日本の電力技術は遅れている、と言うべき日が来た

2014年12月16日に行われた経済産業省新エネルギー小委員会第3回系統ワーキンググループ(以下系統WG)で電力7社からの算定結果が提出され、「接続可能量」や拡大方策が言及されました。この算定結果は12月18日に行われた第8回新エネルギー小委員会においても審議され、「接続可能量」という用語も単なる電力事業者の提案ではなく、国のお墨付きが与えられた正式な用語としていつのまにか定着してしまったようです。本コラムでも過去3回に亘って「接続保留」問題を取り上げてきましたが、今回もその続編という位置づけで、系統WGおよび新エネ小委員会資料についてコメントします1

結論から先に言うと、第3回系統WGで電力各社から提出された資料は、大きな失望を隠せない内容でした。失望の主な理由は、あまりに志の低い数値だけでなく、電力会社の情報収集能力の低さや国際感覚の欠如が感じ取れたからです。筆者は以前のコラム

「国レベルのWGで公に接続可能量を設定したり追認することには、筆者は強い懸念を覚えます。なぜならば、再エネの接続可能量が公に設定され、仮にそれが現状の技術や制度の元で想定できる保守的で志の低い数値に設定されてしまうと(そうならないことを祈ります)、再エネをさらに受け入れるために送電会社が本来行うべき技術革新や制度変更へのインセンティブが萎む可能性があるからです。」

と懸念を表明していましたが、それが本当に現実になってしまいました。これらの資料を読むと率直に、日本の電力技術は遅れている、と言わざるを得ません。しかも先進国の中ではもはやビリの方に近いかも知れません。他国と先頭集団となって一緒に走っているつもりかもしれませんが、実は周回遅れだったりします。

このように言うと、「何を馬鹿な!日本は世界に冠たる停電率の低さを誇っているではないか!」という反論が容易に聞こえてくるでしょう。もちろん、それはその通りです。しかし、「電力の安定供給」さえしていればそれで安泰、という時代は実はもうとっくの昔に終わっています。高スペック高価格で、気がつけば世界市場でずるずるとシェアを下げているメイド・イン・ジャパンの製品群を見れば明らかなように、昔の成功体験だけでは生き残れません。欧州や北米で今起こっていることは、「電力の安定供給はあたりまえ。それプラスアルファ何ができるか?」です。そしてそのプラスアルファの部分が再生可能エネルギーの大量導入であり、これは紛れもない世界的潮流なのです。

電力各社が示したもの

さて実際に、系統WGの資料を見て行きたいと思います。表1は事務局(経産省)が取りまとめた各社の「接続可能量」とその「拡大方策」です。いろいろとツッコミどころは満載ですが、本コラムでは取り急ぎ、

      1. 接続可能量の設定とその数値の低さについて
      2. 2σを用いた確率論的手法について
      3. 柔軟性(を言及していないこと)について

の3点に絞って議論して行きたいと思います。

まず接続可能量ですが、この概念自体の是非は後述するとして、各社が示した数値が如何に低いかを見て行きたいと思います。北海道、東北、九州の3社に絞って議論をするとして、現在FIT認定済みの太陽光の設備容量はそれぞれ約300万kW、1,000万kW、1,800万kWとなっています。それに対し、各社が主張する接続可能量(表1)は、いずれも判で押したようにその半分程度の117万kW、552万kW、817万kWしかありません。「拡大方策」と称するいくつかの試みを勘案したとしてもその増加分はわずかであり、認定済み容量には到底到達しません。これはあまりに志の低い主張としか言いようがありません。

表1. 各社の接続可能量と拡大方策

世界に通用しない「接続可能量」という概念

そもそも素朴な指摘として、系統WGの指示を受けて電力各社が行う系統解析は、太陽光の出力抑制がどの程度発生するか?を算出するためのものだったはずです。しかし、結果的に(というか最初から)あたかも「接続可能量」という技術的導入限界があるかのような議論にすり替えられています。本来、再エネの発電超過があったとしても出力抑制をすれば特段の制限なく再エネ電源の接続を受け入れることは技術的に可能です(仮に上限があるとすれば経済的・経営的な問題によるものです)。しかしなぜか日本ではどのようなルールで出力抑制を行うかという「出口論」ではなく、再エネを接続できるか否かという「入口論」にいつのまにか議論がすり替わっています。既に出発点からして、国際感覚の欠如感が濃厚に漂います。

