自然エネルギーを「選べる」社会へ

2015年4月15日

日本の環境エネルギー政策は、「過ち」を繰り返し、「矛盾」を積み上げてきた。3.11東京電力福島第一原発事故は、その日本のエネルギー政策の「過ち」が積もりに積もった一つの帰結といえるだろう。

軽んじられた安全規制や核廃棄物問題、意味もなく続けられる核燃料サイクルなどさまざまな「宿題」が置き去りになり積み重なってきた原子力はいうまでもなく、ドイツなど海外に大きく後れを取った自然エネルギーの普及拡大、「世界一の省エネ国」と空威張りするものの内実は断熱もないお粗末な建築物群。気候変動(地球温暖化)問題に至っては、石炭火力を大増設する逆行政策を推し進めながら、国民に対しては原発推進のための「脅し」に使われる状況にある。今や日本の環境エネルギー政策は、少なくとも私の目から見れば、「おもちゃ箱」をひっくり返したように、取り散らかった無残な光景が広がっている。

こうした状況は、歴史や社会構造・産業構造を含むさまざまな要因が積み重なった帰結であるだけでなく、その混乱が現在進行形で繰り広げられている状況でもあるのだが、すべてに通底しているのは、お粗末なまでの「デモクラシー」の欠落である。

この連載では、3.11後のさまざまな断面で「今」起きている話題や「事件」を取り上げ、その背景にある日本のエネルギー政策の同時代史を振り返りながら、どこに岐路がありどこで間違ったのかをあぶり出すことで、混迷を深める日本の環境エネルギー政策の「ディスコース」(軌跡)の軌道修正を図る一助としたい。

第1回は、電力小売り自由化の流れのなかで浮かび上がってきた「自然エネルギーの表示」あるいは「自然エネルギー選択」の問題を取り上げる。

「自然エネルギー表示問題」の構図

いよいよ来年には電力小売り自由化、つまり誰でも電力会社を選べるようになる予定だ。それに備えて、原発の電気を買いたくない人に自然エネルギーを届けようと、電力会社を準備している会社や生協もある。

ところがここに来て、自然エネルギーの電気だと言って売ってはならない、自然エネルギーも原発の電気も石炭火力の電気もどれも同じものとして扱うという制度を国(経産省)が作ろうとしている。

なぜか。経産省事務方の説明は次のとおりだ。「『再エネの付加価値』はそれを負担する全需要家に帰属する。したがって再エネ電気であることを付加価値とした説明をし販売することは認めるべきではない」(総合資源エネルギー調査会電力システム改革小委員会第9回制度設計WG)という理屈だ。

おまけに、自然エネルギーが薄く広く溶け込むなら原発も同じだとして、原発の電気だという表示もしない方向のようだ。こうして、自然エネルギーが選べないだけでなく、「味噌」(自然エネルギー)も「糞」(原発や石炭火力)もごちゃ混ぜの電力市場になる恐れが出てきている。

これに対して、消費者団体や新しく電力市場に参入しようとしている事業者は反発している。経産省事務方の考え方には少しばかり無理や矛盾があり、そうした反発は当然といえよう。以下、解説する。

混同される再エネ表示と付加価値

第一のポイントは、再エネ表示と付加価値との関係だ。「再エネ電気であることを付加価値とした説明をし販売すること」という経産省事務方の説明では、付加価値と説明(表示)が一体として扱われているのだが、ここは少していねいに見る必要がある。

「再エネ表示」については、食品や化粧品の内容表示と同じように、欧州では2001年の欧州指令 [1] に基づいて、「発電源証明」(GoO)が各国の法律で決められている。この各国の法令にもとづいて、欧州の電力会社は、大手も小さな自然エネルギー電力会社も、消費者に対して自らの電気の表示をしている(参考図)。たとえば日本とほぼ同じ固定価格買取制度(EEG)を持つドイツでは、EEGによる自然エネルギーとそうでない自然エネルギーを区分して表示しており、もちろん原発、石炭、天然ガスなどの内訳も表示している(参考図1および2)。

