ベースロード電源は21世紀にふさわしいか?(その1)

2014年4月に閣議決定された「第4次エネルギー基本計画」(2014)では、草稿段階からの紆余曲折の末、「ベースロード電源」という言葉が明記され、マスコミをはじめ世間の耳目を集めたことは記憶に新しいと思います。それから1年経って、このベースロード電源がまたにわかに議論の俎上に載っているようです。本稿では、この「ベースロード電源」が現在国内外でどのような文脈で語られ、今後21世紀の電力系統の設計と運用を考えて行く際に果たして本当にふさわしいかものか、について論考します1

結論を先取りすると、21世紀も10年少々過ぎた現時点で、世界各国、特に欧州諸国ではベースロード電源は既に消え去りつつある、と言うことができます。実は、ベースロード電源はもう世界では時代遅れになりつつあるのです。本稿では今回から数回に亘って、この「ベースロード電源」なる用語と概念が国内と国外でどれほど乖離したイメージで語られているかについて、具体的なエビデンスを提示しながら述べていくことにします。

そもそもベースロード電源とはなにか

まず、ベースロード (base load) の定義として、海外文献では以下のような定義文を見ることができます。

      • Base Load: The minimum amount of electric power delivered or required over a given period at a constant rate.

(筆者仮訳)一定の比率で所与の期間を通じて供給される、あるいは必要とされる電力の最小の量

これは欧州電力事業者ネットワーク (ENTSO-E) や北米電力信頼度協議会 (NERC) といった欧米の送電会社の協議団体が発行する文書に見られる定義です[1],[2]。かなりシンプルで端的に書かれています。このベースロードを供給する電源が「ベースロード電源」であると言えます。

一方、日本では、「第4次エネルギー基本計画」にベースロード電源に関する記述が見られます[3]。ここでは、ベースロード電源だけでなく、ミドル電源、ピーク電源を含め、下記のように位置づけられています。

      • 発電(運転)コストが、低廉で、安定的に発電することができ、昼夜を問わず継続的に稼働できる電源となる「ベースロード電源」として、地熱、一般水力(流れ込み式)、原子力、石炭。
      • 発電(運転)コストがベースロード電源の次に安価で、電力需要の動向に応じて、出力を機動的に調整できる電源となる「ミドル電源」として、天然ガスなど。
      • 発電(運転)コストは高いが、電力需要の動向に応じて、出力を機動的に調整できる電源となる「ピーク電源」として、石油、揚水式水力など。

日本のエネルギー基本計画では「コストが、低廉で、安定的に」という文言が明記されていますが、海外文書の定義ではこの文言は見られず、単に「一定の比率」「最小の量」とだけ定義されている点に注目すべきです。この日本と海外の定義文の差は、後述するように、そのまま日本と海外におけるベースロード電源の位置づけの違いに反映されることになります。

図1に一般的な電力系統の一日の負荷曲線におけるベース・ミドル・ピーク電源の位置づけを図示します。このような図は電気関係の多くの教科書でもお馴染みであり、実際、筆者も大学の専門課程の授業で、電力工学の基礎としてこのような模式図を教えています。

図1. ベース・ミドル・ピーク電源のイメージ図

筆者作成

(筆者作成)

21世紀におけるベースロード電源の議論

前述のとおり、ベースロードという概念は電力系統を設計・運用するにあたっては電力工学の「基本中の基本」ですが、実はベースロードという概念は21世紀に入ってこの概念はもはや「古典」と言うべきものになりつつあり、その意義や使命も徐々に変遷しつつあると言えます。

ベースロードという従来の電力系統運用上の概念に対して懐疑的な論文や記事は、海外文献では比較的容易に見つけることができます。例えば、ドイツのエネルギーコンサルタントAGORAの報告書[4]では2022年にドイツで予測される電力系統の運用について分析されていますが、ここでは「ベースロードはもはや消え去っている (“Base-Load” power plants disappear altogether)」と明言されています(図2参照)。

図2. ドイツの2022年の系統運用の予測

(出典)AGORA (2013) [4]

(出典)AGORA (2013) [4]