以前のコラムでも述べた通り、「接続可能量」なる用語や概念で再生可能エネルギー電源の技術的導入限界(キャップ)を定めている国は事実上ありません。そのような中で日本だけが接続可能量というものを公的に発表するということは、国際的な基準で見れば、「我々は技術力がないのでこの程度しか再エネを受け入れられません。ごめんなさい」と白旗を挙げているようなものなのです。少なくとも海外からはそのように見られることになるでしょう。

実は、同様の議論は欧州でもありました。ただしそれは昔の話です。日本語で読めるわかり易い資料として、例えば文献[1]のような資料を挙げておきます。これは2009年3月の時点での欧州の電力系統の視察団のレポートですが、「昔の話」として大変興味深い情報が掲載されています。例えば同資料のp.19に見られるように欧州の送電会社が「再エネ系統連系」「系統アクセスの開放」「電力融通の自由化」という3つの政策を同時に満たすことが困難でSOSの悲鳴を挙げている!というストーリーが紹介されています。日本ではこの資料が結構頻繁に紹介されているようで、現在でも未だにこの話を持ち出す人もいるほどです。

しかし実は、ここでSOSの悲鳴を挙げていたVattenfall Europe社やE-On Netz社といった旧電力会社系の送電会社は、この視察団のすぐ後の2010年に他社に買収され、現在は再エネ導入に積極的な会社に生まれ変わっています。筆者も新しい会社を訪問したときにこの資料を見せたところ、彼らは「あー、それは昔の会社の時代だね。今の我々は違うよ」と鼻で笑っていました。今や欧州の送電会社は、再エネの託送料金で利益を上げるなど、ビジネスになるのでむしろ再エネの受け入れに積極的なのです。「できません、ごめんなさい」と言っていた会社は市場から撤退を余儀なくされ、「我々だったらできる」という会社に取って変わられています。

さらにこの間、欧州では規制機関も進化し、欧州エネルギー規制協力庁 (ACER) というEU全体の強力な独立規制機関が同じく2010年に設立されています。規制機関は「電力の安定供給はあたりまえ。それを維持しながら再エネをもっと入れなさい」と電力セクターを厳しく監督します。この電力の安定供給と再エネ大量導入の両者を満足するのは確かにちょっと大変です。しかし多少無理難題を言った方がイノベーションは生まれます。なぜならエンジニアはプライドがありますから。「やってみせます」というのがエンジニアの矜持なはずです。

日本の外では時代は完全に変わっているのです。そして多くの日本人が(一般の方々だけでなく、マスコミも政策決定者も、そして専門家でさえも)それに気がついていないのかもしれません。

国際的議論から乖離した計算方法

もうひとつ、世界の潮流から乖離した例を挙げたいと思います。電力7社の解析を詳しく見て行くと、いずれも太陽光や風力発電の出力を模擬するために「2σ」という確率論的手法を用いています(図1)。実はこの確率論的手法は、まったく国際的には推奨されていません。

例えば筆者も専門委員として参加しているIEA Wind Task25(国際エネルギー機関風力実施協定第25部会:風力発電大量導入のための電力系統の設計と運用)では、「過去に実際に生じた系統負荷および負荷予測を用いた負荷変動との組み合わせによる風力の変動性の検証」をはっきり謳っています[2]。つまり、風力発電や太陽光発電の出力を模擬する場合は、確率論的手法などで恣意的に合成してはならず、過去数年分の実際の需要や風力・太陽光の実績値の同時刻時系列データを用いなければなりません。

図1.「2σ」を用いた太陽光出力の過剰評価

したがって、このように「2σ」を使った時点で、その計算は「信用性が極めて乏しい」結果であると言わざるを得ません。確率論的手法を用いると太陽光や風力の実際の変動を再現できないだけでなく、その変動が意図的に過剰に評価される可能性が高く、これでは「太陽光や風力は入りません」という結果を導くのは当然といえば当然です。これは国際的に全く推奨されない方法です。

国際的には、10年以上前から「グリッドスタディ」と呼ばれる電力系統全体のシミュレーションが各国で精力的に行われており、風力や太陽光発電がどれだけ大量に導入できるかについて議論が行われています。文献[2]ではこれまで各国で行われてきたグリッドスタディの解析条件などが詳細に比較されていますが(同文献p.87〜89の表22)、この表に載せられるだけのきちんとした系統解析は日本からまだ出すことができていません。日本は欧州の諸研究から10年経ってもまだグリッドスタディと呼べるレベルに達していない状態なのです。