参考図1. ドイツ・シェーナウ電力が需要家に説明している電源表示

SchoenauRE

参考図2. ドイツ・エーオン社が需要家に説明している電源表示

E.ON電源

「再エネ電気である付加価値」とは何か

さて、「再エネ電気である付加価値」とは何だろうか。地球温暖化防止のために削減が求められている二酸化炭素を削減する価値、大気汚染物資を削減する価値、エネルギー自給率を高める価値、地域の自立を高める価値など、いろいろ考えられる。

その中で、経産省事務方の説明にある「費用負担する全需要家に帰属する価値」に絞って考えれば、「付加価値」が指すものは「二酸化炭素を削減する価値」と考えて良いだろう。実際に、経産省の買取制度小委報告書 [2] で「負担に応じて全需要家に環境価値が分配・調整されるという扱いとすることが適当」と定め、それを根拠として「小売事業者に割り当てられるFIT電気のCO2ゼロ価値(実排出量のみならず、調整後排出量でもCO2排出量ゼロといえる価値)は、実際の調達量にかかわらず、全国平均分の調達量に限られる」としている [3] 。つまり、全体で均一に薄めるということだ。

この点は後で考察するとして、つまり政府も「再エネ電気である付加価値」=環境価値=CO2排出削減価値と、自明のように考えているわけだ。

となると、ポイントは、「再エネ電気である付加価値」と「その説明・販売」との関係にある。つまり、「再エネ電気だ」という説明や表示、販売をすると、「再エネ電気である付加価値」=環境価値=CO2排出削減価値が購入した人に移転するのだろうか。

そういわれれば当たり前のように思われるが、ここは立ち止まって考える必要がある。

説明や表示に「追加性」はない

逆に、原発や石炭の「説明」(表示)を考えてみよう。原発の電気や石炭の電気だという「説明」を受けたからといって、その放射能・核のゴミやCO2排出を受け取らなければならないのだろうか。確かに部分的な責任はあるかもしれないが、釈然としない。

これは、原発や石炭の「説明」(表示)をすることは電気を売る側の「説明責任」であって、その「付加価値」を需要家が受け取るかどうかは別であり、あくまで「表示」は表示、「付加価値」は付加価値として別ものである、と考えた方がすっきりする。

本題に入ろう。「購入した人に環境価値が移転する」かどうかを見極めるキーワードは、「追加性」である。「追加性」とは、環境分野で確立されてきた概念の一つで、「その環境価値」の取引が無かった場合には「その環境設備」ができなかったであろうと考えられるもので、「その環境価値取引」が「その環境設備」のプロジェクト資金の主要な要素であること、ととりあえずは定義できるだろう。ここで言う「環境価値」には、クリーン開発メカニズムクレジット(CDMクレジット)や J-クレジット(国内排出量削減クレジット)、そして日本でも筆者自身が創設に携わったグリーン電力証書などがある。

実例を見てみよう。欧州では電力取引や電気の小売りの際に、発電源証明(GoO)の「説明」(表示)が法律によって義務づけられているのは説明したとおりだ。その発電源証明(GoO)の「説明」(表示)を受けた需要家が「再エネ電気である付加価値」、すなわち環境価値を得ているのだろうか。答えはノーである。「再エネ電気である説明(表示)」と「再エネ電気である付加価値」は切り離して考えられているのだ [4] 。発電源証明(GoO)は、たんに発電源を表示するものであり、「未だかつて『追加性』があると考えられたことはない」と断言されているほどだ [5]

「再エネ電気であることを付加価値とした説明をし販売すること」とした経産省事務方は、この切り分けを見逃してしまったわけだ。

「自然エネルギー100%電力会社」のための提案

FIT法で作られた自然エネルギーのCO2ゼロ価値は、すでに見てきたとおり、広く薄く全ての電力需要家に薄められると、国は整理している。この整理は制度的に見て「間違い」ではない。しかし、もう一段深く考えると、今の国の整理では、FIT法の負担と付加価値との関係の考察や検討が不十分なため「小さな矛盾」が生まれるのだ。

FIT法では、毎年下がってきた太陽光発電の買取価格で明らかなように、発電コストに応じて買取価格が引き下げられてゆく。その買取価格のうち、電力会社が負担する「回避可能原価」(平均的な発電原価)を除いた金額を全需要家が負担することになり、最終的には自然エネルギー発電が回避可能原価で発電できるまで価格が下がってゆき、やがては全需要家の追加的な負担がゼロになることが想定された制度である。

