実況統計は推測による見積もりに過ぎない

2015年2月16日

ある読者が、EEX Transparencyのウェブサイトの数値とAgoraによる可視化の数値に違いがあると指摘してくれました。今日は、どうしてこのような違いが起きるのかについてお話しましょう。

ポール・ニュー(Paul Neau)氏は、フランスの再生可能エネルギーと環境に関するコンサルティング会社「Abies」の創設者です。最近彼から私に送られてきたメッセージに、EEX Transparencyのウェブサイトによれば、2014年12月23日午前11時の風力発電の出力は28.2GWだったとありました。

EEX DE:AT
EEX

ただ、この数値はオーストリアを加えたPhelix Zoneというグリッドゾーンの数値です。オーストリア内の発電分を除けば、EEXの示す風力発電の出力は27.0GWになります。

EEX
EEX

一方、同時刻にAgoraでは31.6GWを示しています。

Agora Energiewende
Agora Energiewende

4.6GWまたは約6分の1 - これは非常に大きな違いです。どうしてこれほど大きな違いが起きるのでしょう。

ニュー氏への私からの回答は、まず、EEXは法律で定められている最低限のデータのみを公表しているにすぎない、ということです。このデータは、系統運営会社から提供されており、ウェブサイトでも述べているように、従来型の発電設備は定格出力が100MW以上のもののみカウントされており、風力発電や太陽光発電も全てをカウントしているわけではありません。ただし、AgoraもEEXのデータを用いています。

このことに詳しい私の同僚のThomas Gerkeは、背景資料(PDFはドイツ語のみのようです)でAgoraはEEXのデータがAGEB1の公式統計(こちらは実況値は提供していません)による2014年前半の風力発電の発電量のわずか85.2%しかカバーしておらず、Agoraでは補正係数として1.17を採用している、と説明しています。つまり、EEXの数値を6分の1だけかさ上げしているのです。この仮定では大雑把な近似値にしかなりませんが、それでも年ごとに異なる値が採用されています。例えば、2013年の補正係数は1.13でした。興味深いことに太陽光発電についてはEEXは2014年前半の総発電量の98.4%をカバーしているため、補正の必要はありません。

見たところ、バイオマスの実況値は入手できないようです。ただし、専門家はバイオマスは固定価格買取制度による補助を受けているために市場取引による価格シグナルには反応せず、通常はベースロードレベルで運転していると考えています。そのため、発電量の実況値は単純に設置済み容量から逆算しています。

褐炭と原子力については、これらのシステムの多くは大型設備なので、EEXのカバー率は非常に高くなっています。2014年前半は、褐炭については96.2%(少数ですが、褐炭タイプの小型コジェネレーションシステムがあります)、原子力については99.2%(丸め誤差によると思われます)のカバー率でした。しかし、石炭は大きく状況が異なり、2014年前半のカバー率はわずか67%です。これは、ドイツ国内に明らかに多くの石炭タイプの比較的小型のコジェネレーションシステムがあることを示しています。

EEX Transparencyのウェブサイトによる天然ガス由来の電力のカバー率がわずか17.3%というのはどうしたことでしょう。Agoraの背景資料でもこの点について、コジェネレーションと純粋に発電だけ行う設備を区別することの問題点を指摘しています。この点は文書全体で議論されています。

その他にも実況データを推定しているウェブサイトがいくつかあり、例えばSMAによる太陽光発電の発電量の可視化もその1つです。このインバーターメーカーは、ドイツ中にある多くの同社のシステムの発電量データを集計し、自社のマーケットシェアに基づいて国全体の評価を推定しています。

さらに、フラウンホーファー太陽エネルギー研究所(ISE)による素晴らしい可視化があります。そこでは以下のように説明がされています。

「欧州エネルギー取引所(EEX)のデータは、全ての発電所のデータをカバーしているわけではありません。そのため、電力の1時間値に月の補正係数を掛けあわせており、補正後の値が表示されています。」

個別の補正係数については詳細な説明がありませんが、フラウンホーファーISEではAgoraのそれとはかなり異なる数字を用いているようです。少なくともこれで、私が以前に言及したこの2つのウェブサイトの違いが説明できるでしょう。

最後に、私たちはこれらの発電量の実況値が経験から導かれた推測であるという事実を受け入れる必要があります。

ついでながら、EEXは最近オランダとベルギーのデータも追加しました。この数値が何をもとにしているかは分かりませんが、現時点ではかなり非現実的な数値と言わざるを得ません。

クレイグ・モリス@PPchef

翻訳註1:ドイツのエネルギー統計を管理している社団法人(AG Energiebilanzen e.V.

元記事:Renewables International, Live stats are just guesstimates(2015年1月13日)ISEPによる翻訳

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