費量は減少しており、2019年まで減少し続ける可能性があります。原子力の段階的廃止最終フェーズ(2021〜2022)に反発があるものの、2023年から激減し始めます。

アメリカとドイツの石炭発電の傾向(正味発電量TWh)

Thomas Gerke
Thomas Gerke

次の文章では複数の物事を1つにしています:「グリーンエネルギーは高価で、信頼性が低い。ドイツの国内光熱費はEUの平均よりも50%高い。」ドイツの光熱費はEUの平均よりも高くありません。残念ながら、この記事には証拠を示す参照リンクがないのですが、私の見るところ、著者は価格と月々の料金を混同しているようです − 驚いたことに、これは専門家ではない人やジャーナリストに共通しておこる間違いなのです(エネルギー分析家だったら言い訳が許されないと私は思います)。例えば、Financial Times の最近の記事 で「イギリスの光熱費は実は西ヨーロッパの大部分よりかなり低い」と主張していますが、それはフィンランドのVaasaEttによる価格に関する調査を参照しており、料金に関するものではありません(同じ間違いをBBCもしています)。

ここでいくつか区別すべきことがあります。まず、電気とエネルギーです。ドイツは小売電気料金がヨーロッパで2番目に高いものの、エネルギーにかかる費用は取り立てるほどのものではありません。例えば、ドイツの家庭の暖房の約半分が天然ガスによるものですが、ヨーロッパにおけるドイツの小売天然ガス代金は極めて安く抑えられています。

可処分所得に占めるガス消費支出の割合(2012年)

VaasaEtt
VaasaEtt

VaasaEttは、光熱費を家計支出の一部として表しているだけで、ドイツの成績は決して悪くありません(下のグラフを参照)。同様に、ドイツの平均的な電気料金はひと月に80ユーロであり、現在の約100ドルに相当します − アメリカにとってはさして取り立てるほどもないレベルです。

可処分所得に占める電力消費支出の割合(2012年)

VaasaEtt
VaasaEtt

Meyerは従来型発電施設の増減の繰り返しを「エネルギーを無駄使いし、二酸化炭素の排出量増加につながる」と言っています。しかし、1kWhを生み出すときの石炭の消費量は減少しており、これはドイツの石炭発電所の効率性が悪くなるのはなく、良くなっていることを意味しています。

さらに、著者は分析者として驚くべき間違いをしています:「平準化した風力発電のコストは1メガワットあたり64ドルから175ドルになるだろう。」平準化したエネルギーコスト(LCOE, Levelized Cost of Energy)はメガワットではなく、メガワット時(MWh)で表されるものです。幸い、今回は著者が情報源のリンクを提示しており、そこでさらなる取り違えが分かりました。この分析家は初期投資コストだけを扱っていたのです。風力発電では運営とメンテナンスコストは低く、燃料費もかかりません(風が燃料となります)。したがって、陸上の風力発電は1メガワット時あたり80.3USドルと記載され、従来型石炭発電の95.6USドルや「次世代原子力発電」の96.1USドルを大幅に下回ります。(単なる「原子力発電」についての数値はありませんでした)

これらの間違いからいくつかの結論が導き出せます:

  • 何よりもまず、リンクを提示すること。私たちは誰でも間違いを、特に不注意による間違いを犯すことがあります(Gabriel氏を二人の人と言っていたように)。しかし、情報源にリンクを貼ることで読者は主張を確認し、生じうる混乱を解決することができます。ここでは著者がエネルギーと電気、価格と料金(価格と消費量を掛け合わせたもの)、あるいはその両方を取り違えているのを知ることはできません。しかし、この記事はその内容から明らかに間違っています。
  • 読者がコメントするフォーラムを提供すること。私たちの主張は世間の厳しい審判に耐えなければなりません。Economics21のウェブサイトにはコメントのセクションがないようです。
  • 長期的な傾向は一時的な上昇よりも重要です。2012年と2013年に石炭発電の消費量と炭素排出量は少しだけ増加しましたが、その傾向は今年逆転しています。福島において「放射線による死亡は確認されていない」というのが時期尚早であるのと同じことです。
  • 専門的なエネルギー分析では、測定できない主張は控えること。この記事には証拠が提示されていない記述が含まれています:「ドイツは原子力発電の安全性に対する懸念に激しい過剰反応をしている」「原子力… それはまだ幼年期にある」「再生可能エネルギーに大騒ぎする人たち」。記事に含まれる証拠に基づいた結論が多くなるほど、専門的な分析からプロパガンダを取り除くことができるようになります。

クレイグ・モリス / @PPchef

元記事:Renewables International How to draw the right lessons from the Energiewende(2014年12月12月2日掲載)著者許諾のもとISEPによる翻訳

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