したがって、今の国の整理によれば、FIT法で作られた自然エネルギーのCO2ゼロ価値は買取価格(自然エネルギー発電コスト)の低下とともに下がってゆき、最後はゼロになることを意味する。発電コストが下がればCO2ゼロ価値は下がるのだろうか?そして最後はCO2ゼロ価値はなくなるのだろうか?ここに「小さな矛盾」がある。

この「小さな矛盾」を解決するカギは、「追加性」や「FIT法の本質」にある。

「FIT法の本質」とは何か。小規模分散型の自然エネルギーは、とくに太陽光発電や風力発電では明らかなように、普及すればするほどコストが下がってゆき、最後は回避可能原価まで下がる。この時点を「(正味の)グリッドパリティ」と呼ぶ。純国産エネルギーであり唯一の持続可能なエネルギーである自然エネルギーが、そのグリッドパリティまで下がるまでの過渡期を国民負担で支えるのが「FIT法の本質」である。

それを踏まえれば、自然エネルギーのCO2ゼロ価値を買い取る「追加性のある環境価値」は、FIT法と切り分けた方が矛盾がなくなる。その「追加性のある環境価値」は、まずは自然エネルギー発電事業者に帰属し、FIT電気を買い取る小売り電気事業者へ移転することとすればよい。今の固定価格買い取り制度と整合性を取るなら、大半の買い手である一般電気事業者がデフォルトとして最低引き取り価格を国内外のCO2クレジット価格と同水準で定めておけばよい。さらに、自然エネルギー発電事業者が任意に「グリーン電力証書」として切り離して売れることとすれば、さまざまなかたちで自然エネルギーを選ぶ市場が生まれるであろう。

具体的には、今の「回避可能原価+FIT法(環境価値を含む)の「二階建て」ではなく、「回避可能原価+FIT法+環境価値(追加性)」の「三階建て」を提案するものだ(参考図、下表)。こうすることで、本来的には削減義務のない家庭需要家の負担が下がるというメリットがあり、追加性のある環境価値(CO2ゼロ価値)は本来的に削減義務を負う電気事業者や大規模需要家が負担することになので、追加性から見ても妥当な制度設計となる。

電力会社は自ら売る電気に説明責任を持ち、消費者は電力会社だけでなく電気も選べる権利がある、そういう制度設計を望みたいものだ。

表1. FIT法「二階建て」から「三階建て」への提案(数字は太陽光発電の買取価格での例示、円/kW時)

FIT法「二階建て」から「三階建て」への提案

参考図2. FIT法「二階建て」から「三階建て」への提案

三階建て論

[1] 欧州指令(The Directive on Electricity Production from Renewable Energy Sources, 2001/77/EC), http://europa.eu/legislation_summaries/energy/renewable_energy/l27035_en.htm

[2] 平成23年2月18日、総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会・電気事業分科会買取制度小委

[3] 平成27年2月13日、環境省・経産省「温対法に基づく事業者別排出係数の算出方法等に係る検討会」(第10回)『料金メニューに応じたCO2排出係数の検討について』(温対法に基づく事業者別排出係数の算出方法等に係る検討会事務局)

[4] Samantha Olz et al., “Report on the Interaction of Green Power Labelling with Renewable Energy Policies” (WP5 DRAFT report from the CLEAN-E project), July 2006

[5] RECS International web http://www.recs.org/faq/general-questions/is-the-guarantee-of-origin-additional-

2015年4月1日 WEBRONZA掲載
2015年4月1日 WEBRONZA掲載
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1959年、山口県生まれ。環境エネルギー政策研究所所長/Energy Democracy編集長。京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻修了。東京大学先端科学技術研究センター博士課程単位取得満期退学。原子力産業や原子力安全規制などに従事後、「原子力ムラ」を脱出して北欧での研究活動や非営利活動を経て環境エネルギー政策研究所(ISEP)を設立し現職。自然エネルギー政策では国内外で第一人者として知られ、先進的かつ現実的な政策提言と積極的な活動や発言により、日本政府や東京都など地方自治体のエネルギー政策に大きな影響力を与えている。

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