図2は従来の「古典的な」日負荷曲線の模式図(図1)と比較して非常に興味深い特徴を持っています。なぜなら、図1に見るように従来の電源の「積上げ方」は下から順にベース・ミドル・ピークなっていますが、図2では (1) バイオマス、(2) 水力、(3) 陸上風力、(4) 洋上風力、(5) 太陽光、(6) 化石燃料という順になっており、構成もコンセプトも全く異なっているからです。ドイツでは現在、エネルギーヴェンデ(エネルギー転換)がエネルギー政策の第一に据えられていますが、この転換は単にエネルギー供給のみならず電力系統の設計や運用のあり方も転換する必要があるというメッセージとも捉えることができます。

このようなコンセプトは、他の報告書でも見ることができます。例えばグリーンピースの報告書[5]では図3のような将来の負荷曲線の概念図が説明されていますが、この図では、再生可能エネルギー(以下、再エネ)が大量に導入された場合は石炭火力や原子力を硬直的に一定出力することが難しくなり、ベースロードという概念に取って代わる柔軟な系統運用が必要であることが示唆されています。

図3. 将来の電源構成の変遷

(出典)Greenpeace (2012) [5]

(出典)Greenpeace (2012) [5]

図3を詳しく見ていきましょう。図(a)は従来の電源構成であり図1に相当するものですが、図(b)のように変動する再エネが大量に導入された場合には、ベースロードを優先的に考えると再エネの余剰分を出力抑制(すなわち出力を絞って、本来発電できたエネルギーを廃棄)せざるを得なくなってきます。

一方、図(c)のように再生可能エネルギーを優先すると、今度は従来ベースロードと呼ばれていた電源の方を出力抑制することによって再生可能エネルギーの無駄な廃棄を回避することができ、さらに将来は図(d)のように再エネから順番に電源構成を積上げ、他地域との融通や電力貯蔵、デマンドサイドマネジメントなどを用いて調整することにより(必要があれば化石燃料も援用して)、電力系統を運用するコンセプトとなります。

ちなみに余談ですが、一般に海外の資金力のある非営利団体 (NPO) や非政府組織 (NGO) は、専門家に調査研究を委託して学術的な観点から報告書を作成し、政策提言を行ったりすることが多いです。この報告書には世界風力エネルギー会議 (GWEC) という産業界の団体や電力系統の専門家も執筆に加わっており、単なる政策提言だけではなく専門的な見地からの工学的・技術的分析も含まれているものです。

なお、このグリーンピース報告書は日本語でも要約版[6]が翻訳されていますが、残念ながら図3のコンセプト図は要約版には掲載されていません。筆者の知る限り、この図以上に端的に分かりやすく将来のエネルギー転換を説明している図は見たことないのですが、日本語版には掲載されていないため、多くの日本人が目に触れるチャンスがないのは残念です。したがって、将来の新しい電源構成のコンセプトを描くせっかくの貴重な図がありながら、多くの日本人がこの情報にアクセスできず、「ベースロード電源」以外の選択肢がないかのように思い込まされてしまっています。言語の壁、情報の壁がここにもあります。

世界ではベースロード電源は消えつつある

ここまで紹介したいくつかの文献は将来予測に関するものでしたが、その議論も決して遠い将来を予想した机上の空論ではなく、実はベースロード電源の消滅は、現実の電力系統でも今日既に現在進行形で進みつつあります。以下、各国の実際の電力系統データを元にエビデンスを提示していきたいと思います。

図4および5は、ポルトガルおよびデンマークの系統運用実績の事例です。この2つの国は、ともに原子力発電を持たないことと、風力発電が大量に導入されていることが共通の特徴です。図4は、ポルトガルにおける比較的風が強く需要が少ない時期(クリスマスシーズン)の1週間分の実測データです。風が強くかつ需要が少ない時間帯(12月26日未明や12月28日午前中など)においては、石炭火力発電は出力を非常に絞って部分負荷運転をしていることがわかります。

また、図5はデンマークの風が強い季節(冬季)の1週間分の実測データですが、ここでもやはり強風かつ低需要の時間帯(1月1日〜1月4日未明)は石炭火力の出力を絞って運転していることがわかります。さらに風の弱い時間帯(1月7日日中)は、分散型のコジェネレーションも出力を増して需給調整に参加していることがわかります。