一方、今回の系統WG資料の中で、少しだけ光明が見えたものがありました。事務局(経産省)が提出した各社算定結果の一覧で、過去の実績データに基づき試算した出力抑制率(kWhで評価した割合)が提示されています(表2参照。赤枠の部分でなく「抑制率」の欄に注目)。この手法こそが本来国際的に推奨される解析手法であり、こちらの方がより信頼できる結果です(さらに言うと、WWFジャパンが公表した試算結果[3]もこの方法に準じており、解析精度が荒いながらも信頼性のある結果となっています)。

表2の結果を見ると、太陽光の抑制率は最悪のケースでも6%となります。これが今回の系統WG資料の中の唯一最大の成果だと見ることができるでしょう。それなにの何故わざわざ「30日ルール」や「60日ルール」を設定して「接続可能量」なる導入限界を設定しなければいけないのでしょうか? 合理的な理由は(少なくともこの資料を英訳して国際社会に胸を張って主張できるような要素は)どこにもありません。

表2. 実績値に基づいて試算した出力抑制日数

IEA Wind Task25の推奨によると、この過去の実績データに基づいた試算結果は、より理想的には10年分行うことが望ましいとされています。また、過去の気象データを用いて手持ちの出力予測ツールで風力・太陽光の出力を予測して、実績値との誤差を検証することも望ましいと推奨されています。上記の表1は言わば誤差ゼロのケースですが、実際に予測ツールを用いると予測誤差が発生し、その分出力抑制率も若干上昇する可能性があります。一方、上記の抑制率は既存連系線の活用や電力市場(特に短時間市場)の利用などの工夫により、どんどん下げられる可能性も出てきます。風力発電の導入率が20%を越すスペインでも抑制率は1%未満です。これが世界レベルです。ここからも、接続可能量を決める技術的根拠は最初から存在しない、ということがわかります。

国際社会に胸を張れる提案を

最後に、「柔軟性」について指摘したいと思います。既に述べた通り、今や再エネ系統連系の国際的議論はこの柔軟性に集まっています。電力系統の柔軟性とは、再生可能エネルギーの大量導入を可能とするための電力系統の調整力を指し、火力だけでなく水力発電や揚水発電、連系線利用、デマンドレスポンスなどさまざまなツールをどのように工夫して使っていくかです。このキーワードは今やIEAなど国際的権威のある機関が取り上げるほどの重要な案件となっていますが、今回の電力各社から提案された「拡大方策」はいずれもこの柔軟性の拡大についてほとんど全く触れられておらず、この点も国際的な議論からの乖離が垣間みられます。

しかし、筆者は日本の電力技術がこの程度のレベルだとは思っていません。日本は「もの作り」の国ですので要素技術はすばらしいものをたくさん持っています。どの会社やどの組織の中にも、国際感覚を身につけた専門家や将来を見渡せる人材、プライドを持ったエンジニアはいるはずです。そのような人たちの声が大きくなり、「いや、再エネはもっと入りますよ。入れてみせますよ」という声が大きくなれば電力業界も変わるはずです。もし「日本の電力技術は遅れている」と言われてカチンときた方は、是非、「我々ならやってみせます!」と言って頂きたいです。欧州にくらべ10年遅れている日本の再エネの状況を5年あるいはもっと早期に巻き返し、さらにその上を行く成長を見せれば、それこそ世界に冠たる日本の電力技術が胸を張って自慢できる日が来ることでしょう。

注1   本稿は、「環境ビジネスオンライン」2014年12月22日号に掲載されたコラム『日本の電力技術は遅れている、と言うべき日が来た』を加筆修正し構成に変更を加えたものです。原稿転載をご快諾頂いた環境ビジネスオンライン編集部に篤く御礼申し上げます。

参考文献

[1] 経済産業省: 新エネルギー大量導入時の系統安定化に向けた取り組みに関する欧州現地調査概要

[2] 国際エネルギー機関風力実施協定第25分科会 (IEA Wind Task25): 第1期最終報告書「風力発電が大量に導入された電力系統の設計と運用」, 日本電機工業会 (2012)

[3] WWFジャパン:「脱炭素社会に向けたエネルギーシナリオ提案〈電力系統編〉補論「検証:自然エネルギー接続保留に関する定量的分析」 (2014)