なお、ポルトガルもデンマークも、総発電出力の和と需要曲線が一致しませんが、総発電出力が需要を上回る場合(発電超過時)には国際連系線を利用して隣国へ電力を輸出し、下回る場合は輸入していることを意味します。このように、連系線の利用による電力融通も日常的に需給調整のひとつの手段として大きな役割を担っていることもわかります。このような例を見ると、石炭火力はもはや一定運転ではなく、負荷追従運転をしており、もはやベースロード電源とは到底いえない運用形態になっていることがわかります。

図4. ポルトガルの負荷曲線(2014年12月22〜28日)

(文献 [7] のデータより筆者作成)

(文献 [7] のデータより筆者作成)

図5. デンマークの負荷曲線(2013年1月1日〜7日)

(文献 [8] のデータより筆者作成)

(文献 [8] のデータより筆者作成)

図6はフランスの送電会社 RTE社の総発電電力と原子力発電の総出力の一週間の変化を示したものです。図の下段は個々の原子炉(代表的なもの)の出力を表しています。図からわかる通り、フランスでは平日夜間や休日など主に低需要の時間帯に、頻繁に原子力発電の負荷追従運転を行っています。これは、前述の図3(c)のような運用コンセプトが今日既に実行されていること明確に示していると見ることができます。ただし、フランスの場合は再エネルギーの比率が高いためではなく、原子力発電の総容量(約60 GW)が年間最低負荷(約30 GW)より遥かに高いという、フランス特有の電源構成に起因します。このような原子力発電の負荷追従運転は、再生可能エネルギーの導入が進んでいるドイツでも日常的に行われています。

図6. フランスの原子力発電出力変化(2013年6月3日〜9日)

(文献 [9] のデータより筆者作成)

(文献 [9] のデータより筆者作成)

日本では、原子力発電は常に一定に運転しなければならないという「神話」も根強くあるようですが、このようにフランスやドイツでは原子力発電の動的な出力制御は日常的に行われています。日本もかつて技術的な検討を行った時期もありましたが[10]、住民の反対運動など社会的受容性の問題により、現在はその議論はほとんどタブー化してしまっているようです。筆者は必ずしも日本で原子力の出力制御を行うべしと主張するものではありませんが、純粋に公平公正に海外情報を日本に提供し、さまざまな合理的な選択肢を考慮しながらタブーや聖域のない冷静な議論を行うことができればと考えています。

ベースロード電源消滅の原因は、再エネの大量導入

ここまで見てきた通り、日本では石炭火力発電や原子力発電はできるだけ一定出力を保ち、ベースロード電源として運転することがいわば常識のように考えられていますが、ヨーロッパではその前提は既に現時点で崩れつつあることが各国の実運用データからわかります。その要因としては、図3のコンセプト図で示唆された通り、「再エネの大量導入」が挙げられます。

さて、長くなりそうなので、今回はここまで。次回は何故ベースロード電源が消滅するのかを、経済学的な理論を用いて解明することにします。

注1   本稿は、「環境ビジネスオンライン」2015年4月13日号に掲載されたコラム『ベースロード電源は21世紀にふさわしいか?(その1)』を若干の修正の上、転載したものです。原稿転載をご快諾頂いた環境ビジネスオンライン編集部に篤く御礼申し上げます。

参考文献

[1] ENTSO-E: Definitions and Acronyms (2011)
[2] NERC: Glossary of Terms Used in NERC Reliability Standards, Updated March 3, 2015
[3] エネルギー基本計画 (2014)
[4] AGORA: 12 Insights on Germany’s Energiewende (2013)
[5] Greenpeace: Energy [r]evolution – a sustainable world energy outlook, 4th edition (2012)
[6] グリーンピース:「自然エネルギー革命シナリオ
[7] REN: Daily Statistics, Redes Energéticas Nacionaais (2014)
[8] Energinet.dk (2014) Download of market data
[9] RTE: Customer’s area – Actual generation, Réseau de Transport d’Électriclté (2014)
[10] 原子力百科事典 ATOMICA: 四国電力伊方発電所2号機の出力調整運転試験について, 高度情報科学技術研究機構